最高のコーヒー体験を伝えたい!
No.1女性バリスタ登場。<後編>

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最高のコーヒー体験を伝えたい!
No.1女性バリスタ登場。<後編>

#Pick up

鈴木樹さん by「丸山珈琲尾山台店」

WBC(ワールド バリスタ チャンピオンシップ)に2年連続で参加したバリスタの鈴木樹さん。そこで感じた日本と世界のバリスタの違い、世界を舞台にしたパフォーマンスで思うこと。

文:Ryoko Kuraishi

2010年JBC、2011年WBC、2011年JBCで使用したコスタリカ・シンリミテス。 実際にシンリミテス農園へ、オーナーのハイメさんを訪ねた。

鈴木樹さんのプレゼンテーションへのこだわりは、普段、店でコーヒーをサーブする際も変わらない。
「この2年間でコスタリカやコロンビア、ニカラグアの農園を訪れる機会に恵まれました。
コーヒー豆の生産国の多くは、みなさんが旅行しやすい場所ではないんです。
バリスタとして訪問したからには、そのコーヒーがどんな場所で、どんな人たちの手によって作られているのか、多くの方に伝えられるようになりたいと思えるようになりました」


ちなみに昨年行われた、WBC2012大会への日本代表を決める国内大会JBCでは、訪問したコスタリカの二つの農園のストーリーをプレゼンテーションした。
それぞれ風土の異なる農園のジオラマを用意、土壌や気候、風土がいかにコーヒー豆の味に違いをもたらすのか、ジャッジが目と舌でその違いを体験できるという試みだ。


豆の数だけキャラクターがある。
道路一本挟んだだけで、全く異なる豆の性格。
それらを知るたびにもっとコーヒーへの愛情が深くなる。もっと知りたくなる。
「私が大会にでるのは、生産者の豆への愛情をコーヒーの奥深さを世界中の人と共有したいから。
少なくとも15分間は、その場にいる全員が私の話に耳を傾けてくれますから(笑)」

昨年のWBCのパフォーマンスで用いたジオラマ。風土により生まれる豆の個性を立体的に表現した。

バーテンダー同様、バリスタも「日本人バリスタは礼儀正しくて技術も正確、ただしプレゼンテーションの段になると自分の感情や想いを伝えるのが苦手」と言われている。
JBCとWBCでは大会のムードも異なるらしい。


「日本の大会はたった一つの座を全員で狙うので、当たり前なんですが雰囲気はとってもシリアス。
逆にWBCは一年に一度のお祭りといった雰囲気で、もちろん緊張はしますが、それよりも久々の再会を喜び合い、初めて会う人とも気さくに声を掛け合うようなムードがあります
そして参加者同士、互いの知識や体験を共有し合いたいという情熱も」


「世界のバリスタはとっても情熱的。いろいろなバックグラウンドがある中で、誰もがコーヒーを愛し、そしてその体験を楽しんでいます。
お客さまをいかに楽しませるか、一杯のコーヒーで幸せな気持ちにできるか、そうした事柄を常に考えているエンターテイナーともいえるでしょう」


鈴木さんもWBCのパフォーマンスに際してはひたすら英語のスピーチの練習を繰り返したが、2回の大会を通じて「ストレートに気持ちを伝えることが大切」と理解したそう。

天日干しで仕上げるナチュラルプロセス。その他ウォッシュド、パルプトナチュラルといった製造工程があり、農園や品種ごとに異なる。

もちろん、スムーズに想いを伝えられればそれに越したことはないが、ソツなくスピーチをこなしてもそこに生の感情がこもっていなければ、ジャッジには何も伝わらない。


「言葉ってコミュニケーションの手段なんですよね。
コミュニケーションで大切なのは、手段よりも自分が伝えたいと思っている感動や物語なんじゃないでしょうか。
そんなことをあらためて思い知らされました。
日本人はどうしもてパフォーマンスに完璧を求めてしまいがちですが、想いを伝えるのであれば完璧さって必要ないんですよね」


WBCの決勝では、優勝したグアテマラ代表のバリスタ、ラウル・ロダス氏の豊かな人間性に感動したという鈴木さん。
「ファイナルでは参加者のテクニック、コーヒーの品質に大きな違いはありません。
何が評価されるかと言えば、ジャッジに『この人をチャンピオンにさせたい』と思わせるオーラや迫力。


優勝したラウルはシッピングのトラブルに遭い、本国から事前に送っていた大会用の荷物が直前まで届かなかったんです。
自分自身が練習する時間もままならないのに常に笑顔を絶やさず、英語が苦手なスペイン語圏のバリスタの通訳をかってでるなど、チャンピオンに相応しい人間性や余裕を備えていたのがラウルでした。
彼と出会えたことがこの大会いちばんの収穫といっても過言ではありません。
チャンピオンになるためにはもっともっと人間性を磨かなくてはと痛感しました」

WBCファイナルにて。真剣な表情で審査を行うジャッジ。

さまざまな出会いや経験を得られたWBCを終え、帰国した鈴木さん。
バリスタとして試してみたいことはまだまだたくさんあるそうだ。
「バーテンダーのようにコーヒーをサーブするグラスにはもっとこだわりたいですね。
グラスによって香りの立ち方や広がり方は全然変わりますから。


それからもちろん、アルコールを使ったオリジナルドリンクを作ってみたい。
大会のシグネチャードリンクではアルコールを使えないんですが、ウイスキーやリキュールなどさまざまなドラマをもつお酒が数多く存在しますから、コーヒーと合わせることで無限の物語が提案できると思うんです。
ベリー系やチョコレート系のリキュールはコーヒーとも香りの相性がよいですし」


女性の世界チャンピオンが誕生するまでは、そして自分の可能性を信じられるうちは大会にも挑戦し続けたいですね。
いろいろな生産国も訪ねてみたいですし、接客や買い付け、焙煎、後輩の育成などコーヒーにまつわるさまざまなことにチャレンジし続けたいです」


最後に質問してみた。
バリスタにとって、いちばん大切な事はなんでしょうか?


「バリスタが味を作るわけではありません。
コーヒー豆が本来持っている味や香りを引き出してあげるだけ。
バリスタにとって必要なのは、コーヒーのベストな状態を追求し続けることだと思います。
コーヒーを味わうって本当に楽しい体験なので、いつまでも『楽しむ』気持ちを持ち続けたいですね」

SHOP INFORMATION

丸山珈琲尾山台店
東京都世田谷区尾山台3-31-1 尾山台ガーディアン101
TEL:03-6805-9975
URL:http://www.maruyamacoffee.com/

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