あのバーテンダーが
「ワールドクラス」に挑戦した理由

SPECIAL FEATURE特別取材

あのバーテンダーが
「ワールドクラス」に挑戦した理由
[vol.01] - ワールドクラス 2019 ファイナリスト対談
バニー・カンさん×吉田宏樹さん!

15.03.2020 #Special Feature

文:Drink Planet編集部

ワールドクラス 2019 グローバルファイナルの優勝決定シーン。写真中央がチャンピオンのバニー・カンさん!

ワールドクラス 2019 グローバルファイナルの優勝決定シーン。写真中央がチャンピオンのバニー・カンさん!

ワールドクラスに挑戦しないなんて、もったいない!

今年で12年目を迎えるワールドクラスは、その名の通り、世界規模のバーテンダーコンペティション。

前回大会では、世界約60の国と地域から25,000人を超えるバーテンダーが参加し「ワールドクラス バーテンダー・オブ・ザ・イヤー」の座を競い合いました。

そして、なにかと節目になりそうな2020年の今年も、いよいよワールドクラスの季節がやってきました。

って、Drink Planetの読者であれば、皆さん、ご存じですよね。

でも「ワールドクラスって大変そう」とか、「自分なんかには無理~」とか、「英語ぜんぜん喋れないし~」とか、エントリーするのにちょっと戸惑いを感じていませんか?

「それって、バーテンダーとしてはすごくもったいない!」と口を揃えるのは、ワールドクラス 2019において世界チャンピオンとなったバニー・カンさんと、同世界5位に輝いた吉田宏樹さんのお二人。

ここではワールドクラスを知るお二人に、ワールドクラスが実際はどんな大会で、バーテンダーにとってどんなメリットがあるのかを語ってもらいましょう。

バニー・カン(Bannie Kang)。韓国出身。ワールドクラス 2019シンガポール代表にして、同世界大会チャンピオン。現在は台北にある「MU」のブランドアンバサダーとして、シンガポールと台北を拠点に活躍中。

バニー・カン(Bannie Kang)。韓国出身。ワールドクラス 2019シンガポール代表にして、同世界大会チャンピオン。現在は台北にある「MU」のブランドアンバサダーとして、シンガポールと台北を拠点に活躍中。

バーテンダーじゃないのに、ワールドクラスに初参戦!?

そもそもお二人がワールドクラスにチャレンジしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

【バニー・カンさん(以下・バニー)】
「私が初めてワールドクラスにエントリーしたのは2013年。当時は韓国からシンガポールに来たばかりで、まだ英語もままならず、おまけにバーテンダーでさえありませんでした(笑)」

バニーさんは韓国の大学でホテルマネージメントを学んだあと、英語とサービス業を学ぶためにシンガポールに渡り、ワールドクラスには当時働いていたレストランバーのフロアスタッフという立場で応募したのだとか。

【バニー】「当時のシンガポールのバーシーンは今とは比べ物にならないほど遅れていましたし、ワールドクラスもシンガポールで始まったばかり。運よくファイナリストには選ばれたのですが、英語を聞き取るのが精一杯で、ほとんど何もできませんでした。でも、バーテンダーってなんて素晴らしい仕事なんだろうって感激したんです。翌2014年も挑戦したのですが、あえなく敗退。周囲からの勧めもあって、一度韓国に戻って、本格的にバーテンダーとしてのトレーニングをすることにしました」

韓国に戻ったバニーさんはワールドクラスが世界のバーのレベルアップのために主催している「ジョニー・ウォーカー・アカデミー」で基礎を学び、同時に韓国国際バーテンディング・アカデミーにも通いました。

その後、再びシンガポールに渡り、ホテルバーのヘッドバーテンダーとして腕を磨きながら、2019年、今度は正真正銘のバーテンダーとしてワールドクラスにチャレンジ!

【バニー】「5年のブランクがありましたが、その間もずっとワールドクラスは憧れでした。自分がどれくらい成長したかを試す意味でも、去年、思い切って参加してみることにしたんです。そうしたら、まさかの世界一に! 自分でもまだ信じられないのですが、シンガポール大会、世界大会を通じて、ワールドクラスという大会が私をバーテンダーとして成長させてくれたのは間違いありません」

吉田宏樹。ワールドクラス2019 ジャパンファイナル優勝者。日本代表として出場した同世界大会では見事世界5位に輝く。普段はホテルニューオータニのメインバー「バー カプリ」でキャプテンとして腕を振るう。

吉田宏樹。ワールドクラス2019 ジャパンファイナル優勝者。日本代表として出場した同世界大会では見事世界5位に輝く。普段はホテルニューオータニのメインバー「バー カプリ」でキャプテンとして腕を振るう。

毎回毎回、必ず”学び”や”気づき”がある。

一方、世界大会5位に輝いたホテルニューオータニの吉田宏樹さんはこう話してくれました。

【吉田宏樹さん(以下、吉田)】
「私は去年で10回目のチャレンジ。ファイナルに残ったのは2018年と去年(2019年)だけで、あとは毎回惨敗でした(笑)。もちろん1次の書類審査や2次の実技審査で落とされると非常に悔しいのですが、それ以上に毎回“学び”があったので、それが楽しくて毎年チャレンジしてきました」

【吉田】「外から見ているだけですと分からないかもしれませんが、チャレンジすることで見えてくるものって案外多いんです。結果としては負けてしまったけれど、思ってたよりやれたなあって……。そのトライ&エラーの積み重ねがバーテンダーとしての成長や、去年のジャパン ファイナル優勝に繋がったと実感しています」

たとえば、チャレンジすることで見えてくるものとはどんなものでしょうか?

【吉田】「2018年にファイナルに選ばれた時は、自分のパーソナリティをほとんど出し切れないまま終わってしまいました。というのも、ワールドクラスへの憧れが強すぎて、自分のパフォーマンスがすべて過去のファイナリストの真似事だったことに気づいたんです。もちろん真似から学ぶことも多いのですが、それだったら自分じゃなくてもいい。2019年は改めて自分を見つめ直し、自分らしさを全面にだして勝負したおかげで、世界5位になれたと思っています」

【吉田】「毎回毎回チャレンジするたびに、バーテンダーとしていろんなことに気づかせてくれるのがワールドクラスの魅力の一つなのではないでしょうか」

【吉田】「それから、これは若い方に多いと思うのですが『もうちょっと成長してから挑戦しよう』という考えはもったいない! むしろ成長するチャンスを逃していると言ってもいいくらいです。ワールドクラスという大会自体も、世界のバーのレベルも年々成長しているので、結局はいつまで経っても『来年にしよう』で終わってしまいます。経験はあとからついてくるので、思い切って飛び込んでしまうのが一番の近道です。バニーみたいに(笑)」

【バニー】「それは、本当にその通りです!(笑)」

バーテンダーとして人間性が問われるコンペティション!

それぞれシンガポールファイナル、ジャパンファイナルを勝ち抜き、グローバルファイナルでもTOP8に残り最後まで戦ったお二人に、ワールドクラスとは一体どんな大会なのかを聞いてみました。他のコンペティションとの違いなどはあるのでしょうか?

【吉田】「よく言われることですが、ワールドクラスはカクテルコンペティションではなく、バーテンダーコンペティション。つまりはバーテンダーとしての人間性が問われる大会です。おいしいカクテルを作るだけでは勝ち抜くことは難しいですね」

【バニー】「カクテルがおいしくなくていいとまでは言いませんが、逆に考えると、多少のミスをしても自分次第でそのミスを取り返せる大会だと思います。実をいうと、私はグローバルファイナルの1stチャレンジでタイムオーバーのミスをしてしまったんです(笑)」

【吉田】「えっ、そうだったの?」

【バニー】「2ndチャレンジでは材料を忘れてしまうミスまで……。でも、そこからが本当のワールドクラス。失敗を失敗のままにしないで、そのチャレンジでなんとかうまく取り返したり、それが無理なら次のチャレンジで盛り返したりして、最終的には世界一になりました(笑)。大会中にはチャレンジが終わったら、必ずジャッジに評価を仰いで、次のチャレンジに繋げていました。大会中にも成長できるのがワールドクラスなのかもしれません」

【吉田】「確かに、ジャッジの判断は減点法ではありませんね。ミスしないことを心掛ける消極的な大会ではなく、自分というバーテンダーをいかに表現するかが問われる大会だと思います。ジャッジが本当に見ているのは、技術や英語力やトレンドではなく、あくまでも人間性。ですからミスを恐れることなく、自分自身をありのままに表現してほしいと思います」

【バニー】「私は世界一にはなりましたが、自分自身にそこまで技術があるとは思っていません。もともとは人見知りですし、人前でしゃべるのも苦手。ですから背伸びせずに、自分のいいところだけにフォーカスして、自分の得意なやり方で勝負しました。Believe in myself! 誰かの意見じゃなくて、自分が素直においしいと思うカクテルを、ジャッジの方にもシェアしてほしいという気持ち、自分のバーに来てくれたお客様に単純に楽しんでほしいという気持ちで挑戦しました」

【吉田】「そういう意味でもワールドクラスは普段のバーの営業の延長線上にある大会といえると思います」

ワールドクラス 2019 グローバルファイナルTOP8の面々。

ワールドクラス 2019 グローバルファイナルTOP8の面々。

ワールドクラスで勝つ方法って!?

最後にお聞きします。ずばりワールドクラスで勝つ方法は?

【バニー】「まずはレギュレーション(大会規定)をきちんと理解すること。せっかく技術も優れているし、パフォーマンスも素晴らしいのに、ルールの理解ミスで躓いてしまう方が多いように感じました。でも、日本の方は少ないかもしれませんが……(笑)」

【バニー】「それから自分の強みを理解すること。私の場合はスマイル、でした(笑)。ゲストであるジャッジに心から楽しんでほしいという気持ちが強いので、笑顔が自然に出せるように実は何度も笑顔の練習もしたんですよ。そのことは普段のバーでの営業、つまりは自分らしいホスピタリティにも繋がりました」

吉田さんはいかがですか?

【吉田】「やはり何度も申し上げていますが、パーソナリティが大切だと思います。たぶん皆さん、勝つためにいろいろと対策を練られると思うのですが、それ自体は間違っていません。ただし、その中で、周りの声に流され過ぎてしまったり、トレンドを意識し過ぎてしまったりして、自分のパーソナリティを見失わないようにしてほしいですね」

【吉田】「チャレンジするのは自分自身。自分の味、自分のパフォーマンスに自信を持って、ブレないことが必要です。自信を持つためには、やはり日々の営業や誰かの真似ではない練習が大きな助けになると思います」

【バニー】「あとはやっぱり楽しむことですよね。特に若いバーテンダーの方は普段、自分の裁量でレシピを決める機会は少ないと思うんです。でもワールドクラスは自分でレシピを決められる。しかも自由に、好きなように。そう、頭の中にあった自分のアイデアを実践するチャンスなんです!」

【吉田】「2019年大会のTOP8のうち、実に5人がアジアのバーテンダーだったのですが、自由なバーカルチャーの中で育ってきたせいか、みんな発想力がスゴい。技術や作法も一昔前では考えられないほどレベルが高い。そしてみんな若い!」

【バニー】「若さだって、大切なパーソナリティの一つ。イギリス代表のバーテンダーは確か22歳だったと思います。結局はその人次第なので、年齢や性別、国籍、経験などは関係ありません。ゲストは、アナタがどんなバーテンダーで、どんなカクテルを作ってくれて、どんな風にサービスしてくれるかを楽しみにしています。今年はジャッジとして各国の大会に出向くことが多くなると思うので、私自身もどんなバーテンダーに会えるか楽しみです」

【吉田】「挑戦すれば、必ず得るものがある。それがワールドクラス。私もジャパン アンバサダーとして、今年のワールドクラスが楽しみで仕方ありません。ぜひ一緒に日本のバーカルチャーを盛り上げましょう!」


★ワールドクラス ジャパン オフィシャルサイト
www.wcjapan.jp

【編集部注】
2020年の日本大会ならびに世界大会は2021年に延期となりました。残念です!


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