半世紀の歴史が培う、
ロイヤル バーのフィロソフィ。
<後編>

PICK UPピックアップ

半世紀の歴史が培う、
ロイヤル バーのフィロソフィ。
<後編>

#Pick up

大竹学さん、中村サビーヌさん by「ロイヤル バー」

半世紀の歴史の中で、変わっていくもの、変わらないもの。7代目のチーフバーテンダー、大竹学さんがこのバーの現在、そして未来に見据えるものとは?ロイヤル バーが守る伝統と、目指す革新の姿を語ってもらった。

文:Ryoko Kuraishi

「常に最高のチームを目指す」という大竹さんのもと、日本のバーテンディングに向き合う中村さん。

建て替えを経て、2012年に生まれ変わったパレスホテル東京、そしてロイヤル バーだが、そのしつらえは旧パレスホテル時代と変わらない。
今から56年前、このバーのカウンターを設計したのが日本のバーテンディングを牽引したと言われる「Mr.マティーニ」こと、初代チーフバーテンダーの今井清さんだ。


カウンターとバックバーの高さが等しくなることが望ましいとされていた中、ゲストの視線の先に美しいグラスを並べることで期待感、高揚感を煽るという試みは当時、画期的と称された。
このしつらえを参考にしたいと、全国からバーテンダーやバーオーナーが訪れたという。
このバックバーに現れているのは、今井さんというバーテンダーのサービス精神とカクテルメイキングへのこだわりだ。


「バーのカウンターは寿司屋や天ぷら屋と同じ、つまりお客さまの面前で行うパフォーマンスの舞台です。
所作はあくまでも手早く美しく、また舞台であるカウンターも常に清潔で整理整頓が徹底されていなければならない。


バーテンダーには、質はもちろんスピードも求められます。
ロイヤル バーは25席ほどのバーですが、ラウンジも合わせると100席ほどになります。
決められた時間内で美しく丁寧に、かつおいしいものを提供する。
それがここで求められるバーテンダーの条件ですね」(大竹)

これが「Mr.マティーニ」直伝の一杯。キリッとした口当たりが楽しめる至福のカクテル。

だからバーのカウンターには、バーテンディングに欠かせないエッセンスが詰まっている。
今井さん時代から継承されているカウンターは何度もメンテナンスが施され、半世紀経ったとは思えないほどのツヤをたたえている。
キレイにカットされた氷、磨き込まれたグラス、整理されたボトル、しつらえの何もかもに隙がない。
この「端正で無駄のないカウンターの様子こそ、今井さんの、そして日本のバーテンディングの真髄」と大竹さんは言う。


「ロイヤル バーには、ほかのバーにはない『伝統』と『財産』があります。
今井さんが作り上げたマティーニは、まさに伝統であり財産ですよね。
一つのカクテルでここまでの多様性を持ち、多くの人を惹きつけるカクテルはほかにはありませんし、マティーニを主役に据えているバーも少ないと思います。
今井さん、吉田さんを含め6人のチーフバーテンダーが受け継いできたものを引き継ぐ、その担い手の中に自分も名を連ねることができたのは本当に光栄なことだと思っています。


一方でロイヤル バーが目指すのは、伝統を守りぬくことだけではありません。
かつて今井さんが革新的なバー空間を作り上げたように、伝統を守りながら革新を進めることが僕たちの務めだと思っています」

中村さんが作ってくれたのは、こちらもロイヤル バーを代表するカクテル。ミルクを加え、まろやかで優しい味わいに仕上げたスペシャル・ジンフィズ。

その「革新」が、56年の歴史の中で初めての女性バーテンダーである中村さんの登用であり、新たなカクテルと人材の創出である。
グローバル化が進む現代にあって、伝統やクラシックを守りながらいかに新しいものを生み出していくのか。
プレーヤーであるバーテンダーとマネジャーである大竹さんが日々、直面している課題だ。


「スタンダードカクテルにはスタンダードの良さがあります。
けれど、日本にはこの国ならではのいいものがたくさんあります。
四季が生み出す旬のフルーツ、ティーセレモニー、日本酒、その他いろいろな文化や風土です。
こういったものをカクテルに取り入れ、現代的かつ日本らしい提供の仕方を突き詰めれば、もっとお客さまに喜んでもらえるのかなと思います」


プレーヤーとしての大竹さんがコンペティションで披露するカクテルは複雑な味わいのものだったが、ロイヤル バーのそれはあくまでもシンプル。
季節感をベースに、副材料としてお茶やスパイスを加えていく。
年齢、国籍、民族、様々なバックグラウンドを持つゲストに提供するためだ。


「カクテルを考案するときって、初めはあれもこれも足したくなるんですよ。
あるところまで到達すると、今度はそこから引き算していくんです。
余分なものを引いて省いて、最後に残るもの。
それが『シンプル・イズ・ベスト』ということになるんでしょう」

「56年の歴史で初めての女性バーテンダーと聞いて、初めはプレッシャーでした」と中村さん。プレッシャーを跳ね返し、見事、「バカルディ レガシー カクテル コンペティション 2017」ジャパン ファイナリストに輝いた。

「ロイヤル バーらしさ」といえば、大竹さんがもう一つ大切にしていることがある。
それはバーテンダー一人一人のパーソナリティだ。
魅力的なパーソナリティが、引いてはロイヤル バーという強いチームを作ってくれる。


「若手にはそれぞれ与えられた課題に取り組んでもらっています。
コンペティションという目標があるなら、ディスカッションして目指す方向を定め、そのゴールに導くようにしています。
と同時に、これは今井さん時代と同じなのですが、『人に慕われるバーテンダーになれ』、とも指導しています。
それはつまり、人磨きだと思うんです。
僕が考える『いいチーム』とは、突出した一人がいるグループではなく、みんなが強くて魅力的で、それぞれが素敵なコミュニケーションスキルを持ち、おいしいカクテルを作る、そんなバーテンダー集団なんです」


若手を叱咤激励し、やる気を鼓舞し、いいチーム作りに腐心する。
その先には目指すバーの形がある。

「Mr.マティーニ」と謳われた、初代チーフバーテンダーの今井清さん。

「現在、多くの外国人が日本を訪れてくれています。
観光地を巡り、地方特産の食事を楽しむことに加えて、『バーを訪れること』が訪日の目的となることを望んでいます。


東京や大阪など大都市だけではなく、現在は地方都市のバーテンダーの活躍もめざましいですよね。
外国人に限らず、少しでも多くの人が『バーを訪れること』を旅の目的とするような、そんなバー文化が根付いていくことを願っています。


そして、そんな時にロイヤル バーが『このバーに行かないと』と思ってもらえるようなバーでありたいとも思います。
そのためにはバーテンダー一人一人がパーソナリティを磨かなくてはなりません。


今井さんの、こんな言葉があるんです。
『10年、研鑽を積めばおいしいカクテルは作れる。
しかしその先は自分自身を磨くことが重要だ』。


バーテンダーである前に、人に愛され、慕われる魅力的な人間であること。
これが今井さん時代から変わらず受け継がれてきた、ロイヤル バーのレガシーではないでしょうか」

SHOP INFORMATION

ロイヤル バー
千代田区丸の内1-1-1
パレスホテル東京1F
TEL:03-3211-5318
URL:http://www.palacehoteltokyo.com/restaurant/royal_bar.php

SPECIAL FEATURE特別取材