IBA国際大会でチャンピオン!
もうひとつの顔をもつ理想家。
<後編>

PICK UPピックアップ

IBA国際大会でチャンピオン!
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<後編>

#Pick up

山田高史さん by「Bar Noble」

世界に挑むには何が必要なのか。考え抜いて見つけた答えは「日本人らしさ」だったという。日本人らしい美意識により紡ぎだされたカクテル「グレート・サンライズ」誕生秘話と、ジャパニーズ・バーテンディングへのこだわりに迫る。

文:Ryoko Kuraishi

世界カクテルコンペティションの表彰式にて。

56カ国107名の参加者によって争われた「世界カクテルコンペティション」。
この大会はフレアー部門とクラシック部門に分けて競技が行われる。
さらにクラシック部門は「プレディナー」、「アフターディナー」、「ファンシー」、「ロング」、「スパークリング」の全5部門が各国別で争われる。
どの国がどの部門に出場するかは主催するI.B.A.があらかじめ振り分ける。
日本代表の山田さんは「ファンシー」部門で出場することに。
「『ファンシー』で出場できるのはラッキーだなと思ったんです。
でも……」


この大会では指定されたアイテムを何か一種、必ず使わなければならないというルールがある。
誰がどのリキュールを使うかも、あらかじめ主催者によって指定される。
山田さんに指示されたのは
「マットーニというチェコのスパークリングウォーターでした」


これが難問。
カクテルの材料は6種類までと決められているのに、そのうちの一種がスパークリングウォーターになるのだとしたら……。
いきおい、カクテルは「引き算」の要領で組み立てなくてはならない。
8月にはレシピを提出しなければいけないのに、そもそもそのマットーニが日本で手に入らない。
「なかなかのハンデだなと思いました」と山田さんも苦笑い。
「お客様で海外に行かれる方とか、それから日仏貿易さんに協力していただいて、どうにか入手しました」


こうして出来上がったのがオリジナルカクテル「グレート・サンライズ」。
「昨年、シンガポールで開催された世界大会を視察に行き、全作品をテイスティングしましたから、
味のリサーチというか、どういう方向に作っていくかというコンセプト自体はすでに頭のなかにあったんです。
まず香り。それから味わいの厚み、ボリューム感。
その2点に重きを置いて組み立てていきました」

ファイナリストたちのこだわりのカクテルが一同に。手前が山田さんの「グレート・サンライズ」。桜の形をあしらったリンゴと、日の丸をイメージしたサクランボが彩りを添える。日本の復興に願いをこめ、素晴らしい日の出が日本を照らすことを願ってクリエイトした品。ベストネーミング賞も受賞!

香りは、グラスの上にふわりと広がっていくような華やかなものを。
「日本未入荷ですがエレガントで華やかな『アブソルート・ベリー・アサイー』、これしかないと思いました。
『アブソルート・ベリー・アサイー』にスパークリングウォーター、
そして味に厚みや奥行きを加えるためパッションフルーツピューレと
ピーチツリーをミックス。
2種の異なる香り、フレーバーで立体感を強調しました。


酸味は、通常なら果汁を使うのですが材料の数に限りがあるので
ここはグレープフルーツシロップを使うことで、甘さと酸味を加えて。
サンライズをイメージした黄色は、マンゴーネクタージュースで表現しています」


カクテルのヒントは料理やスイーツから得ることが多いそう。
たとえば、昨年夏にはウォッカトニックに塩をあしらい、ライムの代わりにスダチを合わせた「スダチと塩のカクテル」を店で提案した。
甘みと酸味、ほのかな塩味の立体感が面白いと好評を博したが、
それは寿司屋で思いついたレシピだとか。


いろいろな場面、味、人、ものからヒントを得るべく、常にアンテナを張り巡らしているが、
もちろん、そのための努力も怠らない。
例えば昨年から始めた茶道もその一つ。



Bar Nobleがある伊勢佐木町界隈には個性的なバーがひしめきあう。

茶道を始めたのは世界大会出場のためだったが、実際に茶の心に触れてみて日本人の美意識を痛感した。
「今回はテクニカル賞も受賞しましたが、それはひとえに先輩がたが築きあげた
ジャバニーズ・バーテンディングが評価されたからだと考えています。


日本のオーセンティック・バーの仕事って、他とは明らかに違うもの。
茶道にも通じる、日本人に受け継がれてきた作法の美しさも大きいと思うんですね。
今回は『日本人の』バーテンダーとして世界に挑みたいという気持ちが強くて、
本番では日本人の良さを全面に打ち出すようなパフォーマンスに徹しようと考えました」


山田さんが考える、「ジャパニーズ・バーテンディング」ってどんなものですか?
そう尋ねたらちょっとだけ考え込んで、こんな風に答えてくれた。
「無駄なものを削ぎ落として、究極にミニマライズすること」と。


何年もコンペティションに参加し続け、険しい道を這い上がり、ついに手にした国内優勝。
そしてその先に見つけた、世界の中の「ジャパニーズ・バーテンディング」。
いまの山田さんは以前とは違った気持ちで、緊張やプレッシャーに立ち向かえるようになったという。
それは今までの積み重ね、続けてきた研鑽や練習に意味があると信じられるから。


だから今の目標は、今やっていることを末永く続けること。
「長く店を続け、90歳になってもカウンターに立っていたい。
そのためにはバーテンダーとして今後、どれくらい幅を広げられるかが重要だと思っています。
世界を見たい、未知のものごとを知りたい、新しいことを吸収するために常に動いていたい」


山田さんの「グレート・サンライズ」に欠かせない素材がこちら。左が「アブソルート・ベリー・アサイー」、右がチェコのスパークリングウォーター「マットーニ」。

そしてもう一つ。
バーテンダーを「憧れの職業」にするために始めた、ケータリング会社についても想いは深い。

ケータリング、ビバレッジ・クリエイトにおいては「思い出作り」が企業理念です、と山田さん。
「例えば記念日のためのスペシャルな一杯を提案するとします。
その関係者はそのオリジナルカクテルを口にするたびに、記念日の思い出を鮮やかに思い返すことができるでしょう。
また、そうしたオンリーワンのカクテルを楽しまれた方の間には、そのカクテルを絆とした新たなつながりが生まれるのです」


カクテルはただ飲むだけ、楽しむだけのものではない。
思い出、あるいはつながりという、人生を豊かにするエッセンスの鎖にもなれる。
そうしたカクテルの持つ力や可能性を訴えるために、ケータリング会社を立ち上げたのだそう。


バーテンダーの仕事ぶりを普段、バーとは縁のない人々にも見てもらいたい。
精魂込めて作ったカクテルを味わってもらいたい。
それこそがバーテンダーを「憧れの職業にする」一助だと考えている。

SHOP INFORMATION

Bar Noble
231-0041
横浜市中区吉田町2-7
VALS吉田町1F
TEL:045-243-1673
URL:http://noble-aqua.com

SPECIAL FEATURE特別取材