伊勢「BAR ALLEY」と考える、
地方のバーだからできること。
<後編>

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伊勢「BAR ALLEY」と考える、
地方のバーだからできること。
<後編>

#Pick up

Hata Taishu/畑太周 by「BAR ALLEY」

東京や都市部のバーにはすべてが集まる。情報、人材、食材などなど。そこから取捨選択してオリジナルをクリエイトしていくのが都市部のバーだとすれば、地方のバーのメリットはなんだろう?

文:Ryoko Kuraishi

畑さんのシグネチャーカクテル、「South Ocean」¥1,000。アンバサダーを務める「火の帆」に地元のミカン、オレンジジュース、レモンジュース、ペパーミントリキュールを合わせたカクテル。地元の海塩水をシュッとひと吹き、ほのかに潮の香りが漂う。Photos by Shoki Sakamoto

地方にいることのメリット

バーテンディングやカクテルを勉強するために、度々海外や東京ほか大都市のバーホッピングに出かけるという畑太周さん。
だが、そのベースはあくまでも地元・伊勢にある。
伊勢にはなにがあるのか。なぜ地元にこだわるのか。
畑さんに地方のバーのメリットを聞いてみた。


①生産地との距離が近い。
生産地とバーが近いということは、旬の、とれたての素材を使える。
バーテンダーも、素材の鮮度の良さを自分たちの個性の一つと認識してカクテルメイキングをしている。


②ローカルコミュニティが濃密。
「BAR ALLEY」を引き継いだ当初、友人やそれまでに築いた人脈でバーを運営することができたように、横のつながりが濃密。
飲食店同士も連携して積極的に客を紹介し合う。
店と客の関係も都市部より濃密だ。
一度ファンになってくれれば生涯顧客となる可能性も高い。

畑で毎日摘んでいる、フレッシュなハーブ。

③自然が豊か。だから“ネタ”に困らない。
都市になくて地方にあるもの。
それは自然環境だ。それにまつわる生産者、豊かな食、都市部より穏やかに流れる時間がある。
自然はアイデアの宝庫であり、そこで新しいトピックやコンテンツを思いつくことも少なくない。
都市部では敬遠されがちな時間のかかるプロジェクトにも、積極的に取り組める。それも地方のメリット。


このような地方のメリットをどう活かすのか。
現在、畑さんが考えているプロジェクトが、農園とバーを観光につなげることだとか。

畑さんが師匠と慕う地元農家さんと。

バー+アグリツーリズム

「現在進めているのが、ツーリスト向けの『バー+アグリツーリズム』です。
昼間、農園で好みのハーブを採取してもらい、夜、バーに持ってきてもらってそのハーブを使ったカクテルを提供する。そんなプランを考えています。

農産地である伊勢の魅力を伝えながら、ローカルのバーにも足を運んでもらう。
このプロジェクトは実現まであともう少し。日々アイデアを巡らせているところです」


次に、地元のプロダクトを使ったリキュール造りに取り組むこと。
地元の酒蔵と農家、プロデューサーである畑さんの共同プロジェクトになる予定だ。


「ヤマトタチバナという柑橘があるんです。
すべての柑橘の原種と言われる日本の固有種で、三重県に多く自生する、県指定の天然記念物です。

古事記や日本書紀にも登場しており、天皇に捧げるために黄泉の国からとってきたという謂れがあるのも、伊勢神宮を擁する伊勢市らしいですよね」

地元の農家が大切に育てているヤマトタチバナ。

酸味が強く生食には向かないとされるヤマトタチバナだが、現在、農家と手を組んでこの栽培を始めたところだ。
果実の収穫には3年ほどかかるが、これを再生させてジャパニーズベルモットを造るのだとか。


このようにアグリツーリズムや三重県産農作物を使ったプロダクトをプロデュースするのは、伊勢のバーシーンの活性化のためだ。
バーテンダーがメディアやSNSを利用してどんどん発信し、沢山の人にバーやバーテンダーに興味をもってもらうこと。


それが地方のバーシーンを成長させることだと考えている。

「大都市にくらべて伊勢市、三重県のバーシーンはまだまだ成熟途中です。

現在、伊勢市には6店舗ほどのカクテルバーがありますが、僕が最若手。僕以降、若いバーテンダーは出てきていません。
バーテンダーがプロフェッショナルな職業であることを地方の人はまだ知らない。

クリエイティビティの追求とは別に、スマートな経営・運営・店作りを行い、バーテンダーの成功例を作ること。
そうして、僕より若い人たちにバーテンダーを目指してもらいたい」


実は『7daysBANANA』というバナナ専門店をプロデュースし、伊勢市のほか大阪に1店舗、東京で2店舗を展開中の畑さん。


地方バーの特徴としてハンドルキーパーのためのノンアルコールカクテル需要の高さがあるが、ハンドルキーパーのために開発した追熟バナナのジュースが好評を博して専門店ブランドに。
このようなプロデュース業も、地方バーテンダーの成功実例を作るためなのだ。


「若手が次々に台頭することが、バーシーンの活性化に欠かせない」という畑さん。
ここからどんなバー、バーテンダーが出てくるのか。地方のバーシーンに引き続きご注目ください!

SHOP INFORMATION

BAR ALLEY
三重県伊勢市大世2-4-20 アミビル3F
TEL:0596-27-1300
URL:http://www.bar-alley.com

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