バーツールが進化した?
次世代シェイカー、見参!
<前編>

PICK UPピックアップ

バーツールが進化した?
次世代シェイカー、見参!
<前編>

#Pick up

横山栄介さん、横山哲也さん by「BIRDY.」

愛知県豊田市のとある自動車部品加工会社。この、バーツールとは一見何の関係もなさそうな会社が今月の主役だ。「ものがたり」「現代のイノベーション」を求めて開発した、まったく新しいシェイカーとは?

文:Ryoko Kuraishi

トヨタ自動車本社にもほど近い、大見町にある横山興業株式会社。「創意無限」と社訓が掲げられた工場内では自動車部品を製造している。この工場内の一角からバーツールが誕生した。

名古屋駅から在来線でおよそ1時間。
愛知県豊田市にある横山興業株式会社は自動車部品のプレス・溶接加工などを行って自動車産業に寄与している。
創業昭和26年。
初代は脱サラしてこの会社の前身であるトタン工場を始めたそうだが、どうやらかなりのアイデアマンで特許も持っていたらしい。
創業から3年後、プレス業を始め自動車産業に参入した。


それから約60年。
初代の孫であり、そのアイデアや進取の気性を受け継いだ横山栄介さん・哲也さんの兄弟が、祖父に負けじとイノベーションの気持ちを持ち続け、新たな商品開発に取り組んだ。
新奇なものへの理解が深い横山眞久社長のバックアップもあり、まったくの異業種において新商品を生み出したのだ。


その名も<BIRDY.™>。
来る11月18日に発売される、まったく新しいシェイカーである。
ゴルフのバーディにかけた<BIRDY.™>は、水準を意味する「パー」よりも一段階イイものを、という希望をこめてつけられた。
それにしても一体どうして、自動車部品製造の会社がバーツールを?


商品企画を主に手がけたのは、商品企画室室長である弟の哲也さん。
東京の大学を卒業後、都内でウェブデザイナーとして働いていた。
およそ3年前、家業がタイへ進出するに伴い、故郷に戻るよう促された。
豊田市に移り住んだ後も、今までに培った経験や人脈を活かして家業の枠組みのなかで「なにか」できないか探る日々を過ごしていた。
ただ、製造業には縁遠かったためその「なにか」が見つからなかった。

ここが新製品開発室。関係者以外立入り禁止で、同じ工場で働くスタッフ内にもこの製品の詳しい作り方は知られていない。

哲也「そうしてタイ人スタッフとコミュニケ—ションを図っているうちに、田舎のいち中小企業と思っていた家業が意外にも世界を舞台にやっていけるだけの技術力を持っていると理解するようになりました。
また、そのタイの工場で作られた部品を載せたクルマが世界中に流通するさまを目の当たりにし、モノを作る世界ならではのダイナミズムに魅力を感じるようになったんです。
クリエイティブな製品を作り世界に広めたい!そう考えたとき、デザイナーだったときよりもむしろ今の方が、より現実的な環境にいる。
タイでそんなことに気がついたんです」


一方、専務取締役である兄の栄介さんは、早くに製造業の行き詰まりを感じていた。
栄介「タイの工場では日本人スタッフのサポートがあれば、タイ人スタッフだけでもある程度のことがまかなえたんです。
のみならず、しがらみに縛られない彼らの方が時に面白いものを作ってしまうこともありました。


下請け企業が海外に進出したり、あるいは独自に商品を生み出したりする時代です。
そういう現状をふまえて私たちの方向性は、既存の事業を第一に、大企業の下請けながらも海外進出と突出した技術によって国内外の多くの企業に必要とされる事業にしていく。
そして、それとは別に本業を活かした形で自社商品を生み出す事業を展開していく。
それが既存の事業に、ひいては会社全体によいカンフル剤となるに違いない。
そんな風に考えるようになりました。
ですから、多少のリスクを冒しても、異業種で独自製品を開発してみようと思い至ったんです」

開発室であり工房であるこちらには、過去の試作品がずらり。それぞれシェーカー内側の金属表面の波形を変えて研磨したものだ。

いわく、従来の「ものづくり」では「つくり」、つまり製造工程しか念頭になかったが、これからは「もの」の部分、アイデアや仕掛け、そのものの哲学、背後に潜むストーリーこそが重要になるのではないか、そんな風に考えたのだ。
日本ではいまだ「つくり」の部分がきちんと残っているからこそ、「もの」が鍵になってくる。
製造業に携わる二人ならではの考え方と言えるだろう。


会社の理念である「創意無限・脱皮成長」のスピリッツを、独自の製品開発という分野でイノベーションを進めたい。
とするならば、「もの」の背景に見える物語にこだわった、自分たちならではのプロダクトが必要だ!


そんな兄弟二人の思惑が合致して生まれたのが、新商品開発プロジェクトであり、この度お披露目された新シェイカー、<BIRDY.™>である。


それにしてもなぜ、シェイカー?


栄介「プレス加工の現場で用いている我が社独自の技術があります。
高い金型技術と金型精度により次世代のプレス加工ができるという新技術なんですが、その一つである、金属をぴかぴかに磨くテクニックを使い新たな商品を開発できないか。
新商品としてそれを考えてみようということになりました」


哲也「自動車のシートの製作に携わっていますし、普通だったら車いすとかそういうものが妥当なんでしょうが、僕としては心の底から愛情を注げるものを作りたいと思いました。
では愛情が注げるものって何だろうと思った時に、自然と『お酒にまつわるもの』というアイデアが湧いてきました。
バーに行くのもお酒を飲むのも大好きで、20歳のころから一人でバー巡りをしていましたから。
僕は日本酒が大好きなので、まずは世界一、日本酒をおいしく飲める器を作ってみてはどうだろうかと考えまして」

<BIRDY.™>の製造に関わるスタッフはわずかに2人。本体を燕三条の別会社に作ってもらい、内側の加工のみをここで行っている。この分業制を取り入れたことでスピーディーに商品化が進められた。

試作品は、シェイカーを途中でぶったぎったようなメタルのグラス。
ただし、内側の表面を磨きに磨いた。
一見、なめらかに見える金属の表面も、ミクロのレベルで考えるとまるで剣山のように鋭い凸凹があるという。
その凸凹面を0.1ミクロン単位で磨き、滑らかにすれば、中の液体の分子が分離せず滑らかでまとまった味になるのではないか……。


哲也「よく行く日本酒バーに持っていき、オーナーと早速、飲み比べてみました。
確かに味は変わるんだけど、それはプラシーボ効果といっても差し支えがないくらい、微細な変化で(笑)。
そんなとき、これまたしょっちゅう足を運んでいる『バー N』のバーテンダー、松本さんに『じゃあ、シェイカーで試してみたら?』と提案されました」


シェイカーの内部を磨く、つまり撹拌効率をあげる!
なるほど、と合点のいった哲也さんはさっそく市販のシェーカーを準備した。
そして工場内で内部を磨きこみ、金属表面に残る波形の測定を行った。
試行錯誤を重ねるなか、ただ表面を平らにするよりも微妙な凹凸を残したほうが効果的であることもわかってきた。
その凹凸の波形の形や大きさを変え、試作品を作っては松本さんのもとに持ち込んだ。


また、哲也さんのイノベーションの矛先は金属表面の波形だけでなく、シェイカーのフォルムそのものにも及んだ。


哲也「シェイカーといえば40年前からこの形ですが、どうしてこの形になったのか、その必然性を調べてみてもどうも答えが見つからない。
だったらどんな形がシェイカーに適しているのか、たくさんのバーテンダーとコミュニケ—ションを図りながら、あらためて考えてみようと思って」

11月10日(日)、11日(月)の2日間、このシェイカーおよびミキシンググラスの先行販売会を東京で開催予定だ。新宿御苑前駅にほど近い「Garedn Kitchen」にて、両日とも10時半〜17時まで。興味をお持ちの方は info@birdy.jp.net へご連絡を。

「石の華」の石垣さんからはラグビーボールのような球形ならより撹拌しやすくなるはずだ、そんなアドバイスをもらった。
そのアドバイスを基に製作した<BIRDY.™>は、従来のシェイカーに比べれば丸くてほっこりしたフォルム。
ラグビーボール状も試してみたかったが、実際の使い勝手を考えて自立するデザインを選んだ。


哲也「機能だけを考えたら限りなく撹拌ロスを少なくする球形がいいけれど、いろいろな人に使ってもらいたいから、人に寄り添うフォルム、デザインに仕上げたかった。
機能はもちろん、ユースフルで手に取りやすい・取りたくなるデザインも、プロダクトには欠かせませんから」


さて、内側の磨きには自信があったが、果たしてそれを多くのバーテンダーはどう捉えるだろうか。
デザイン、使い勝手、重さはどうか。
そもそもバーテンダーはシェイカーにどんな機能を求めているんだろうか。
そんなことを知りたくて、とにかくアポなしでさまざまなバーへ出かけ、それぞれのシェイカー論をヒアリングしたという。


哲也「バーテンダーはみなさん、職人気質の持ち主ですから、新しい道具への感じ方も人それぞれ。
新しいシェイカーというだけで興味を示し、すぐに使いたい、あるいは一緒に新しいものを考えていきたいという好奇心旺盛な方もおられれば、たとえ新しい道具がいいものだとしても従来の道具に愛着があるとおっしゃる方、もうちょっと様子を見てから….と慎重な方もおられました」


その中でも好意的だったのが前述の松本さん、石垣さん、そして新宿にある『バーブリューダ』の菅野さん、神楽坂『バーSTOCK』澤村さんたちです。
銀座『タリスカー』の内田さんは『ミキシンググラスも作ったほうがいい』と助言してくださいました。
他にも、協力的なバーテンダーの方々からためになるアドバイスをたくさん、いただきました」


栄介「新しいものへの批判は少なからずあるでしょうが、私たちはこれをバーツールのイノベーションであり進化と考えていますから、同じように進化を目指すバーテンダーのみなさんに興味を持ってもらえたら嬉しいですね」


後編では「バー N」松本バーテンダーにご協力をいただき、新しいシェーカーと従来のシェイカーを使っての飲み比べをリポート。
見かけ、使いやすさ、そして肝心の味はどうなのか?
おいしくなるのか、変わらないのか、乞うご期待!
また今月10、11日に開催予定の先行販売会の模様もご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

BIRDY.
愛知県豊田市大見町1-61
URL:http://birdy.jp.net/

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