バーツールが進化した?
次世代シェイカー、見参!
<後編>

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バーツールが進化した?
次世代シェイカー、見参!
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横山栄介さん、横山哲也さん by「Bar N」

アップルやウォルト・ディズニーのように、物語のある製品を目指した横山栄介さん、哲也さん。完成した<BIRDY.™>は、バーテンダーたちにはどう見えるのか?開発協力者である名古屋「バー N」の松本貴之さんを訪ねた。

文:Ryoko Kuraishi

先日、東京でお披露目を兼ねて開催された先行発売会。数十人のバーテンダーが駆けつけ、その使い心地を試した。

ここは名古屋中心部にほど近い「バー N」。
前回お伝えした、まったく新しいシェイカー<BIRDY.™>。
その開発秘話をバーテンダーの松本貴之さんに語っていただこう。


バーテンダーとはとかくシェイクを気にするもの。
が、たとえシェイクに一家言あっても、その道具たるシェイカーに思いを馳せるバーテンダーはほとんどいないだろう、と松本さん。
1年前、常連客である横山哲也さんに、磨きこんだ日本酒グラスの話を持ちかけられたのが松本さんだ。
そのグラス、確かに味は変わるように感じられたものの、その違いを感じる人はほとんどいないだろう。
それにも増して、情緒の感じられない金属のグラスで日本酒を飲む人はいないだろう、そう指摘したと回想する。


「それでシェイカーを提案してみたんですが、試作品を振ってみてすぐに手応えを感じました。
おそらくバーテンダーなら、シェイカーを振ってみたらこの感覚の違いはわかると思います。
液体がいつもよりスムーズにシェイカーのなかで回転している、そんな風に感じました」

ヒアリングとテイスティングを兼ねて「バー N」へ赴く二人。もともとは哲也さんが個人的に通っていたバーだった。

始めは水で、次にギムレットで試した。
撹拌効率はバーテンダーにしかわからないが、それによって味にも変化が生まれるものなのだろうか?
そう疑問を口にしたら、松本さんが従来のシェーカーと<BIRDY.™>、二つのシェイカーで作ったギムレットで飲み比べさせてくれると言う。
二つはどちらも同じ素材、同じレシピで作ってもらい、とくにシェイクに関しても差をつけず振ってもらった。


まずは見た目。いつものシェイカーで作ったギムレットより<BIRDY.™>で作ったもののほうが、色がわずかに白っぽく見える。
心なしかまったりと、クリーミーになっているようにも見える。
白っぽく見えているのは微細な気泡だろうか。
そもそも、<BIRDY.™>のギムレットはシェイカーからの出がとてつもなく悪い。
松本さんに言われれば、いつものシェイカーに比べて量もとれなくなるんだとか。


味は……激変といっても差し支えないだろう。
従来のシェイカーを使ったギムレットももちろんおいしいのだが、<BIRDY.™>のギムレットはもはや別物。
アルコールの刺激分が少なくなり、味はよりまろやかに。
アルコールのとがった香りの代わりに、ジンそのものの香りがたってくるような。

その後、グラスホッパー、サイドカーと試したが、<BIRDY.™>のカクテルは総じて香りが立ち、アルコールの刺激がマイルドに、味わいはまろやかに変化しているように感じた。
サイドカーは半時間を置いてもクリーミーな味わいそのまま、おいしくいただけた。

たくさんのバーテンダーに協力をお願いしたが、中でもお世話になったのが「バー N」のオーナーバーテンダー、松本貴之さん。店内には120年前のアンティークのバカラやローゼンタール、その他美しいグラスがいっぱいだ。「道具もグラスもきりっとした表情のものを使いたい」という本人の姿勢が表れている。

「<BIRDY.™>を使うと混ざりすぎてしまうんです。
だからアルコールのとがった味わいを楽しみたいカクテルには不向きだし、フルーツを使うカクテルだとフルーツの繊細な味わいが混ざりすぎてしまうことで消えてしまい、味が薄いと感じられてしまう。
試作段階から使っていますが、うちの店のカラーや僕のスタイルもあるので、いままでのシェイカーと<BIRDY.™>と、併用して使っていこうと思っています」


そもそも砂糖を加えないスタイルのギムレットにこだわってきた松本さんにとって、甘みを際立たせるこのシェイカーは「ギムレットにいれる砂糖は、このカクテルに合うから入れるのか、あるいはレシピにそうあるから入れるのか。そんなカクテルの根底について思いを巡らす、きっかけになった」とか。


「<BIRDY.™>はいつものシェイカーより少しだけ重いし、形も独特。
確かに始めは『振りにくい、重い』と感じました。
でもそれは慣れの問題で。
バーテンダーの中には、道具によって味が変わることをよしとしない人もいるでしょう。
アナログカメラからデジタルカメラに変わるようなものですから。
ではフォトグラファーはアナログカメラじゃないと緊張感のある写真は撮れないかというと、決してそうではない。
バーテンダーとシェイカーにおける関係も、同じようなものだと思うんです」


松本さんいわく、道具は道具にすぎず、できあがった作品が自分自身であるとすれば、道具がどんなものであろうと作品に投影される自分自身のスタイルや思いは変わらないはず。
15年間シェイカーを振り続けたからこそ、そう強く信じられる。

さっそく味見させてもらったギムレット。左は<BIRDY.™>で、右は従来のシェイカーで作ってもらったもの。哲也さんらもギムレットのテイスティングを重ね、試行錯誤して精度を高めていった。

一方、松本さんのプロェッショナルらしい指摘を哲也さんはこう捉える。


「私たちの<BIRDY.™>が、様々な考え方を持つバーテンダーの方々に使って頂きそれぞれの哲学についていま一度、思いめぐらすきっかけになってくれたら、製作者としてはこんなに嬉しいことはありません。
スタイルも哲学も異なる多くの方に手に取っていただいて、多くの意見やアドバイスを頂戴できたらありがたい。
反対意見でも批判でもいいんです。
より多くの視点があればこそ、プロダクトとしてより洗練するのですから」


先日、東京で行われた先行販売会にはスタイルも考え方も異なる多くのバーテンダーが、東京近県はもちろん、山梨から、名古屋から、噂を聞きつけて訪れてくれた。
会場となったキッチンスタジオには、バーテンダーたちが自由にシェイカーを使えるよう、リキュールやスピリッツ、氷などを用意。
来場者は製品のコンセプトについて説明を受けた後、キッチンでそれを実際に試すことができる。


今までにはないフォルムゆえ、使い勝手に違和感を覚えるのは当然だが、それでも「従来のシェイカーにはない圧倒的な混ざりやすさ」「味のまろやかさ」を感じた人が多かったようだ。
販売会にて<BIRDY.™>を試してみての感想を、いくつかご紹介しよう。

新奇なものに魅力を感じるバーテンダーが集まった先行販売会。その可能性を感じくれたのだろう、来場者の7割近くが<BIRDY.™>を購入していった。<BIRDY.™>は11月18日(月)より オフィシャルサイト(http://birdy.jp.net)にて 販売開始する。(オフィシャルサイトのみでの取り扱い)

神楽坂「Bar Stock」の澤村正之さんは「今までの(シェイカーへの)概念がひっくり返るほどの出来の良さ」とコメント。


Bar Helissioの古宮賢人さんは「シェイカーの中で液体と氷がきれいな弧を描いて回っている感じ。従来のシェイカーは氷の動きが直線的だと感じていたが、そういう意味で使いやすいと思った。まずは慣れることが必要だが、可能性を感じる」と手応えを話してくれた。


多くのバーテンダーと意見を交換しあい、栄介さん&哲也さんは「子どものような好奇心を持つ人に、自由な発想で、楽しく使ってもらいたい」、そんな開発当初の思いをますます強くしたようだ。


開発者と開発協力者であるバーテンダーたちの熱い気持ちがこめられた<BIRDY.™>。
自分たちの企業理念である自由な発想や無限のクリエイションを忘れず、志しを同じくする異分野の多くのプロフェッショナルと手を組み、この世に生まれた次世代プロダクトだ。
果たして今後、このシェイカーがいかなる評価を獲得するのか。
<BIRDY.™>の未来にどりぷらも引き続き注目する予定だ。


その前にまずは実際に手に取り、その革新を肌で感じてみていただきたい。

Bar N
愛知県名古屋市中区錦2-10-24
TEL:052-221-7558

SPECIAL FEATURE特別取材