注目の生産者によるボタニカルは
グラスに咲く、生きたアート!
<前編>

PICK UPピックアップ

注目の生産者によるボタニカルは
グラスに咲く、生きたアート!
<前編>

#Pick up

井上隆太郎さん by「GRAND ROYAL green」

最近、バーで人気なのが花やハーブをあしらったプレゼンテーションである。ただの飾りではなく、カクテルの香りや味わいをぐっと引き立ててくれるボタニカルの秘密、今月はボタニカルの注目の生産者に迫る。

文:Ryoko Kuraishi

カラフルな花、ハーブはすべてオーガニック、自然農育ち。カクテルに仕立てる場合は「ただの飾りとしてあしらうのではなく、四季折々のボタニカルの風味や香り、個性を引き立てるようなレシピをぜひ、考えてください」と井上さん。

クラフトジンが火をつけたボタニカルブーム。
スピリッツの風味やキャラクターを左右するのが、その土地が生み出す個性豊かなボタニカルである。


そんな中、東京のレストラン&バーシーンで一躍、注目を集めるボタニカルの作り手がいる。
千葉県鴨川市、大山千枚田にほど近い里山を拠点に、完全自然農法でハーブ&エディブルフラワーを生産する「GRAND ROYAL green」の井上隆太郎さんだ。


500坪の畑と自宅の庭に設えた菜園で手掛けるのはおよそ100種のボタニカル。
ニガヨモギ、アニス、ラベンダー、ミント各種、カレンデュラ、カモミール、山椒、ロベリア……、四季折々の花や緑が揺れる。
カクテル用にイエルバブエナ、オレンジミント、アップルミント、ニホンハッカ北斗などミント各種、そしてアニス、フェンネル、コリアンダーフラワー。
エディブルフラワーではフェンネルフラワー、イングリッシュラベンダー、フレンチラベンダー、セージの花、マロウ 、ヤロウなどがバーテンダーに人気である。


現在はビストロからグランメゾンまでのフレンチレストランを中心に、渋谷&二子玉川の「GOOD MEALS SHOP」や代々木公園「FUGLEN TOKYO」などのバーにも手摘みのハーブ&エディブルフラワーを卸している。

自宅近くで借りている500坪の畑。家族総出で収穫に行くことも。「子ども連れだと、ちょっといい人に見えません?」

もともと井上さんは、ウィンドウディスプレイやイベントでの活けこみ、装花やガーデンデザインを本職とするフローリスト。
園芸の専門学校を卒業後、第一園芸の仕入れ担当として全国の生産者を回り園芸の目を鍛えた。
以来、花とグリーンに携わって20年というこの道の生え抜きである。


5年前からは装花に木工の要素も取り入れ、より大掛かりなディスプレイや空間の作り込みも行ってきた。
そんな井上さんが3年前から挑戦し始めたのが、オーガニックハーブ&エディブルフラワーの生産である。


20代なかばで横浜市営地下鉄、センター北駅内の一角に最初の店を構えた。
オーナーの意向もあって駅構内の小さな花屋では自分の世界観を追求することができなかったが、独立に備えて給料を貯め、ディスプレイ用の花器や雑貨を買い揃えていた。
やがて北欧系の住宅を扱うハウスメーカーの社長に声をかけられ、そのメーカーが持つショウルームを活用して植物とインテリアのショップを出すことに。

テキーラフェスタではメキシコをイメージしたバーカウンターと植栽を手がけた。カラフルなレタリングにアガベが効いている、陽気な空間に。

「90坪もあったので、グリーンに北欧家具と雑貨をコーディネートして住空間をトータルで見せる店を作りました」
当時のコンプレックスショップのはしりである。
コンセプトも面白く、なかなか好評を博したのだが……。
「周辺の地主の利権争いに巻き込まれまして。
陰陽師を送り込まれたり(笑)、嫌がらせが始まったので2年弱撤退しました」


店舗がなくなった井上さん、今度は自家用としていた古いアメ車を活用することを思いつく。
「車に花を満載して、クライアントである古着屋や美容室などで花を生けていました」
古いアメ車、塗装の剥げた木材、どこか無骨なインダストリアル系の家具や雑貨。
そうした男性的な素材や質感、ディテールと対比するように飾られる瑞々しいグリーンや繊細な色調の可憐な花。
相対する世界観が井上さんの持ち味だ。
そのセンスはその頃から顕在で、ファッション系のクライアントなどを徐々に増やしていく。

フレッシュで香り高いハーブは、シェフにも好評だ。Photo by Masa Hamanoi

「そのあとは青山にバーを出したり、恵比寿で花と古着の店を手がけたり。
恵比寿にカウンターだけのイタリアンを出店したこともあります。
まあ、いろいろやるんですよ」


その間も日中の装花やディスプレイの仕事は続けていた。
「そうこうしているうちに、もう少し大がかりなディスプレイをやりたくなったんです。
花やグリーンを飾るだけでなく、土台から自分たちで作りこんで、空間全体で自分たちのイメージを演出してみたい。
そんなこんなで木工もやるようになりました」


大手アパレルメーカー、オーガニック食品や雑貨のブランドなど、さらに幅広いクライアントを抱えるようになり、大量の材木や工具、作り込み用のグリーンや花を満載したトラックで都内を移動する日々。
世界観をダイレクトに表現出来る空間ディスプレイはやりがいがあったが、それだけではだんだん、物足りなく思えてきた。

こちらは銀座のフレンチレストランでサーブされている、エディブルフラワーをふんだんにあしらった一皿。

「植物や木をいじって何かを作るというプロセスを踏んで、もっと根源的なものに関わりたくなってきました。
農業です。
それもオーセンティックな農ではなく、今までにない新しい形の農業のシステムを作れないかと思って」


直感とインスピレーションから得たビジョンが、現在のハーブとエディブルフラワーの畑だった。
フリーリストが根源に立ち返って手掛ける畑。
さて、そこに描く未来像とは……?


後編に続く。

SHOP INFORMATION

GRAND ROYAL green
千葉県鴨川市北風原122-1
URL:https://www.instagram.com/grg_viasso/

SPECIAL FEATURE特別取材