日本発クラフトビールはどうなる?
ビールのプロが考えた。<前編>

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日本発クラフトビールはどうなる?
ビールのプロが考えた。<前編>

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藤原ヒロユキさん by「日本ビアジャーナリスト協会」

雑誌「Beer&Pub」誌の編集長にして日本ビアジャーナリスト協会会長の藤原ヒロユキさん。先頃、新ビールをプロデュースした藤原さんに、日本におけるクラフトビールの興隆について伺った。

文:Ryoko Kuraishi

常陸野ネストビール、額田醸造所にて。ネストビール×アウグスビール×藤原さんの最強タッグで取り組んだ「バーレイ&ウィートワイン」造りが始まった。今年2月、ホップを自ら投入。

「ビール・ジャーナリスト」という職業をご存知だろうか。


ヨーロッパから北米、中南米、そしてアジア、オセアニアとあらゆる大陸、国で生産され、愛されているビール。
それゆえに多種多様なスタイルが存在し、明確に分類することは非常に困難だとされているが、
そうしたビールにまつわる様々な情報を豊富な知識と経験に基づき、整理して発信していく。
これがビール・ジャーナリストの仕事である。


昨年9月に発足した「日本ビアジャーナリスト協会」会長を務めるのは、
ビール・ジャーナリストにしてイラストレーターの藤原ヒロユキさん。


「現在は誰もが気軽に、ブログやツイッターといったメディアを通じ、匿名で情報を発信できる時代。
でもそれゆえに、好きや嫌いといった主観だけで発信された情報が入り乱れているのが現状です。
例えばIPA(インディア・ペール・エール)はホップの苦みが特徴であるのに、
『苦すぎて飲めない』と評していたりね。
だからこそ実名で、責任を持って精度の高い情報を発信する、そんな書き手の存在を痛感しました」
と協会発足のいきさつを語る。



現在、協会のメンバーは5人。
いずれもビールの書籍を手がけたり、雑誌等でビールの連載企画などを担当していたりというスペシャリストたちである。
かくいう藤原さんもワールドビアカップなど海外でのビアコンテストのジャッジ経験を持ち、
ビールを食文化の一つとして捉えたエッセイやコラム、ビール関連の書籍を多数執筆している。

今年3月に行われた「東京リアルエールフェスティバル」。日本の地ビールが大集合したこのイベントでは、藤原さんは受賞ビール表彰式のプレゼンテーターを務めた。その模様は、当サイト内「Global Bar Topics」にて3月にお伝えした記事を参照されたし。http://www.drinkplanet.jp/world_topics/view/98/3iILHjzy

「飲酒歴は30年を超えるわけですが、とにかく飲めるようになったその時から、
ビールがいちばん好きでした。体に合うし、酔い方も心地いい」
ただ残念ながら、当時のビールは今ほどラインナップが多彩でなかった、と藤原さんは振り返る。


「たまにデパートの地下なんかで海外ビールのフェアなんかをやっているでしょ?
イラストレーターという職業柄、ボトルデザインやラベルで『ジャケ買い』したりもするんですが
どれを飲んでもどうも、ピンとこなかった。
当たり前ですよね、日本の大手メーカーのビール、
つまりピルスナー=ビールだ、と思い込んでいたから。
でも、そういうビールに限って『16世紀から続いている云々』なんて書いてある。
なぜこれをわざわざ日本に持ってきたのだろう?まずいわけはないし......と、常にもやもやしていました」


95年、日本でも小規模醸造が認められるようになると、藤原さんのビール観にも大変革が訪れた。



「ペールエール、スタウト……
ビールにも種類があるんだ!と初めて知ったわけです。
今まで飲んでいたビールは、あくまでもビールの一側面にしかすぎなかった。
それを知らずに海外ビールを飲んでいたとは、なんてもったいないことをしたんだ、と
大いに後悔しました」


で、藤原さんは自らのアンテナの感度を磨くべく、ビールについて猛勉強をし始める。
当時は充実した資料や書籍があるわけでもなく、クラフトビールを取り揃えるパブもない。
全てが手探りだったという。

藤原さんのオフィスにはビールのボトルがずらり。もちろん、自身が手がけた「バーレイ&ウィートワイン」も。一本ずつに藤原さん直筆のサインとシリアルナンバーをが入れたという手の込んだパッケージ。

日本のクラフトビールの黎明と同時に、本格的にビールに開眼した藤原さん。
現在までに試したビールは2000種を超え、今や3000に手が届きそうなほど。


「初めて飲んだとき、その独特の酸味に驚いたベルギーの『ランビック』や
香り豊かなアメリカンスタイルの『IPA』、
ワインと同程度のアルコール度数の『バーレイワイン』などなど、
何千種類を飲んでいても、新しいスタイルに出合うたびに新鮮な驚きを感じます。
以前は80種程度だったカテゴリーは、現在は100種を超えている。
ビールは日々進化し、新しいスタイルが生まれているんです」


本場ヨーロッパ、そしてビール大国のアメリカ。
二大エリアの現状はと言えば、
「ヨーロッパに関して言えば、16世紀に醸造されたビールに由来する、なんて記述がばんばん出てくる。
歴史や伝統が違うんです。
アメリカはそれほど歴史がない分、時にアバンギャルドとも言えるような『自由』さがある。
新しいスタイルを生み出すのはほぼアメリカ、と言っても過言ではない」


まだまだ歴史の浅い日本と、欧米各国の違いはどうだろうか。
「では翻って日本はどうだろうかというと、
まだ新しいスタイルの確立には至っていないと僕は思います。
小規模醸造が認められるようになって16年、
ドイツ人の技師を招いて本場の醸造方法を学ぶなど
日本人らしい緻密さや生真面目さで、海外のスタイルをとても上手に取り入れてビールを造っている。

藤原さんのブログがこちら。ビール・ジャーナリストとしての活動からビール関連のイベントまで、ビールにまつわる情報の宝庫! http://fujiwarahiroyuki.blog38.fc2.com

でもそれは、絵画でいうならデッサンや模写の段階であって、自分の絵にはなっていない。
それなりの技術を身につけたなら、模写に終始していても意味がない。
やはり自分なりの絵、つまり新たなスタイルのビールを手がけ、
『日本からこんなビールが出た!』と海外から真似されるような、
そんな時期になってきているんではないでしょうか」


藤原さんいわく、「残念ながら日本のビール業界はいまだ鎖国状態が続いている」。
「言うなれば出島のようなところで外国を見ている人は多いんだけど
でも海外に出て行く人は少ない。
いま、クラフトビールは国内で勢いがありますから、
日本の中で成長しているからそれでいい、
あるいはたまに外国のコンペに出品して賞を十分満足、そんなムーブメントも感じます。


逆にそういう鎖国ムードを打破しようというところは
そもそも日本のマーケットを視野に入れず、ばんばん輸出していたりする。
みんなで一丸になって日本を開国しよう!というパッションが感じられないんです。
ある種の『閉塞感』とも言えるかもしれません。その原因が何なのか、僕もいまだ分析中なんですが」


後編に続く。

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日本ビアジャーナリスト協会
  
URL:http://www.jbja.jp/

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