PICK UPピックアップ
上海のナイトシーンに
日本のバー文化を。<後編>
#Pick up
オーナー 竹中新さん
バーテンダー 鬼丸優子さん by「bar 8 balance」
「まさか自分が上海でバーテンダーをやるなんて思ってもみませんでした」
上海の「bar 8 balance」で店長兼バーテンダーを務める鬼丸優子さんは、女性らしいやわらかな口調でこう答えてくれた。
鬼丸さんは学生の頃から「いつか海外に出たい」と考えていた。
英語を話せる人はいくらでもいるし、だったら自分は中国語を学んでみようと思ったという。
「特に深い理由はないんです。本当になんとなく中国語かな、という程度でした」
京都の専門学校で中国語を学び、在学中に一ヶ月、広州に留学した。
卒業後はアパレル向けの機械メーカーに就職。
中国語が話せることから、すぐに上海駐在員として上海で働くこととなった。
「もともとお酒が好きで、この店には最初お客さんとして通っていたんです。当時、上海にはこういうスタイルのお店がなかったので、家は少し遠かったんですが、頻繁に来店していましたね」
「そのうち仕事のほうでいろいろとトラブルがあって、そんな時期に当時の店長さんから『ウチで働かないか』と誘われたんです。
飲食業界・サービス産業はまったく未知の世界でしたが、そのまま勢いで飛び込んで、今に至ります。
自分でもサービス業に向いてるのか向いていないのか、今でもわからないくらいです(笑)」
バーテンダーとして働くにあたり、鬼丸さんは上海のバーを何軒もめぐったという。
日本人経営のバーはもちろん、欧米スタイルのバー、ホテルのバー、上海で流行っているというガールズバー、さらにはKTB(カラオケバー)まで。
そんな鬼丸さんに上海バーシーンの現状をうかがった。
「私が偉そうにいうのもなんなんですが、上海のバーのレベルはそれほど高いとはいえません。たとえホテルのバーであってもです。
といっても中国のバーテンダーの方々がいい加減なのではなく、単純に正統的なバーテンディングを教える人がいないんです」
「上海にもバースクールはありますが、あくまでフレアやエンターテイメントが中心。
ですから、欧米資本のバーや高級ホテルのバーでは、外国人のバーテンダーが活躍することになります」
それゆえ「bar 8 balance」の営業前、営業後は、さながら即席のバースクールのようだという。
中国人の若いスタッフは、とにかく世界基準のバーテンディングを学ぼうとみな勉強熱心とのことだ。
中国に本格的なバースクールをつくったら案外面白いかもしれない。
「それから中国では、ワインをスプライトで割って飲んでいたという笑い話があるくらいで、味や質よりも量、という飲み方が伝統的でした。
実際に今でもコニャックをコーラで割ったり、ウイスキーを中国特有の甘いお茶で割ったりするお客さまがいます。
それにアルコールが強くないとお酒として認められないので、カクテルは必然的に大味なものが多くなってしまいますね」
そんななか「bar 8 balance」では、マティーニだけで約100種類を用意し、中国ではほとんど見かけることのないアイラモルトやヴィンテージモルトも豊富に揃えている。
「お酒はもちろん、水でも、氷でも、フルーツでも、日本と同じレベルのものを揃えようと思うと、中国では本当に大変なんです。
具体的にいうと、氷屋さんはあるんですが衛生的に問題があったり、フルーツも豊富なんですがカクテルに使用するには甘みが足りなかったり……。
でもそのぶん、未知なる可能性のようなものは感じます。将来的に大きな波がきっと来ると思うので、そういう波にうまく乗っていきたいですね」
最後に鬼丸さんに、上海という街の印象を聞いてみた。
「そうですね。上海という街には、上海というものがないんです」
「いろんな国のいろんな文化や、中国の他の地域の文化をスポンジみたいに吸収して巨大化しているような感じです。あるいは逆に世界を凝縮したような感じでしょうか。
日本のバーテンダーの方も、欧米だけに目を向けるのではなく、一度上海に来てみたら刺激的だと思いますよ」
2010年の今年、上海は上海万博を開催したことで、ハード面がひと通り揃ったといわれている。
次に図るべきは、サービスやマナー、クオリティーといったソフト面の充実。
チャイニーズドリーム。
上海には、大人が夢見るだけの余白がたっぷりと残されているようだ。
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