アメリカ西海岸&カリブ海発
2015年夏、ラム最新事情。
<前編>

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アメリカ西海岸&カリブ海発
2015年夏、ラム最新事情。
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海老沢忍さん by「日本ラム協会」

この春、日本ラム協会会長の海老沢忍さんはアメリカ西海岸&カリブ海諸国のラム酒造りの視察に出かけた。久々のカリブ、そしてアメリカ西海岸。今月は番外編として、現地の最新ラム事情をお届け!

文:Ryoko Kuraishi

海老沢さんが注目する、オークランドの「セント・ジョージ・スピリッツ」。空軍払い下げの広大な施設に、あらゆる設備がセンスよく配置されている。ちなみにトップ画像は、サンディエゴにある「マラハット・スピリッツ」。

今年の初め、およそ1ヶ月半をかけてアメリカ西海岸、およびドミニカ共和国、セント・ルシア、アンティグア、バルバドスとカリブ海沿岸の国を巡り、最新のラム事情を視察してきた日本ラム協会会長の海老沢忍さん。


西海岸では酒造業界の革命家たちが、カリブの国々では国旗を背負った酒造メーカーがそれぞれ、精力的にラム造りを行っていたという。
それではさっそく、今年注目すべきトピックをご紹介しよう。

こちらはドル紙幣にインスパイアされたという、「セント・ジョージ・スピリッツ」のラベル。ラベルのデザインはその一つ一つに物語があり、中にはオーナーのランスが当時の恋人(現・妻)を口説くために考案した(!)というユニークなデザインも。

1.アメリカ西海岸、マイクロディスティラリーの躍進

ラムといえば本場・カリブ海諸国を想像されるだろうが、今回の視察旅行で海老沢さんにとってもっとも印象的だったのが、才気あふれる西海岸の造り手たちの存在だ。


唯一無二の個性を宿す酒を目指すマイクロディスティラリーの存在は、クラフトビールやクラフトジンを通じて世界規模で注目を集めているが、ラムでも同様のシーンが起こっていた。
いずれもユニークなアイデアでラム酒造りに取り組むベンチャーたちであり、自らの手で新時代を切り拓くという気概を持っている。


「オークランドにある『セント・ジョージ・スピリッツ』は空軍払い下げの土地を活用している蒸留所。
ここではジンも造っているんですが、それが『世界のジン ベスト20』に選ばれ、かつモンキー47を抑えたというので注目していました。


広大な敷地の使い方や見せ方に独特のセンスがあって、蒸留所見学に来るファンの目線をも大切にしていると思いました。
ネーミングやラベルのデザインも洒落ているんです。
こういう感覚を持ち合わせるディスティラーが出てくると、ラムの未来も俄然、楽しみになりますよね」

蒸留所のオーナー、ランスは戦略的なビジネスマンと、アウトドア好きのロマンティストという二面性を併せ持つ。チャーミングな人柄も、西海岸の造り手たちの共通項だ。

ここでは南カリフォルニアのインペリアル・ヴァレーにあるサトウキビ畑と提携してアグリコール・ラムを造っている。
畑で収穫されたサトウキビはすぐさまこの蒸留所に運ばれ、手作業で搾汁機にかけられフレッシュな絞り汁になる。


当初、アメリカ西海岸でラムが、しかもカリフォルニアで栽培されたサトウキビで造られていることを知らなかった海老沢さん。
「小さな蒸留所を想像していたら、この設備、この情熱と理論!」と大いに感銘を受けたそう。
残念ながら昨冬はLAも寒すぎたようでサトウキビの出来はイマイチとのことだが、今後の活動に要注目の、アップカミングな蒸留所である。


一方、モントレーにある「ロスト・スピリッツ」はラム専門の小さな蒸留所。
ディスティラーの自宅の庭が蒸留所になっていて、蒸留器や発酵槽は手作り、ボイラーは廃業したホテルからもらってきたものを、自分で手直しして使っている。


「『セント・ジョージ・スピリッツ』から一転、こちらはフジロックの『ザ・パレス・オブ・ワンダー』みたいな雰囲気(笑)。
蒸留所へ訪問のアポを入れたら、なぜか『夜に来てくれ』、と。


何ごとかと思ったら、いかにも『密造酒を造っている』という、怪しげな雰囲気の演出をしてくれていました。
半時間ほどで見学は終わったのですが、今度は自宅リビングに通されて、パワーポイントで『僕の目指すラムについて』という内容のプレゼンが(笑)」

オーナーの世界観をそのまま自宅の庭に再現したマイクロディスティラリー、「ロスト・スピリッツ」。これからが楽しみな造り手のひとつ。

結果的に、このパワポのプレゼン内容が画期的で抜群に面白かった。
「つまり自分の好むヴィンテージ・ラムを徹底的に研究して、そのフレーバーや味わいをもっと手軽に、安く、短期間で再現するための『新技術』を開発したというんです。
その『新技術』は現在、特許出願中で、特許を取れ次第、そのアイデアを世界中に発信する予定だとか」


気になる「新技術」の内容だが、それはヴィンテージ・ラムのコピー(あるいはフェイク)を作るというものだった。
オーナーのブライアンは映画『ジュラシック・パーク』になぞらえ、「「DNA操作されて生まれた恐竜のようなもの」と説明する。


そのコピーをリーズナブルな値段で提供するというものだから、酒造業界からは大きな反発があるだろうと予想されるが、そうした批判は覚悟の上。
「大手メーカーからは『神への冒涜』なんて叩かれるだろうけれど、せっかく21世紀に生まれたからには新しい技術を用い、僕が愛してやまないラムを、流通に耐えうるリーズナブルな価格で提供したい」と、ブライアンもやる気十分だ。

サンディエゴにある「オールド・ハーバー」蒸留所にて。 「現在はジンのみをリリースしているけれど、次はラムの生産を準備中」とオーナーのマイケル。

このプレゼンに耳を傾けた海老沢さん、「酒造りの伝統やトラディショナルを大切にするヨーロッパ諸国や日本が踏み込めない領域に平気で入ってこられるのが、アメリカのディスティラーの強みだなと感じましたね」と、感慨深げ。
そしてもちろん、こうした目新しいアイデアに立ち上げの段階から支援者がついているというのもアメリカの懐の深さのゆえんといえそうだ。


「日本ではある程度の結果を出せないとスポンサーからの支援を取り付けることは難しいですが、アメリカでは西海岸に限らず、マイナーで面白いアイデアを実現させようとする人間をバックアップするという精神が、街にも個人の投資家にも息づいているように思います」と海老沢さん。


「彼が新技術で造ったというデメララ・スタイルのラムをテイスティングしましたが、たしかに一瞬だまされるんです。
熟成感とか、甘さとか。
発想が革命的ですよね。


シリコン・バレーにも近いし、新しいものを生み出してやろうという土壌が西海岸にはあるのでしょう。
次世代を牽引する蒸溜所が集まっていて何かを始めようとしている、そういうワクワク感や期待に満ちた視察となりました」


後編ではいよいよ、カリブ海の蒸留所事情をお届けする。


後編に続く。

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URL:http://www.rum-japan.jp

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