Awamoriを世界のバーシーンへ。
沖縄で和のハードリカー、誕生。
<前編>

PICK UPピックアップ

Awamoriを世界のバーシーンへ。
沖縄で和のハードリカー、誕生。
<前編>

#Pick up

伊藝壱明さん by「瑞泉酒造株式会社」

日本が世界に誇る「ジャパニーズ・スピリッツ」。目下、バーシーンでも焼酎に注目が集まるが、スピリッツのなんたるかをさらに掘り下げた新カテゴリーが誕生した。沖縄発、新世代の泡盛って?

文:Ryoko Kuraishi

瑞穂酒造、石川酒造場、まさひろ酒造、瑞泉酒造の4社を中心に、やんばる酒造、ヘリオス酒造、金武酒造、崎山酒造廠、神村酒造、米島酒造、請福酒造、八重泉酒造の12社で共同開発した「尚」。ロゴのカラーは、それぞれの蒸留所の所在地を表している。本島北部は森の緑、中南部は首里城の赤、離島は海の青といった具合だ。

泡盛をバーで。そんなシーンを築きたい

今月、お披露目されたばかりの「尚」は、沖縄県内の泡盛メーカー12社が共同で商品開発を行った新生代の泡盛である。


米を原料とし米麹でデンプンを糖化、酵母でアルコール発酵させたもろみを一度だけ蒸留したものが泡盛。
米麹だけで造られる泡盛こそ、コメ文化が育んだジャパニーズ・スピリッツであるとの思いからスタートした、ホワイトスピリッツとして世界に通用する泡盛造り。
そのプロジェクトの背景をご紹介しよう。


「このプロジェクトはハードリカーの視点で泡盛を捉え直そうというもので、当初は商品開発までを行う予定はなかったんです」と言うのは、瑞泉酒造の製造部に所属する伊藝壱明さん。

明治20年に創業した瑞泉酒造。「尚」プロジェクトを牽引した酒造所の一つ。

「ここ数年の泡盛業界の低迷を受け、有志のメーカーで泡盛の勉強会を始めたのが始まりです。
実は、造り手である僕たち自身も泡盛=地酒という認識しか持っていませんでした。


地酒という認識では、沖縄より外に泡盛は広がりません。
そこでハードリカー、スピリッツというより広い視点を持って泡盛を捉え直すことが必要だと感じたのです」


平成29年から沖縄県酒造組合では、泡盛の酒質を客観的に評価しつつマーケティングもできる人材育成事業をスタートさせた。


それ以前に、沖縄国税事務所、沖縄県工業技術センター、琉球大学、沖縄高専の共同プロジェクトにより香味用語をまとめた「泡盛フレーバーホイール」を開発している。
これは酒質の見える化を掲げ、泡盛から感じるとることができる香りや味わいの表現を、科学的知見を踏まえて整理したものだ。


果実、ナッツ、バニラ、オイリーなど49種の表現を挙げたのだが、そもそもこれを活用して泡盛を客観的に評価するには味覚や嗅覚のトレーニングやマーケティングの能力も必要だった。

左が「泡盛フレーバーホイール」。これを使って泡盛の酒質を表現する。それをまとめて右図のような形に評価した。

伊藝さんもこの事業に参加した1人。
「2年間に渡ってトレーニングを受けたことで、他のハードリカーやスピリッツの区分の中で改めて泡盛を評価することが可能なのではと思ったのです」


そこで泡盛をホワイトスピリッツとして捉えた場合の強みと弱みをデータに落とし込み、他のスピリッツと比較。
その評価をプロダクトとして再現してみることになった。


「泡盛の特徴はコメ由来の甘み、甘い香り。
ホワイトスピリッツといえば一般にクリーンな口当たり、切れ味の良さが好まれますので、泡盛独特のオイリーさ、貯蔵容器からくるカメの香り、刺激感は、コメの香りとマッチしない可能性があります。


そこで、コメならではの甘い風味や香りは残しつつ、オイリーさを取り除いてクリーンな口当たりの泡盛を造ってみようと思いました」


当初は原酒をブレンドすることで目指す酒質を作り上げようと思ったが、どうにもうまくいかない。
そこでいよいよ、蒸留に着手することに。

世界のホワイトスピリッツを分析し、泡盛の立ち位置を客観的に把握するところからスタートした「尚」プロジェクト。

過去に例がない「3回蒸留」の泡盛

「通常、1回の蒸留でアルコール度数が50度を超える泡盛は複数蒸留を行いません。
ですが、このプロジェクトではホワイトスピリッツらしいクリーンでキレの良い口当たりに仕上げたかったので、3回蒸留という新たな製法を取ることにしました。
蒸留を重ねることで特定の味わいやキレが際立つのです。


3回目の蒸留の際はウイスキーと同様、目指す香味を意識してテイスティングしながらカットしています」


こうして出来上がったのがファーストサンプル。
「泡盛こそ和のハードリカーの本家である」、そう思わせる仕上がりだった。


当初は瑞穂酒造、石川酒造場、まさひろ酒造、瑞泉酒造の4社で商品開発を行っていたが、3回蒸留が可能な施設を備える他社にも声をかけ、トータル12社による共同開発というプロジェクトになったのだとか。


「ファーストサンプルでこれまでの泡盛とは全く異なる酒質のものができたので、全く新しい泡盛のカテゴリーやシーンを創設することができると思いました。
それなら業界全体で取り組む必要がありますから、できるだけ多くのメーカーを巻き込みたいと思ったのです」

泡盛では過去に例がない3回蒸留を取り入れることで、飲み口のクリーンさ、キレの良さを際立たせた。

面白いのは、全く同じ製法で、同じ銘柄の泡盛を同じアルコール度数で造っているにも関わらず、それぞれ異なる味わい、個性を備えているところ。
複数回蒸留により各社の個性が際立った結果だと、伊藝さんはいう。


「細かいルールを決めてあり、そのルールに則って造られているんですが、各社の蒸留器の形状といった設備面はもちろん、(カットを行う)テイスティングしている人の違いもあります。
そもそも泡盛は米麹100%の蒸留酒ですから原料となる麹の違いだけでも味わいは異なります」


こうして完成した、和のハードリカー、Awamori。
目指すシーンは、もちろんバー……?


後半ではバーにおける泡盛の可能性について考察する。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

瑞泉酒造株式会社
沖縄県那覇市首里崎山町 1-35
TEL:098-884-1968
URL:https://www.zuisen.co.jp

SPECIAL FEATURE特別取材