世界が認めたサービスのプロの
おもてなしの真髄とは?
<後編>

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宮崎辰さん by「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」

一流のサービスを目指す中で出会った、人生の師匠ともいうべきメートル ドテル。その出会いにより、宮崎辰さんは次なる挑戦—メートル ドテルのコンクールを目指す。

文:Ryoko Kuraishi

レストランに出かけたとき、最初に出迎えてくれるのがメートル ドテルを含むサービスのスタッフたち。ゲストにしてみれば、これからの数時間への期待が高まる瞬間だ。

「サービス」という世界の深みを、もっと知りたい。
そんなとき、宮崎さんに見えてきた次なる挑戦が、コンクールだった。


「メートル ドテルとして経験を積むうちに、自分の力を試してみたい、他のメートル ドテルがどんな力を持っているか目の当たりにしたいと思うようになりました。
レストランという小さな世界にいたら挑戦できない。
そして自分を磨きあげるためにはあらたな挑戦が必要だ。
そんな風に感じていたんです」


2006年、東京・青山「ピエール・ガ二エール東京」在籍中に、若かりしころより憧れてきたコンクール「メートル・ド・セルヴィス」杯に初めて挑む。
「やるからには勝ちたい!」と臨み、初出場にして準優勝を飾る。
翌々年、2回目のチャレンジでは第3位、そして2010年、3回目の挑戦で見事、優勝を勝ちとった。


国内大会である「メートル・ド・セルヴィス」杯優勝でようやく掴んだ、世界大会「クープ・ジョルジュ・パティスト」への挑戦状。
昨秋に行われた決勝の、審査の模様を振り返ってみよう。


まず、最も重視されるのは「Attitude Professional(プロフェッナルとしての態度)」である。
表情、目線、立ち振る舞いの優雅さが、プロとして求められるのだ。
さらには食材に関する知識の深さと正確さ、下準備から食材の取り扱いかたまでを含めるテクニックの正確さ、作業の手際のよさ、食材の見せ方などプレゼンテーション力、仕上がった料理の味、母国語以外での言語の表現力、時間の正確さ……などなど、給仕に必要なあらゆる要素が細分化され審査される。

テクニックだけでなく演出などのセンスも問われる華麗なフランパージュ。 Photo Art Five

以下は、全9つの課題の一部である。


たとえば「サーモンのタルタル2人前(制限時間10分)」。
作業用のワゴンにて、客前でサーモンの切り身の皮をはぎ、デ(角切り)にする。オリーブオイル、ライム汁、塩、コショウなどで調味し、皿に盛りつける。
作業の優雅さはもちろん、調味具合もポイントだ。
なお、あらかじめコンソールにしつらえられた食材や調味料は、分量ごとに仕分けされていない。全て己の判断で選びとって作業台に揃え、適量をとり、客前で作業をしなくてはならない。


あるいはデザートの「パイナップルのスパイラル(制限時間20分)」
作業台でパイナップルの皮をむき、芽をスパイラル状に取り除く。
スライスして芯を抜いたらキャラメルを作り、ラムでフランベし、2人分をキレイに盛りつける。
早さ、美しさに加え、フランパージュの華麗な演出も重要な審査ポイントだ。


そのほかに子羊の骨付きローストを人数分に均等にカットし、付け合せをバランスよく盛りつけるとか、アイリッシュコーヒーを作る、ワインやアルコールのブラインドティスティング、結婚記念日や葡萄収穫祭(!)、クリスマスなどテーマに沿ったテーブルセッティング、はたまた本物さながらのバーカウンターで「カクテル作成」、なんて課題も。


「すべては、レストランという場で起こりうるあらゆる事態に対処するため。
ソムリエのいないレストランだったらワインを選ぶ、バーテンダーのいない状況だったらカクテルも作る。
万が一、キッチンに人手が足りなかったら調理もしなくちゃいけないんです(笑)」

「クープ・ジョルジュ・パティスト」で一番難しかったと感じた、「オーダーテイク」の課題。「審査の数字間前にメニューを渡されて、そこに原語で書いてある世界各地のメニューを覚えるんです」。4人の審査員を客に見立ててオーダーをとるが「それぞれの料理の内容を説明しながら注文をとるんですが、審査員からは料理にあうワインとか食材、その料理の由来なんかを尋ねられる。フランス語の表現力はもちろん、メニューに知らない単語があってもなんとかコミュニケーションをとらなくちゃならない」。知識と経験、応用力が問われる。 Photo Art Five

もちろん、「もてなす」というシーンにおいては、テクニックや知識を超えたものが必要にある。
そのためにも、場を盛り上げるための情報収集を欠かさない。
宮崎さんは常日頃から料理やワイン、アルコールは言うに及ばず、政治や文化、時事問題までアンテナを張りまくるという。


それでは、サービスを行う側にとって「いいサービス」と自負できるのはどんなサービスなのだろう?
「僕は気遣いのできるサービスだと考えます。
最近、僕の心に残った『いいサービス』は、美容院で受けたサービスでした。
僕はただ、『かっこよくしてください』って担当の方に伝えたんです(笑)。
かっこよくしてくれ、とだけ言われた彼は、僕の仕事も年齢も、普段どんなことをしているかも知っている。
それをふまえた上で、仕事のときはかっちり見えて、休みの日には多少遊べて、かつ、いつもとは少し違ったヘアスタイルに仕上げてくれる。
そういうことを一から十までを説明せずにわかってくれるのは、『いいサービス』と言えるんじゃないでしょうか。
そしてそれは相手を気遣う、相手の気持ちを思い図るというセンスや努力なくしては、なし得ないサービスだと思いますよ」


メートル ドテルに必要なものは気遣い、そして自分の何かを犠牲にして相手を楽しませようという気持ちだという。
宮崎さんいわく、「気遣いがあれば誰でも一流になれる。
気遣いがなければいいサービスマンには決してなれない」。
そして気遣いのレベルをあげるのは経験値、とも。
「若いスタッフには、休日にはぐーたらしていないで外に出かけろ、と言います。
いろいろな人に会って、いろいろなものを見て、聞いて、覚えて、体験して、あるときは大失敗を犯して、そうした経験が余裕を生むんだと思うんです。
自分に余裕がなければ、人を気遣う余裕は生まれませんから」

カクテルの課題のため、1年間、仕事の後に特訓を行ったという。「うちのバーテンダーはもちろん、友人の大竹学さんにもいろいろ教わりました」

そんなサービスのプロを増やしたくって、若いスタッフもびしびし鍛えている。
「たとえば、僕はよく店でつまみ食いをします。
『これ食べていい?』ってスタッフに聞いて、『いいですよ』と言われたらつまみ食いするんですが、やっぱりそこではさっとスプーンを差し出してほしい。
だって、それが気遣いというものでしょう。
僕にさえできなくて、始めてお目にかかるお客様にいいサービスができるでしょうか。


逆に言えば、ここで僕に『気が利く』と思われたら、新しい仕事が増えるかもしれないんです。
つまみ食いというのはプライベートな時間の出来事であって営業時間外と思われるかもしれないけれど、そういう時間さえもサービスのための準備のひとときと捉えてほしい。
僕は特別な場所には特別な人に働いてほしい。
そして最高のサービスの場には、そういう人間に集まっていてもらいたいと思っています」


これからはメートル ドテルという「サービスのプロ」の仕事術を日本にも広めていきたいという。


「23歳でソムリエの資格をとったときに、自分の仕事を『メートル ドテル』と言えなかったことが本当に悔しかった。
『レストラン・サービス・スタッフ』だったんです、当時は。


いまは何をさておいても、シェフやソムリエ、そしてバーテンダーのようにメートル ドテルというプロフェッショナルな仕事を認知させたい。
せっかくこのような大会で優勝することができたのですから、この職業の認知度をあげていきたい。
これからこの道を目指したいと思っている若い世代のためにも、サービスのプロフェッショナルの仕事術を日本に根づかせたいですね」

SHOP INFORMATION

シャトーレストラン ジョエル・ロブション
東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス2F
TEL:03-5424-1347
URL:http://www.robuchon.jp/

SPECIAL FEATURE特別取材