本を応援する立場で
本屋さんを営む。<後編>

PICK UPピックアップ

本を応援する立場で
本屋さんを営む。<後編>

#Pick up

江口宏志さん by「UTRECHT/NOW IDeA/aMoule」

ブックショップのディレクションなども手がける江口さんに、バーでのディスプレイやメニューの見せ方への工夫を聞いてみた。さらには、バーマンが読むべき江口さんおすすめの本もご紹介。

文:Teppei Wakayanagi

無印良品の海外仕様店舗「MUJI」やアウトドアブランドの「THE NORTH FACE」直営店、コクヨの東京ショールームなどで、ライブラリースペースのブックディレクションも行う江口さん。

例えばバーであれば、お酒のディスプレイやメニューの見せ方などにどんな工夫ができるのだろうか。そのあたりを伺ってみた。

「そうですね。よくCD屋さんなんかで、店員さんが手書きで書いたおすすめのPOPがあったりするじゃないですか。このCDの何曲目がいいですよ、とか、ムーディーなドライブに最適、とか」

「例えばお酒でも、そういったバーテンダーさんからのコメントがあると、注文してみようかなという気になるかもしれませんね。もちろん聞けば説明してくれるんでしょうけれど、メニューにもお酒やカクテルにまつわるストーリー(情報)があると、メニューを見てるだけで楽しくなるはずです」

「それと我々が本をセレクトする際によくやるのが『並べかえ』という作業です」

「普通、バーのお酒はウイスキーやジン、リキュールなど、ジャンル別にディスプレイされていると思うんですが、色や香り別に並べかえしてみるのも面白いんじゃないでしょうか。カクテルだったら栄養価別っていうのもいいですね。さすがにバックバーのボトルを並べかえる訳にはいかないかもしれませんが、カクテルメニューの並べかえはPOP同様、有効だと思います」

ちなみに「UTRECHT/NOW IDeA」のカフェカウンターはガラス張り。
ガラスのなかには商品である本がPOP付でディスプレイされている。

ここで、江口さんにバーテンダーに役立つ本を3冊選んでもらうことにした。

江口さんは迷いに迷った挙句、4冊の本をセレクトしてくれた。

以下に、順番にご紹介していこう。

『Total Trattoria』Abake/Martino Gamper著

Trattoriaは、調理すること、食べること、そしてディスカッションすることを目的として2003年にスタートしたディナーセッション。
イーストロンドンのオフィスビル3階にあるバー「Hat On Wall」で行われる月一度のイベントとしてスタートし、これまで数多くの国をめぐってきた。
その模様をレシピや家具の設計図とともに収録したのがこの一冊。

「食器やカトラリー、テーブル、イス、照明までをチームみんなでデザインして、調理する、食べる、もてなす、おしゃべりする、という行為自体を『アート作品』に仕立てています。ユニークな食器デザインやディスプレイは、バーテンダーの方にも参考になると思います」

『ラッキータイガー 2010』コッチャコーン・プロムチャイ著

タイの有名な風水の先生コッチャコーンさんによる「風水&十二支の本」。
イラストを担当したウィスット・ポンニミット(通称タム君)が、「日本人に読んで欲しいなあ」と日本語版を自費出版したもの。

「イラストレーターのタム君が、500部限定で自費出版した本です。しかも2010年限定の運勢本です。カップルやグループで来たお客さんに見せると、間違いなく盛り上がるんじゃないでしょうか。血液型や星座じゃなくて、干支ってところがタイっぽくていいですね」

『プレゼント』横尾香央留 著

吉祥寺に作業所を構え、刺繍やニットを用いた「お直し」を中心に活動する横尾香央留さんが、大切な人の為につくった作品たち、そのエピソードとつくり方を収録。
写真はホンマタカシ氏。

「誰かのためにモノをつくることのストーリーが収録されています。バーテンダーの方がお客さんのためにカクテルをつくることと、どこかで繋がっているような気がします。本を販売する僕としても、初心にかえる貴重な一冊です」

『Apartamento Issue 04』

江口さんのお店でも毎号大反響のある、スペイン発ライフスタイル・インテリア雑誌の第4号。
「家」「部屋」を中心に、さまざまな国のさまざまなクリエイターのライフスタイルを紹介している。
この第4号では、クロエ・セヴィニー、ソニック・ユース、日本のスタイリスト、ソニア・パークなどが出演。

「これはもう単純に眺めてるだけで面白い雑誌です。一応インテリア雑誌なんですけど、気どった感じがなくて、実際に暮らす人のライフスタイルが見えてきます」


最後に、江口さんに「今後やりたいこと」についても伺った。

「ひとつはコミュニケーション自体をビジネスにできないかな、と考えています。今までは、その媒体がたまたま本だったけれど、別に本である必要はないかもしれません。ピザでも洋服でもカクテルでも、あるいはモノじゃなくてもいいかもしれません。漠然とですが、そんなことを考えています」

「もうひとつは、本屋さんという枠組みのなかで、さらに新しい仕組みができないかな、と模索しています」

そんな江口さんの展開する「UTRECHT/NOW IDeA」は、自由で、ゆる〜い、ちょっと不思議な本屋さん。なんとなく、居心地のいいバーに似た空気感を感じるのは、筆者だけだろうか。

SHOP INFORMATION

UTRECHT/NOW IDeA/aMoule
東京都港区南青山5-3-8 パレスミユキ2F
TEL:03-6427-4041
URL:http://www.nowidea.info

SPECIAL FEATURE特別取材