万華鏡? 光を呑む!
古くて新しい、江戸切子の魅力。
<後編>

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万華鏡? 光を呑む!
古くて新しい、江戸切子の魅力。
<後編>

#Pick up

堀口徹さん by「堀口切子」

江戸が生んだ伝統工芸、江戸切子の若き職人、堀口徹さん。伝統の技と職人の気概、そして若い感性のミクスチャーから生まれる新世代の江戸切子、その美しさと、日常使いする楽しみを伺った。

文:Kuraishi Ryoko

一つの文様を切るだけなら、もしかして10日もあれば習得できるかもしれない。だが大皿、小皿、すべての文様、機械の修理、メンテナンス、道具の製作まで一人でこなすことを考えると、一人前の職人になるには10年はかかるという。Photos by Tetsuya Yamamoto

初代秀石、堀口市雄氏はわずか10歳で職人に弟子入り、
アイデアに溢れ、最先端の技術を駆使して常に新境地を目指す職人だったという。

二代目、須田富雄氏は初代と同じ工房に入門後、彼の右腕として常に行動を共にし、後に二代目を継承。
高度な技術を誇り、繊細で緻密なカットにより名を馳せた。

そして三代目、堀口徹さん。彼が大切にする江戸切子のイメージはどんなものなのだろうか。

「自分が作るのは平成という今の時代の気分を感じさせる江戸切子です」

「切子を選ぶときは、使用時のシチュエーションのイメージを膨らませてみることが大切」と堀口さん。

「そして自分が考えるデザイン、施すカッティングは、『仕掛け』のつもりなんです。
使い手の方を驚き、喜ばせたいという思いは、自分の中でも大切な要素。
たとえば店のライティングでは気づかなかったとしても、家に帰って陽の光にかざしてみたら、
食卓で、あるいはキッチンで、この仕掛けに気がつくかもしれない。
それは明日かもしれないし、5年後、10年後かもしれない。

「でも、もしその仕掛けに気がついてもらったとしたら、それが作り手と使い手の気持ちが通じ合った瞬間。
きっとそのとき、作りテである自分はにやりとほくそ笑むんだと思います」

だから堀口さんはいつも、「ぜひ、使ってくださいね」と顧客に声をかける。

「飾ってしまうと視点もライティングも変化がないから、そうした仕掛けに気づいてもらいづらいんですね。
使い手がどんな家で暮らしているのか、そこはどんなライティングがされているのか、
それは自分にはわからない。
ということは逆に、使い方次第では作り手が仕掛けた以上のサプライズが生まれるかもしれないんです」

11月初旬まで開催された個展にて披露された作品より。伝統的な切子をモダンに甦らせた、美しいグラスやうつわが並んだ。

堀口さんは切子の魅力を「一瞬一秒の美しさ」と評する。

「どんなシチュエーションで使うのか、それは昼なのか夜なのか。
室内なのか屋外なのか、ライティングは何色なのか、明るさは、
どの角度から当てられているのか。テーブルの色は何色か、
中に何をいれるのか。
そして使い手がどんな角度で手にするのか。
ガラスは無限に表情を変えます」

「そして時に、作り手も驚くような不思議な表情を見せることがあります。
ガラスが見せてくれる美しさは、そのとき・その場だけの刹那のもの。
長くつきあっていけば、オーダーメイドに勝るとも劣らない喜びや楽しさがあると思いますよ」

こちらは女性に喜ばれるリキュール杯。色がかわるだけでカットパターンさえ異なって見えるのが、色被せの面白さ。

だからこそ、バーにもおすすめなのだ。

「透明のお酒なら色被せ(いろぎせ)を、
色の美しさを楽しみたいリキュールなら江戸切子ならではのスキ(透明)がいいですね。
スキは料理やお酒の色を邪魔しないのはもちろん、いつまでも飽きずに使えるうえ、
カットの妙や美しさを純粋に楽しめます」

ぐい呑みにタンブラー、リキュール杯、オンザロック、食前酒杯……
アイテムの豊富さやカットパターンのバリエーションに加え、
色を薄くかぶせた色被せには金赤、瑠璃、薄瑠璃、緑、銅赤、若草、紫などさまざまなカラーバリエがある。

華やかな色被せだからこそ映えるカットパターンもあるのだとか。

お酒の場合、口をつけるたびにガラスの見え方は変わるし、
グラスを干すと中の映り込みがいっそう美しく現れる。

ライティングやカウンター、リキュールの色にぴったりのグラスを探して、
舞台装置の一つとするのも粋な遊びかもしれない。

堀口さんの作品。「水滴が水面に落ち、それは、のちに波紋を生み出す」というイメージで切ったクリスタルガラスのフラワーベース。

さて堀口さん、職人・堀口徹として、また、堀口切子創業者として心がけていることは?

「独立してはや2年、やっと自分なりのスタイルを確立し、差別化できるようになってきました。
それをもっと多くの人に見てもらう機会を作っていかなくては」

「作品としては、江戸切子にはまずないんですが、ちょっと艶っぽいものを作りたい。
60、70、80歳のおっちゃんの作るグラスが、ちょっと色っぽかったら
そりゃあ、格好よくないですか?
だから、今から試してみたいんです」

職人の世界では「守・破・離」が大切だという。
「『守』とは、師や各流派の教えを忠実に守り、それからはずれることのないように精進し身につけること。
『破』とは、今まで学んで身につけた教えから一歩進めて他流の教え、技を取り入れることを心がけ、
師から教えられたものにこだわらず、さらに心と技を発展させること。
『離』とは、破からさらに修行して、守にとらわれず破も意識せず、新しい世界を拓き、
独自のものを生みだすこと」

切子に携わって12年、堀口さんはいまちょうど、「破」の段階のまっただ中。

「あんなこと、こんなこと、興味のあることを片っ端からやってみて、
そして一歩離れて、フラットに作品を眺めてみる。
そうやっていつか、自分だけの領域に達せられれば」


お酒をつくるのも、グラスを作るのも。モノ作りの心得は、いつの時代も変わらぬようで。

SHOP INFORMATION

堀口切子
住所非公開
URL:http://www.kiriko.biz

SPECIAL FEATURE特別取材