【スペシャルレポート】
中垣繁幸氏×アンドレ・チャン氏
カクテルペアリングの最前線はこんな感じ!

SPECIAL FEATURE特別取材

【スペシャルレポート】
中垣繁幸氏×アンドレ・チャン氏
カクテルペアリングの最前線はこんな感じ!

[vol.01] - シェフ、アンドレ・チャン氏とは!?

#Special Feature

2016年11月14日、金高大輝さんがオーナーバーテンダーを務めるシンガポールのBAR「D.Bispoke」において、岐阜「BAROSSA cocktailier」の中垣繁幸さんがゲストバーテンダーとして招かれ、カクテルペアリングディナーを行いました。

ペアリングの相手は、シンガポールを代表するグランシェフのアンドレ・チャン(André Chiang)さん。

アンドレさんは台湾生まれ。13〜15歳までを日本で過ごし、15歳でフランスへ渡ると、「ルジャルダンデ・サンス」「メゾン・トロワグロ」「ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション」「ピエール・ガニェール」「ラストランス」といったフランス全土の名店で修行を重ねました。

そして2010年、シンガポールに「レストラン・アンドレ」を開店。

現在はミシュランガイドの二つ星を堅持し、「The World's 50 Best Restaurants 2016」で32位、「Asia's 50 Best Restaurants」で3位を獲得しています。

さて、一体どんなカクテルペアリングとなったのでしょうか?

ここからは、中垣さん本人によるレポートをお届けします!

※アンドレ・チャンさんは、料理の構成に独自のオクタフィロソフィ(8つの哲学)を確立し、世界の料理界に影響を与えている人物。オクタフィロソフィとは、以下の8つの哲学から成ります。
 1:「ピュア(Pure)」シーズニング(香辛料)を使わない料理。
 2:「ソルト(Sel)」塩という普遍的な調味料ではなく 海水の天然の塩味を用いた料理。
 3:「アルティザン(Artisan)」生産者がつくった素材そのままの味わいを 反映させた素朴な料理。
 4:「サウス(South)」自身が影響を受けた南フランスをイメージしたフレッシュな食材と酸味を特徴とした料理。
 5:「テクスチャー(Texture)」食感を重要視し、ひとつの食材の様々な側面を引き出した料理。
 6:「ユニーク(Unique)」ユニークな食材のコンビネーション、あるいは限られた時期にしか入手できないユニークな食材の料理。
 7:「メモリー(Memory)」創造性は現在や未来だけでなく、過去の思い出からも生まれることを表現する料理。
 8:「テロワール(Terroir)」「土地らしさ」に加え「自分らしさ」を表現した料理。

今回のカクテルペアリングの舞台は、BAR「D.Bespoke」。

オールドイングランド調の雰囲気の中、 西陣織や、日本の伝統工芸による素材がセンス良く配された金高さんならではの大人の空間。

二階にもカウンターと、瀟洒なシガールームを配した、とても広くて、贅沢な造りのオーセンティックバーです。

今回は19名様限定企画のところ、急遽一席増やして 20席での満席を頂戴いたしました。

前菜からデザートを含めた8品の皿に合わせたカクテルを8杯ご用意させて戴きます。

事前に日本とシンガポールの間でやりとりしたのは、料理名とその料理についての1〜2行程度のコメントのみ。

レシピのやり取りのないままでの本番です。

まるでJazzのセッションのよう。

寸前のチェックでどこまで詰められるかがペアリングの明暗を分けます。

8杯×20名=160杯をお待たせしないように提供するには、事前の準備が重要になります。

味のペアリングは勿論ですが、料理とのタイミングがペアリングできていないと話になりません。

二日前から細かな仕込みを開始して挑みますが、微妙な酸の調整などは料理が仕上がる数分前にしか決められません。

お客様が揃われ、アミューズが出る直前に一杯目のご用意。ここからはノンストップです。

一杯目。

料理とマッチする味わいであることは勿論、アペリティフ、スターターとしての役割を果たせるかが重要。

一杯目に要求されるのはきっと、グラスシャンパーニュのような、甘さの少ない爽やかな一杯。

上質なシャンパーニュにも負けない満足感を与えられなければ、カクテルペアリングを提案する意味も無くなってしまいます。

アミューズ・ブーシェ一品目は「小さな茸のクロカンブッシュ」。

シャンピニヨンで作られたメレンゲ状のタルト生地とマイクロ茸で作られた一口のお料理。

味付けは優しいが、キノコのおいしさがしっかり味わえる一品。

続いて、ふたつ目は「ダークチェリーとバルサミコのカプセル」。

料理の全貌が見えないまま、 ほぼヤマカンで想像していた料理の味わいと、 カクテルの歯車が一品目からカッチリと噛合いました。

今年の初夏に青森・八戸のバーテンダー、 久保さんが収穫して送ってくださった無農薬カシスを使って仕込んだ無糖の自家製カシスリキュールとペリエの一杯。

このカシスの実が素晴らしく、とても綺麗で素直な酸と、まるでニュイの銘醸ワインを思わせるような 滑らかなタンニンと旨味成分までを楽しむことができる、厚みあるリキュールに仕上がっています。

そこに日本で仕込んだ牛蒡のコンフィのスティックを添え、グラスの周りには竹炭で黒く染めた完熟マンゴーのピュレを塗りつけ、カシスの色彩を引き立てました。

マンゴー特有のねっとりとした味わいとマイクロ茸が好相性。

土っぽさを狙って添えた牛蒡もキノコの旨味を魅き立てます。

二品目のショコラで出来たカプセルとダークチェリーとバルサミコのエキスの相性は同調ペアリングのお手本のようなマッチング。幸先の良いスタートを切れました。

※今回アンドレシェフはよりアグレッシヴな料理を提供する為に、ご自身のオクタフィロソフィ(8の哲学)は例外的に外した料理に挑戦してくださいましたが、アンドレシェフへのオマージュを込めて、今回は僕なりのオクタフィロソフィを立ててみました。

1杯目のカクテル名「Organic Cassis-Soda」。

第1のフロソフィは「Farm-to-glass」。カシスを収穫してくださった久保氏への感謝も込めて……。

二品目の料理は「スモークしたカンパチ、若芽のジュレと、コンコンブルのミルフィーユ仕立て」。

この料理から想像したのは、 昆布締めのような旨味と柔らかな薫香をもつカンパチの刺身ときゅうりのしゃっきりした食感とミネラル。海藻の塩味とスッキリした後味。

合わせたお酒は、カンパチのもっちりした味わいに対して、穀類の甘さをもつ酒を合わせました。

コンパクトな甘さと小気味良い後味のウィスキーとして「ICHIRO’s MALT on the way」をベースに起用。

現在のご時世では「勿体無い」と云われてしまいそうですが、今回のディナーの設定金額はお一人様570シンガポールドル(約45,000円)のスペシャル・ディナー。

自店の普段の営業ではできないことにも挑戦させて貰えます。

そこに、岐阜の素晴らしい素材、白扇酒造さんの「福来純本みりん」を使用。

「甘みづけ」というより、ペアリングの為の飲料のボティを米の甘さで「旨味」として膨らませる役割。

僕がフードペアリングの際に作るカクテルの特徴は「砂糖、または砂糖を使ったリキュールやシロップ」を殆んど使用しないことです。

これは、僕が学んだ料理の基礎が クラシックな西洋料理にあるからだと思います。

現代フレンチの世界では 砂糖が使われた料理も見るようになりましたが、僕が学んだ頃は「西洋料理の味付けに砂糖を使ってはいけない」という教えがありました。

次に酸を加えます。

地元岐阜の樹上で黄色く完熟した、酸がとっても綺麗な「すだち」を入手できましたので、これに下処理を施して使用。

イチローズ・モルトと本みりんの舌に残らない甘さと、酸の消え方が綺麗になる下処理を施したすだちに、一晩かけて水出しした穏やかなタンニンの煎茶で味わいの骨格を構成しました。

そこに「香り」でさらに料理に近づけていきます。

選んだのは地元岐阜・大垣の名産品、日本の8割をここで生産している「ヒノキの枡」。

生産者様からヒノキの香りがぷんぷんする、削りたて、出来立ての枡をトランクいっぱいシンガポールに運びました。

ヒノキの爽やかな香りと海藻、きゅうり、〆たカンパチ……。

「合う! かならず」

しかし「日本人の心のふるさとの香り」ともいえるヒノキの香りが、超多民族国家シンガポールのゲストの皆様に、どんな味覚反応を示すのか……。

そこがちょっと心配であったために、バーナーで枡を炙ってスモーキーフレーヴァーを加えることにしました。

削りたてのヒノキの香りは少しマイルドになりますが、「チャー」したウッドの香りとカンパチの燻香ならば、国境を超えられるはず!

ペアリングの「保険」として用意したガーニッシュ「Dry-Seaweed(無添加おぼろ昆布をディハイドレーターにかけたもの)」は、料理の皿の中に入っていたとしても違和感の無い完璧すぎるガルニチュールになりました。

色々な国で生まれたお客様から、変わらぬお褒めの言葉を戴けるペアリングになりました。

2杯目、カクテル名「Balmy breeze/薫風(くんぷう)」。

第2のフィロソフィは「Flavor of Japan」。「Flavor of Gifu」でもよかったかな……。

次は料理の運ばれる前にドリンクをセッティングします。

氷水に三本のチューブ(遠沈菅)と空のワイングラス……。最近の日本産ワインの品質向上が目覚ましいですが、その周辺ではおいしさを生み出す研究開発が行われているようです。

ワインの香りを機械に嗅がせることで香気成分を分析数値化する機器(ガスクロマトグラフ質量分析装置)で、ワインの香気成分の魅力的な部分を高める研究が進んでいるそう。

白ワインを例えにすると、香気成分の魅力となる大きな骨格は、日本の清酒の香りを嗅いだ時に近い香気成分と、柑橘(特にグレープフルーツ)に共通する香気成分、花(特に金木犀)に共通する香気成分の3タイプで構成されていて、この3つが揃うと、魅力的な白ワインの香りのボディができる、との研究結果が……。

その情報をヒントに作ってみたのがこの三本のチューブです。
 ①清酒(シンガポールでご用意戴いた数種類の清酒をブレンド)
 ②グレープフルーツ果汁(シンガポールではホワイト・グレープフルーツが流通していない為ルビー種で)
 ③自家製金木犀リキュール(今回のペアリングを予期することなく毎年仕込んでいた当店の名物リキュールが役立ちました)

以上、三本の遠沈菅の香りをそれぞれ嗅いでいただいてから、御自身でワイングラスに注ぎ込んでカクテルを完成させ、お召し上がりいただきます。

お客様自らの手で混ぜてお造り戴いた「D.I.Y.wine-cocktail」。

飲み口は自然派のミュスカ・ダンブールあたり? 香りはコンドリュー(ヴィオニエ)的フローラルな印象。

多くのゲストから驚きと、賛辞のお言葉をいただきました。

有り難いことに料理の前のタイミングで提供したドリンクが好評で、お皿の前に無くなってしまうのではないかとハラハラしている中、登場した料理「オマールのグリルとキャビア・ド・オーベルジーヌ クリーンなホタテ貝のシートのラザニア仕立て」。

アンドレシェフならではの緻密な仕事でこそ成立すると思われるクリーンな帆立のシート、贅沢なオマールの身と、アンドレシェフのルーツ「台湾」を感じさせるアジア的味付けがなされたキャヴィア・ド・オーベルジーヌ(茄子で作る伝統料理。見た目がキャヴィアっぽいのでこの名前が付いています)。

このお料理と先の再構築ワインのアロマがドンピシャ!

この料理でも「運」に助けられました。

3杯目のカクテル名は「Vins-reconstruct/ワイン再構築」。

第3のフィロソフィは 「Taste components puzzle/味わいのパズル」。


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