PICK UPピックアップ
凱旋帰国記念インタビュー!
世界No.1バーマンへの道のり。
<後編>
#Pick up
大竹学さん by「セルリアンタワー東急ホテル タワーズバー「ベロビスト」」
6つのチャレンジの後に行われたブラインド・ティスティング。ジン、ラム、ウイスキー、ウォッカ、テキーラの中から各々好きな種目を選んで挑戦する。大竹さんは参加者の中でただ一人、ウォッカの「シロック」を選択。ちなみに、見事的中。
東京では簡単に見つかるはずの材料が、手に入らない。
おまけに、冷凍庫で保管していたはずの材料がなぜか冷蔵庫に移されて解けかかっている!
尊敬するバーテンダー、上野秀嗣氏がジャッジを務めるチャレンジで
不幸なアクシデントに見舞われてしまった大竹さん。
海外ならではの風土性の違いと、慌ただしい現場ゆえのトラブルではあるが、
そんな状況にあっても臨機応変に対応すべくバーテンダーは知恵を絞る。
もちろん今回のように、そうした試行錯誤が実を結ばないこともあるのだが……。
「そもそも今回は日本から持ち込める材料が限られていて、必然的に現地調達の素材が多かったんです。
レモンもライムもフルーツも、香りや味が日本で手に入るものとはまるっきり違っている。
レシピを変えたり、現地のものに手を加えてアレンジしたり、自分なりの工夫は凝らすんですが……」
この素材の違いに、多かれ少なかれ挑戦者は苦しめられる。
材料の風味の違いからレシピの大幅な手直を余儀なくされることも。
そんなわけで、気を取り直して三日目、
一つ目のチャレンジは現地のマーケットで手に入る食材だけを使ってカクテルを作るという課題、「スパイス・マーケット」。
オリジナリティと柔軟な発想が問われる。
「前日のこともあるし、まさに命運を決するという気持ちで臨みました」
「一つのチャレンジは5、6人が一組となって行われます。
グループ内でのパフォーマンスの順番はくじで決めるのですが、朝イチのパフォーマンスで僕は一番目を引きました。
日本大会でもこの競技は一番目を当てまして、これはラッキーだな、幸先がいいぞ、と」
ここで大竹さんが作ったウイスキー・ベースのカクテル「Highland Concerto」は、
うるさ型で知られるトップ・バーテンダー、サルヴァトーレ・カラブレーゼ氏に
「かつてこのチャレンジに登場したウイスキー・カクテルで最高の出来」とまで言わせしめた。
大竹さんが愛用するバーツールはジャパンメイド、こだわりのゴールドカラー!
大絶賛ですね、大竹さん。
「前日のこともあったので夜中にレシピを組み直して。
朝いちばんのチャレンジだったので、ハーブや素材がフレッシュで生き生きとしていたのも功を奏しました」
前日から一転、一番目にパフォーマンスを行うという幸運を引き寄せ、
運さえも味方につけられたのかもしれない。
続く「カクテルズ・アゲインスト・ザ・クロック」は、
6分という制限時間内に2〜5種のカクテルを作るという課題で、スピードと完成度を競う。
大竹さん自身、「いちばん気持ちよくできたチャンレジ」と振り返る。
「始めは4種のカクテルを作ろうと思って準備していたんですが、土壇場で3種に絞りました。
急いで4つを作り、中途半端なプレゼンテーションで終えるよりも、
ここは日本人らしいエレガントで丁寧かつ確実な仕上がりに徹したくて」
デール・デグロフ審査員が「このチャレンジで、マナブだけが僕の好みを尋ね、それを反映しながら自分のカクテルに仕立てていた。
今までにいなかったタイプの日本人バーテンダーだ」と高く評価。
ゲストの好みを尋ね、3種のカクテルを丁寧に仕上げ、味見をしてサーブする。
普段当たり前のように行っている作業を、一つ一つ丁寧にこなした。
「それが僕なりのポスピタリティだという自負がありましたし、
サーブするからには自分が満足するものを提供したかった」
会期中、会場では華やかなイベントがいくつも催された。こちらは新たにお披露目となったジョニーウォーカー・ブルーラベルの発売記念パーティ。
3つのカクテルの結果は大成功だったが、これには参加者同士の団結力も少なからず関わっている。
「シンガポール代表の江口(明弘)さんは部屋も近いし、よくコミュニケーションをとって情報のやりとりをしていたのですが、
先にこのチャレンジを終えた彼がその様子を教えてくれた。
彼からの情報があったからこそ、4つのカクテルを3つに絞ろうという決断ができたのだと思います」
そして何よりも、日本大会での上野審査員長の批評が
自分の決断やパフォーマンスを後押ししてくれたと感じている。
日本大会で、参加者全員のパフォーマンスに対して上野さんから発せられたのは
「日本のバーテンダーが本来、美徳としてきた繊細さや丁寧な、正確な仕事ぶりをわすれてしまったのではないか」という辛口のコメント。
「世界に対峙するには、まだ乗り越えなくてはいけない壁もある、というアドバイスも頂戴し、
いま一度、自分の有り様を大いに考えさせられました。
やっぱり世界を見てきた人の言葉には重みがあります」
尊敬する上野さんは世界大会でもジャッジを務めた。表彰式でしっかりとハグ!
そして今、コンテストを終え、無事帰国した大竹さん。
10年という歳月を過ごした職場には、彼のカクテルを愛するたくさんの人が電報や花を届けてくれ、お祝いの言葉をかけるために駆けつけてくれたという。
しかし、大竹さんの前には大会以前とは全く異なる世界が広がっている。
「牡蠣を食べにいったらこの殻にはどんなカクテルをいれようか、とか
北海道でジンギスカンを食べたら、この鍋はウイスキーの香りを立たせるのに使えるぞ、とか
周りにあるもの全てがカクテルの材料に見えてしまって。
そして常に、『なぜ、この素材なのか』を考えている。
身に染み付いたバーテンダーの習性、なんでしょうか」
でもこうした訓練が、豊かな表現力や自由なアイデア、柔軟な発想力を育んだのも事実。
「そういったことに加え、やはり世界大会で優勝できたのは、
日本人らしい丁寧で正確な仕事、お客さまを喜ばせたいというホスピタリティ、
そしておいしいものを作りたいという強い信念が評価されたからだと思います。
でも実際に世界を見てみたら、日本のバーシーンにはクローズしていると感じられる部分があるということもわかったし、
世界のトップと謳われていた日本のバーテンディングだって
各国のバーテンダーたちはどんどん吸収して進化していることを感じてしまった。
優勝したのはほんの始まりに過ぎないんです。
高みを見てしまったら、やっぱり世界へ続く扉を開けてみたいし、
その先に何が広がっているのかを見届けたい。
今は日常生活のあらゆるものから刺激を受け、与えられる限りのものを吸収して、
いずれはそれを世界に向けて発信していければと考えています」
カクテルブック。左上は「ディアジオ ワールドクラス」2010年度版のオフィシャルブック。表紙は昨年の優勝者、エリック・ロレンツォ氏。現在、2011年度版を鋭意製作中。ここには優勝後に大竹さんが考案した15のオリジナルカクテルが掲載される予定だ。表紙はもちろん、大竹さん!今秋発売予定。左下「diffordsguide Cocktails 8」は大竹さんに大いに感銘を与えた一冊。500ページの中に2500にも及ぶカクテルレシピが収められている。右の2冊は優勝後、世界大会で出会った仲間からプレゼントされたもの。
最後に、大竹さんに質問。
世界一のバーテンダーになるためには、何が必要ですか?
「バーテンダーも人間です。
カクテルは人が作るものだから、やっぱり人間性が問われると思うんですよ。
だって、どんなに美しくておいしくて、素晴らしいカクテルが飲めると聞いても、
それを作るバーテンダーが傲慢で嫌みな奴だったら誰もそのバーには出かけないでしょう?
まずは人と人とのつながり、それには人間性が重要ですし
そのコミュニケーションツールとして、誰かを喜ばせられる素敵なカクテルがあれば、最高ですよね。
ピーターの言葉じゃないけれど、僕もわざわざ会いに来てもらえるような
そんなバーテンダーになりたいと願っています」
日本と世界の舞台で共に闘った参加者、ときに辛口な、けれど的確な批評をしてくれた審査員、
言葉の壁を取り払うべく通訳を買ってでてくれた大会スタッフ、
大竹さんの手足となってサポートしてくれたインペリアル・ホテルのスタッフたち、
あの場に居合わせた全ての人に、大竹さんはいま、心から感謝している。
SHOP INFORMATION
セルリアンタワー東急ホテル タワーズバー「ベロビスト」 | |
---|---|
150-8512 東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル40階 TEL:03-3476-3000 URL:http://www.ceruleantower-hotel.com |