唯一無二のリキュール!
追求した「うちだけ」の味わい。
<後編>

PICK UPピックアップ

唯一無二のリキュール!
追求した「うちだけ」の味わい。
<後編>

#Pick up

矢代健一郎さん by「木内酒造合資会社」

「木内の雫」を用い、手塩にかけて造った梅酒、「木内梅酒」を広めるべく、起死回生の策として日本最大の梅酒コンテストに出展することにした矢代健一郎さん。果たして日本酒の杜氏が造った梅酒は、いかに評価されたのか?

文:Ryoko Kuraishi

2009年天満天神梅酒大会で授与された「天下御免」の賞状とともに、飾られた「木内梅酒」。梅酒日本一の証しだ。現在は年間で40,000ℓほどを生産している。

日本ではここだけ、というビール・スピリッツを仕込みに使い、梅処・茨城県産の梅にこだわって作り上げた自信の梅酒、「木内梅酒」。
杜氏である矢代健一郎さんが開発した梅酒は、「常陸野ネストビール」のホワイトエールのハーブとホップの芳しい香り、そして白加賀梅の爽やかな味わいを併せ持つ、まさに極上の味わい。
なのに、売れないのはどうしてか。


「すでに多くの日本酒の蔵元が、日本酒につけこんだ梅酒をリリースしていましたから。
うちの梅酒はスピリッツに漬け込んでいると謳っても、その違いがわかってもらえない。
この梅酒の良さをアピールしても浸透していかないもどかしさがありました」


そんなとき、国内で梅酒のコンテストが開催されていることを偶然、知った。
梅の花咲く大阪天満宮・本宮にて毎年春頃開催されている、「天満天神梅酒大会」がそれだ。
日本全国、各地で造られている秘蔵の梅酒を一堂に揃え、たくさんの来場者にお披露目しようという日本最大の梅酒コンテストである。


出品された梅酒の中から、一般投票により選ばれた12銘柄が最終審査に臨み、16人の審査員によるブラインドテイスティングを経て、日本一の梅酒酒が決まる。
ちなみに今年で6回目を迎えるこの大会、今年は全国から308銘柄が参加したとか。

こちらが2000年にオープンした、日本で唯一の本格派手づくりビール工房。ビールを仕込むための釜が8釜、置かれている。予約制につき、事前にウェブサイトからご予約を。なお、ビール体験と蕎麦ランチをセットで楽しむこともできる。

「2008年のことだったと思いますが、このコンテストの存在を知って、ぜひ翌年の大会に出品しようと思っていました。
が、ちょうど日本酒の醸造が始まってしまって、そうこうするうちに応募用紙を提出することをすっかり忘れてしまいまして」


矢代さんのデスクに置かれた応募フォームをスタッフが見つけて、提出しておいてくれたらしい。
2009年春に開かれた大会には、162銘柄の梅酒がエントリー。
矢代さんの知らぬ間に審査が進み、気がつけば12000票以上もの一般投票により上位12銘柄に選出されていた。
最終審査が行われ、受賞の知らせをもらったのが2月23日のこと。


「いやもう、嬉しかったですね。
酒造りに携わる人間にとっては心底、励みになります。
なによりも一般投票で上位銘柄に選ばれたのが嬉しかった。
うちの梅酒がおいしいと、一般の方が認めてくれたことになりますから。
その日はね、帰宅して家族で祝杯をあげました。
会社では日本酒の出荷に追われていて、祝杯どころではありませんでしたから(笑)」

手づくりビールのラベルはもちろん、オリジナルで!自分のデザインを持ち込んでラベル用紙に印刷してもらえる。

日本一になったことで一躍、その名を知らしめた「木内梅酒」。
出荷量はそれまでの10倍にまで跳ね上がった。
また、それに伴って梅農家からのオファーも殺到したとか。


「実際には他県の梅で仕込んだ方がコストもぐっと下げられるんですが、やはり茨城県産にこだわるのが大前提。
歴史のある酒蔵ですから、木内酒造の名前に誇りを持っているし、県内には長年うちのファンだと言う方も少なくない。
そうした期待を裏切らないよう、『丁寧に作る』。
ただそれだけだと思っています」


全ての工程において、手を抜こうと思えばいくらでも手を抜ける。
どこまで精度を高めていくかは、造り手の思い次第。
手を抜かず、時間をかけて丁寧に。それが自分たちのやりかたです、と矢代さん。


そしてもう一点、木内酒造の酒造りのモットーは「個性」だと話す。


「例えばビール造りにおいてはハーブを使った『ホワイトエール』はもはや木内のスタンダードとも言えますし、古代米を使った個性的な銘柄はアメリカでも好評を博しています。
常陸野ネストがここまで愛されるようになったのは、木内らしい個性をきちんと表現できたことが理由の一つにあるでしょう。
日本酒の場合、ビールのように材料の個性を引き出すというわけにはいかないですが、それでもひと磨きかけて『うちだけ』という味わいを追求したいですね」

3年前には日本酒でも全国新酒鑑評会にて金賞を受賞した。木内酒造を代表する銘柄「菊盛」は芳醇で香り豊かな自信作である。

ところで、この「他にはない」というオリジナリティを追求する姿勢は、取締役である木内敏之さんの影響が大きいという。
ビール醸造を始めたのも木内さんのアイデアだったし、ビール酵母からビール・スピリッツができるかも?と思い至ったのも木内さん。
矢代さんいわく「自分では絶対に思い使いないアイデア」は、木内酒造のブレインである木内さんから生まれるものらしい。


その木内さん、アイデアはどこから生まれて来る?という問いに対し、「人がやったことは絶対に真似しないことです。
たえず人と違ったことを考えています」と即答。


「新しいことをやりたかったら、世界の先進地を見る事です。
日本だけを見ていると日本の常識=世界の非常識になっている事が沢山あるとわかりますから」


木内酒造では10年ほど前から、酒蔵を一般の客に開放して、酒と料理、そしてエンターテインメントの要素を加えた催しを開催している。
「蔵楽々(くらら)の会」と名付けられたこのイベントは毎回、ミュージシャンやシェフなどとっておきのゲストを迎えて催される。
すでに21回を数える人気イベントとして定着したが、もともとは敷地内にレストランをオープンするためのリサーチの一環として、木内さんの指示で始められたものらしい。
誰が、どこから、どうやって足を運んでくるのか。
「蔵楽々(くらら)の会」で得た客足データを基にオープンしたのが、敷地内にある大正蔵を利用した「な嘉屋」なんだとか。

木内酒造にゆかりのあるゲストを招いて開催される酒蔵開放イベント「蔵楽々の会」。ゲストによるパフォーマンスと木内酒造の酒とのコラボレーションが楽しめる。

またレストランオープンの後には、食べることだけではなくビールをもっと楽しんでもらおうという趣旨から「手造りビール工房」をスタート。
ベースとなるビアスタイルやアルコール度数、苦み、好みのホップを選び自分だけのマイ・ビールを造ってもらおうという体験施設だ。
たとえレストランがオープンしても食を主目的にするのではなく、あくまでも酒を主役に据えたという酒蔵らしい発想と言える。


ビジネスマンとして常に、誰も手がけていないこと、やっていないことに挑戦したいという木内さん。
「蒸留所への規制はたくさんありますから、それらを一つ一つクリアにして、海外での販路ももっと広げて行きたい」と国外のマーケットも視野にいれている。


一方、職人として木内さんのアイデアを形にすべく試行錯誤する矢代さんは「日本酒も梅酒も、さらに工夫を重ねてもっと『うちらしい』味わいのものができないか、日々挑戦していきたい」と、さらに精度の高い酒造りにこだわっている。


発想と技のコラボレーションが、「うちだけ」というオリジナルの味わいを醸し出すのだろう。
創業190年を迎え、さらなる進化を遂げていきそうな老舗の酒造り。
木内酒造の次なる一手にますます注目が集まりそうだ。

SHOP INFORMATION

木内酒造合資会社
茨城県那珂市市鴻巣1257
TEL:029-298-0105
URL:http://www.kodawari.cc

SPECIAL FEATURE特別取材