漫画にドラマに大活躍!
佐々倉溜の知られざる素顔とは?
<後編>

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佐々倉溜の知られざる素顔とは?
<後編>

#Pick up

佐々倉溜さん

その手が生み出すカクテルは「神のグラス」と称される……。
カリスマバーテンダー佐々倉溜に聞くバーテンダーの極意と、その生き方の醍醐味。

文:Kuraishi Ryoko

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」1巻28ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「リキュールの水割りとホットカクテルが流行するといいな」

《DRINK PLANET(以下ドリプラ)》
引き続き、佐々倉さんに一問一答です。

いまお気に入りのカクテル、あるいはリキュールはありますか?その飲み方は?



《佐々倉さん(以下、佐々倉)》
リキュールの水割りとホットカクテルが流行してくれるといいなと思ってます。

あとは、ビター系のリキュールの新しい飲み方があったら教えて欲しいですねぇ。
フェルネ・ブランカをソーダ割り以外でなんとか美味しく飲みたいんですが。


《ドリプラ》
ご存知の方いらしたら、どなたかお教えください!

それでは佐々倉さん、ここからはいくつかプライベートな質問を。
ずばり、好みの女性のタイプは?



《佐々倉》
カウンターに座って、酔って無茶を言わない女性。
……と、多分、全国のバーテンダーさんが思っているんじゃないでしょうか。

それ以外ならもう、どんな女性も天使に見えるはずです。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」9巻114ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「いま、この一瞬のこの一杯を味わい尽くす――。バーはそのためにある」

《ドリプラ》
それでは、次の質問は趣向を変えて。

あなたにとって「英雄」って誰ですか?またはその資質とは?



《佐々倉》
英雄? 
英雄ってヒーローって意味の英雄ですか? 

私と同じ漫画の主人公としては漫画「ONE PIECE(ワンピース)」のルフィで~す――とか言うときっとウケる(これは冗談です)。

英雄は待望しないというのが人生の基本スタンスです。
だって、カウンターで飲んだくれてる英雄なんて想像できます? 

実は英雄が最も人間らしくドラマチックに見えるのは
「自分は決して英雄なんかじゃなかった」と気づく挫折の瞬間ですよね。

「私は英雄」と思ってる英雄は、未だそれに気づかないただの勘違いなアホです。
別に英雄じゃなくても、これはどの職業のどんな人格にもいえることだと思います。

人は負けたときに真価が分かる。
人の最後は必ず負けで終わります。
なぜなら人は老い、人は必ず死ぬから。

どう生きようが、これ以上の真実があるならぜひ教えて欲しいですね。

この間の成功や失敗、英雄だろうが無名の凡人だろうが、
卑怯者だろうが勇者であろうが、すべてただその場の関係で生まれるもの。
いわば幻です。

だからこそ今、この一瞬のこの一杯を味わい尽くす――。
バーはそのためにあると思いたいです。

英雄とは少し異なりますが「師を求めず、師の求めたるところを求めよ」という言葉は正しいと思っています。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」13巻158ページ (c)城アラキ・長友健篩/集英社より

「経験が年齢を経るごとに蓄積され、それが尊敬の対象になる職業、それがバーテンダー」

《ドリプラ》
ははあ、なるほど。深いですね。

そんな人生哲学をお持ちの佐々倉さんにとって、バーテンダーという生きかたの魅力を教えてください。



《佐々倉》
経験が年齢を経るごとに蓄積され、それが尊敬の対象になること。
こういう職業って意外に少ないですよね。

サラリーマンを考えてみてください。
どんなに辣腕なビジネスマンも30年もすればだんだん感覚がずれてきます。
取締役、社長と言われても、尊敬されているかどうかはまた別の話。
尊敬どころか、実際は「老害」なんていわれて迷惑がられているかもしれません。

ではバーテンダーはどうでしょう。

例えば銀座「クール」の古川さん。
古川さんがカウンターに立っているというだけでそこに「クール」という店ができあがる。
引退なさるときは日本中からお客様が集まって道路まであふれて大変でしたよね。

他にも札幌の山崎さんは80歳を超えてまだ現役。

こんな仕事、他にはないですよ。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」13巻186ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「お客様を神さまにしてはいけない」

《ドリプラ》
それではあなたにとって、お客様とはどんな存在なのでしょう。



《佐々倉》 
とりあえず男性のお客様に限りますが……。

とても傷つきやすくて、甘えん坊でそのくせわがまま。
どんな大企業の経営者でも、有名な芸術家でも、バーテンダーが自分以外の客と親しく話しているだけで、
なんとなく面白くないという顔をしますよね。

また、バーテンダーにとって、お客様は自分を映す鏡でもあります。
お客様の反応でその日の自分の体調も分かる。

だからこそ「お客様を神さまにしてはいけない」と言ったことがあります。
お客様を神さまに棚上げすることは、ひとりひとりのお客様をただの「客単価」として見ることですから。

それは自分自身を、ひいてはバーテンダーという仕事自体をつまらなくしてしまいます。


《ドリプラ》 
修行中の若いバーテンダーさんに何か言いたいこと、アドバイスはありますか?



《佐々倉》 
一生のうち、たったの一日だけトレーニングするだけで、ずっと使える技術があるんです。

例えば「字」。
何もちゃんと習字をたしなめとか言うのではなく、数字だけでいい。
たまにありますよね、収入印紙を貼るような金額の領収書に幼稚園児のような数字が並んでいるお店。

1~10まで。壱から拾まで。
こんなこと1日練習すれば上達しますから。

読めりゃ同じ? 
そう考える人はそもそもバーテンダーには向かないと思います。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」13巻70ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「ドアを開けた一人目のお客様を最高の笑顔で迎えれば、今日は最高の一日になる」

《ドリプラ》
バーテンダー佐々倉溜としてこれからやってみたいことは何ですか?



《佐々倉》
「神のグラス」――孤独に傷つき行き場のない魂を救う最後の一杯――をめざすこと。


《ドリプラ》
あなた自身はどんなバーを作ろうと思いますか?
ビジョンがあったら教えてください。



《佐々倉》 
照明、音楽、インテリア、酒の品揃え。
すべてが今までのオーセンティック・バーとしては少しカジュアルな店。
あまり高いチャージ設定をしなくても何とかやりくりできる店がいいと思っています。
バーテンダーというのは、細く長くという仕事ですから。


《ドリプラ》
それでは最後になりました。
全国のバーテンダーの皆さんに対して何かメッセージを。



《佐々倉》
今日もたくさんのお客様が、あなたがカウンターに立つことを待っています。
風邪をひかぬよう体調を整え、ドアを開けた一人目のお客様にニッコリと最高の笑顔を送ってください。
あなたにとってもお客様にとっても、きっと今日は最高の日になるはずです。

いつかどこかのバーで、あなたの一杯を飲めることを楽しみに――。



《ドリプラ》
「バーテンダー」最新刊(18巻)は12月29日に集英社より発売予定です!


(質問は佐々倉溜さんに代わり、原作者である城アラキさんにお答えいただきました)

SPECIAL FEATURE特別取材