こだわりの職人魂炸裂!
日本屈指の地ビールマイスター。
<前編>

PICK UPピックアップ

こだわりの職人魂炸裂!
日本屈指の地ビールマイスター。
<前編>

#Pick up

醸造長 山田一巳さん by「ブルーパブレストラン ROCK」

八ヶ岳山麓にスゴいビールがある、と聞いた。「一番搾りの生みの親が、自分の“夢”をかけて作り上げたビールがある」と。今回はビールマイスター、山田一巳さんと、彼が手がけた八ヶ岳地ビール誕生までのお話。

文:Ryoko Kuraishi

八ヶ岳ブルワリーのある萌木の村から、頂きに雪を抱いた八ヶ岳を望む。 Photos Tetsuya Yamamoto

ビール一筋半世紀、とにかくすごい人なのである。
キリンビールで醸造・仕込み・発酵部門をそれぞれ務めあげた後、
パイロットプラント(新商品開発部門)責任者として
「一番搾り」、隠れた名品「ハートランド」などを手がけたという生粋のビール職人だ。


世に出ないものも含め、数千ものビールをひたすらに作り続けた山田一巳さんは、
キリンビール退職後、縁あって清里の新規ブルワリーで地ビール作りに携わることになる。
それが今から14年まえのこと。

「昔、清里ってブームになりましたけどねえ。
ここで地ビールを、って誘われて初めて足を踏み入れましたよ」

40年間ビールを作り続け、退職後もまたビール。
山田さん、なにがそんなにもあなたを惹きつけるんでしょう?

「清里に来るときにね、ここのオーナーに言いました。
おれはここにビールを作りに来たんじゃない、夢を作りに来たんだってね」

ビール作りのキャリアを買われ、八ヶ岳ブルワリーの初代醸造長として
地ビールの開発を手がけることになった山田さん。
「夢」と自らが語る通り、自らの心に適うビールだけを妥協することなく追い求める。

レストラン「ロック」の施設内にある八ヶ岳ブルワリー。現在、山田さんのほかスタッフ二人がフル稼働して仕込みから瓶詰めまでを行っている。

そのこだわりの一部をご紹介しよう。
ビールの命、発酵の立役者ともいうべき酵母は、本場ドイツからわざわざ空輸したもの。
ミュンヘン工科大学ヴァイヘンシュテファン醸造所の、門外不出といわれた酵母を使っている。

「わざわざドイツからって言われるけどさ、
国内ではなかなかいい酵母が見つからないんだよ。
大手は自分のところのいい酵母は絶対に表に出さないしな。
だから多少コストがかかっても、今使っているドイツの酵母がベスト」

ホップは快い苦みと香りをもたらす、主にチェコ産のものを厳選して使用。
そしてビールが自然に、ゆっくりと熟成していくのを待つ。

熟成期間が長いものを仕込むと、限られた施設ではタンク繰りが大変だが、
「じっくり熟成」というプロセスはここのビールに欠かせない。
おまけに濾過も熱処理も施されないから、瓶詰めされたビールの中では酵母が生きているとか。
これぞまさしく生ビール。


小ロットなのにこのこだわりよう!おいしいわけですね。

「ビールってのは嗜好品だろ?
よく『究極のビールってどんなビールですか』って尋ねられるんだけど、
おれは究極のビールなんて存在しないと思うんだよ。
10人いれば10通りの好みがある。それがビールだよ。

でも作り手としては、万人が『悪くない』というビールよりも、
そのうちの3人に『うまい!』って言ってもらえるような、そんなビールが作りたいね」


幸いなことに地ビールは大手メーカーのビールと比べ、生産量が圧倒的に少ない。
生産量が少ないということは、束縛も少ない。
おまけに地ビールだ。その土地の風土を活かすことが求められる。

オーナーの理解も得られ、山田さんの個性と清里の風土が分ちがたく結びつき、
唯一無二の「八ヶ岳地ビール」が誕生した。

これぞ生ビール!タンクから直に注いだビールは、クリーミーな泡が特徴だ。この泡が断然、うまいのだ。

山田さん個人の見解としては、おいしいビールとは「おかわりのきくビール」だそう。

「ビールってさ、一口飲んでおいしい!と思っても、一杯飲めば十分、
そんな風に言われちゃうだろ?
そういう乾杯用の酒じゃなくて、飲み干したらもう一杯欲しくなる、
そんなビールがいいと思うな」


一口めはおいしいのに、一杯飲み干す頃には違う酒が欲しくなる、
それは時間とともにビールの味が落ちるから。

「たとえばのどごしよく仕上げるために炭酸ガスを加えたビール、
あれは味の変化が早いよ。
炭酸ガスは、酵母が麦汁の中の糖分を分解するときに生まれるもの。
うちのビールは酵母が生み出した自然のガスだから、泡だってうまいんだ」

そう言って醸造タンクから直接、熟成中のピルスナーを試飲させてくれた。
山田さん自慢のまっ白な泡は、まるで柔らかいクリームかミルクセーキのよう。
ふわふわ、とろっとろ。舌の上で霞のように消えていく。とにかくうまい。

「そうなんだよ、本来ビールはタンクから直接、できたてを飲むのがいちばんうまいんだ」

レストランの地下に貯蔵タンクやボトリングの機械がある。低温で発酵させるため、施設内は肌寒い。

八ヶ岳地ビール「タッチダウン」は現在全6種がラインナップ。
そのうち初めに誕生した、いわば「タッチダウン」の原点ともいうべきビールがピルスナーだ。

元々チェコのピルゼン地方で作られていたと言われるビールで、
大手メーカーが製造するほとんどがこのタイプ。
山田さんのピルスナーは手間ひまかけてじっくり熟成させており
さわやかな喉越しと繊細な泡、フルーティで何とも飲みやすい。

気候に合いつつ、お酒の飲めない女性にも楽しんでもらえるビールを目指した、と山田さん。


「地ビールとは、そもそもその土地の風土に寄り添ったビール。
だから清里の爽やかな風と気候に根ざしたビールを、と思って作ったよ」


当初、オーナーは八ヶ岳ブルワリーの第一号ビールペールエールをと考え、ボトルのラベルまで用意していたが、
山田さんの鶴の一声でピルスナーに変更。

「一から作るなら上面発酵なんてやらないよ!ってオーナーに言ったんだよ」


ペールエールが上面発酵なのに対し、ピルスナーは下面発酵。
下面発酵は下面発酵酵母を使用する。発酵温度が低めなので低温で貯蔵、じっくり熟成させる。

上面発酵より発酵速度は遅いが、すっきりした味に仕上がる。
19世紀以降、世界的に主流となっているのはこのタイプのビールだ。

できればブルワリー直送のできたてビールを楽しんで頂きたいが、いますぐ飲みたい!という方はボトルをどうぞ。ただいま季節限定の飲み比べセット(¥2,835 ~)もあり。

「主役のピルスナーが出来上がったのはレストランのオープンぎりぎり。
一時期はどうなることかと思ってたんだけど、
オープンの前日に工事の関係者を120人くらい招待してプレオープンを祝ったんだよ。

飲み放題だったんだけど、その数時間で400リットルも出てさ、
その時初めて『これはいける!』って安心したね。
飲み放題だからって、まずけりゃ400リットルも飲まないだろ?』


もう一つ、レストランオープンと同時にリリースしたのが
山田さんおすすめのデュンケルだ。
「ピルスナーと別に、遊び心でもう一種仕込んだ」という。

デュンケル、つまりダーク。発祥はミュンヘンといわれている。
オープン当初から老若男女を問わず人気ナンバーワン、全国種類コンクールで総合一位を受賞したこともあるという実力派。
もともとビール好きのために作ったというこちら、
麦芽をローストした濃厚な風味と香りは
「全国のどの地ビールにもひけをとらない!」と山田さんの自信作である。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

ブルーパブレストラン ROCK
山梨県北杜市高根町清里3545 萌木の村
TEL:0551-48-2521
URL:http://www.moeginomura.co.jp/ROCK/

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