祝『バーテンダー』ドラマ化!
あの佐々倉溜がついに登場。
<前編>

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祝『バーテンダー』ドラマ化!
あの佐々倉溜がついに登場。
<前編>

#Pick up

佐々倉溜さん

カクテルを通じて人々の悩みを解決するバーデンター、佐々倉溜。
来春からはテレビドラマに初登場(テレビ朝日系金曜夜11:15~)とノリに乗ってる彼に一問一答方式で独占インタビュー!

文:Kuraishi Ryoko

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」12巻91ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「『寄り添う』という気持ちでしょうか」

《DRINK PLANET(以下ドリプラ)》 
佐々倉溜さん、こんにちは。

今日はいくつかの質問にお答えいただいて、佐々倉さんのフィロソフィに迫ろうと思っています。

それではさっそく一問目。
佐々倉さんが考える、バーテンダーに必要な資質ってなんでしょうか?



《佐々倉さん(以下、佐々倉)》
「寄り添う」という気持ちでしょうか。言い方が難しいんですけど……。

誤解を恐れず言うと、お客様が何か言ったとき、とりあえず頷(うなず)く。
眼を見て、あなたは正しい。と了承してあげる。

お客様のあるがままを、まず認めるということだと思います。
技術は後からいくらでも勉強できますから。

お酒の知ったかぶりをしたり、酔いすぎて声が大きくなるお客様もいらっしゃいます。
わざとからんだり、説教したり、こちらがいやがることを言う。
もっと困ったことも起こります。

そんな時、それでも一度はお客様を受け入れて、寄り添うことが出来るかどうかですね。
ちょっと抽象的すぎるかな(笑)。


《ドリプラ》
佐々倉さんはよくお客様をみていらっしゃいますよね?

佐々倉さんのような洞察力を養うにはどうすればいいんでしょうか?
なにか心がけていることはありますか?



《佐々倉》
洞察力ですかぁ、そんなものがあるとは思えませんが。

バーテンダーの資質とも重なりますけど、五感をちゃんと緊張させておく。
で、緊張させるためには他のことは「聞き流す」、「見逃す」、「成り行きに任せる」。
他のバーテンダーさんも同じでしょうけど、お客様同士の会話って、ほとんど耳に入ってきませんよね。

でも、酒の単語とかが出たとたんにピッと耳がそちらに向く。
グラスの中の酒の量、会話の間から心の中で次のオーダーの準備をする。

大切なのは体の反応を鍛えておくことかもしれません。
そうすると小さなことにも気づきますから。

いつも人に対して優しくなる必要はない。そんなことしたら疲れてもちませんから。
でも人に対して無神経であってはいけない……と思っています。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」7巻74ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「『空気』ですよね、バーって」

《ドリプラ》
プライベートでは先輩やお知り合いのお店にいくことが多いようですが、いいバーの条件とは何だと思われますか?

こんなバーなら楽しめる、そんなポイントがあったら教えてください。



《佐々倉》 
お客様も同じだと思いますが、「空気」ですよね、バーって。
扉をあけて、店の空気を最初に感じる。

店内の色合いとか、音と光のバランスとか。
こっちをむいたバーテンダーさんの 「いらっしゃいませ」 という笑顔――。

その瞬間に「あっ、ここだ」、とか「ここは違う」、とか結構分かりますよね。

直感というか。

次にバック・バーをサッと眺めて、どういうタイプの店か見るでしょ。
間違えた、と思ったら1杯だけジン・トニックを飲んで「すみません。今日は時間がなくて。またゆっくり来ます」と言って出てきちゃう。

言われた方も「嘘でしょ」と分かっても、まさかそうは言わないのがバーのいいところですから。

その意味で「バーに競合店はない」、と思っています。

100人のバーテンダーがいれば、100タイプのバーがあるわけです。

大切なのは、自分らしいバーを作ることで、最高のバーを作る必要はないと思います。

店の個性を気に入ってくれるお客様は必ずいますから。
これって多分レストランとかも同じかなぁ。

レストランは前菜だけで食い逃げっていうのが出来ないから困りますけど。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」17巻112ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「苦しい時に何をしたかで、楽になったときの自分が決まる」

《ドリプラ》  
バー以外にプライベートで出かけたりしますか?
飲食店以外に足を運ぶスポットがあったら教えてください。


《佐々倉》
出かけない! 

特に見習いの頃ってお金ないじゃないですか。
「生活」できるギリギリじゃなくて、「生存」できるギリギリ。
もうサバイバルですよ、修業時代って。
だからまずお金がかからなくて、かつ時間がつぶせるというのが第一条件。

図書館、美術館、博物館。お客様がくれる映画の無料試写券とか。あとはランニングとか。夏なら区民プールの水泳。

でもこの間の10年をどう過ごすかによって、後のバーテンダー人生がまったく変わる気がします。
これはどんな職業でも、実は一緒ですよね。

苦しい時に何をしたかで、楽になったときの自分が決まる。

ただし、少し余裕が出来たら、年に1度か2度はお金を貯めて、トップの店に行くことも大事ですよね。

なぜこの店はトップと言われているのか。
本当にトップなのか、これは自腹の痛みがないと分かりませんから。




《ドリプラ》
以前、バーテンダーならせめて新聞は毎日読むように、とおっしゃっていましたが、そのほかに毎日心がけていることは何かありますか?



《佐々倉》
風邪をひかないこと。いえ冗談じゃなくて。

「たとえあなたが行かなくとも、店の明かりは灯ってる」
(バッキー井上/著。実はこれ、京都の飲み屋案内の隠れた名著デス)という言葉がすべてですね。

開店時間には「店の明かりは灯っていなければならない」。
そのためには急に店を閉めることだけはやってはいけない。
倒れそうでも死にそうでも、雨が降ろうが槍が降ろうが、時間には店を開ける。

これはお客様との信義の問題。
「走れメロス!」というわけです。

ただ、困ったことに、
「風邪気味だって言っていたけど、頑張って店開けてるだろうな。でもまぁ、俺が行かなくても他の誰かが店には行くだろ」と勝手に気をまわして、
せっかく必死に店を開けたのに誰もお客様がこない、なんてこともありますよね。

集英社「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」16巻72ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「映画はお酒やカクテルが出てくる物は徹底的に調べて見ます。 これは仕事」

《ドリプラ》 
佐々倉さんはボリス・ヴィアンにトルストイ、チャンドラー……読書がお好きのようですね。

特にお気に入りの作家、作品があったら教えてください。
あるいは特に感銘を受けたものでも。




《佐々倉》
活字好きって、読む物がなければチラシの文字でも読んでいたい。
ある種の中毒みたいなものですから、活字なしという生活は考えられない。

だから、お気に入りの作家といわれるのは困るんですが。
言葉が少なく、行間で想像力がかきたてられる作家。

最近気にいっているのは古井由吉。
渋すぎて誰も知らないかなぁ。

ただ、これからバーテンダーを目指そうという方は福西英三先生の著作と、この著作の中に出てくる引用書籍はすべて眼を通しておくことをおすすめします。

洋酒の歴史、カクテルの由来など最低限の知識が手に入りますから。
私もずいぶん勉強させていただきました。




《ドリプラ》 
なるほど。
それでは同様に、映画や音楽に関してもお聞かせください。




《佐々倉》
音楽は尾崎(豊)からグレン・グールドまで。浅く広く。
バッハは聴き疲れしないので好きです。

アニメ「バーテンダー」の作曲をしていただいた大嶽香子さんの曲もとても繊細なメロディーラインで好きです。

映画はお酒やカクテルが出てくる物は徹底的に調べて見ます。
これは仕事。
例えばノーマン・マクリーンの小説を映画化した「リバー・ランズ・スルー・イット」。
カクテルはボイラー・メーカーが出てきます。
とても美しい映画で、若き日のブラッド・ピットも出ていてこれが初々しい。



《ドリプラ》 
「リバー・ランズ・スルー・イット」!レッドフォード監督作品ですね。
確か20年近く前の作品ですが、なるほど幅広い知識が垣間見えます。

「スーパージャンプ」漫画「バーテンダー」6巻46ページより (c)城アラキ・長友健篩/集英社

「お客様の話は他ではしない。バーの秘密は守られる」

《ドリプラ》 
では影響を受けた人物や一言、出会いがあったら教えてください。



《佐々倉》 
人間であるとは、すなわち責任をもつことである――サン・テグジュペリ

この「人間」というところを「男」とか「女」とか「父」とかとか無論、「バーテンダー」とか、自由に代えてみる。

ちなみにウチの犬には「犬であるとは、すなわち責任をもつことである」と言って躾けています。

……全然、言うこと聞かないけど(笑)。



《ドリプラ》
犬にはテグジュペリの言葉も響きませんでしたか……。

ところで、佐々倉さんのバーには様々なお客様がいらっしゃいますよね。
いままでで「これは困った!」という状況があったら教えてください。




《佐々倉》 
お客様の話は他ではしない。バーの秘密は守られる。
これ、一応はバーのルールですから、この質問はちょっと。

ただ、一般的にお客様同士のトラブルは困りますね。
これはどんな店でも同じだと思います。

どうしても知りたい方は漫画「バーテンダー」をお読みください。
こんなバーが本当にあったらたいへんだ、というくらい毎回トラブルの連続。
ま、漫画ですからお許しを。




《ドリプラ》 
大変失礼しました!ではトラブルとは無縁の話を。

佐々倉さんは、個性的なお客様にあった「ストーリーのある一杯」を提供されていらっしゃいますが、そのアイデアはどこから沸いてくるのでしょう?

《佐々倉》 
これは私が漫画の主人公だから許されていることでして。
普通にやったら思いっきりお節介でイヤミなバーテンダーですよ。

どちらかというとやってはいけないサービスの典型(笑)。

では、書かれている話が嘘かと聞かれるとそうでもない。

ほとんどのストーリーやエピソードは、他のバーテンダーさんが実際に経験した話をもとにしています。

「最近、嫌な客とか困った客来なかった? オーダーされて困るカクテルはなに? ワインみたく、ボトルチェーンジ! とかいうヘンな奴いない?」などと、いろいろなバーで聞いて回っています。

「一番困った客はアンタだ!」と指さして欲しいんですが、これはまだ一度もありませんね。

無難なところでは、女性のお客様が「お任せで何か軽い物を……」と頼まれたときに、服装に合わせた色合いのカクテルをお出しするというのはよく聞きます。

ただこれも、経験豊富なバーテンダーならさり気なく「お客様のお召し物に合わせて」と言えますが、
若いバーテンダーが言うと気取りすぎかもしれませんね。

バーテンダーはカウンターを超えてお客様の事情には踏み込まない。
踏み込んでいいのは漫画の中だけ……ということが基本でしょうか。


後編に続く。

(今回の質問は佐々倉溜さんに代わり、原作者である城アラキさんにお答えいただきました)

SPECIAL FEATURE特別取材