NYに現れた日本人バーテンダー、
マサ・ウルシド氏の素顔に迫る!
<前編>

INTERVIEWバーテンダーインタビュー

NYに現れた日本人バーテンダー、
マサ・ウルシド氏の素顔に迫る!
<前編>

#Interview

Masahiro Urushido by「Saxon + Parole」

2014年に開催された「ザ・シーバスマスターズ」の初代チャンピオンの座に輝いたのは、NYで活躍する日本人バーテンダーだった。今、世界が注目するマサ・ウルシド氏とは一体どんな人物なのか!?

文:Yumi Komatsu(NY在住)

© Jason Lang

NYのダウンタウン中心地、バワリー。

このエリアには見た目や雰囲気の“ヒップさ”のみを追い求め、レストランの本質を忘れてしまった空虚な店も多いが、一方で世界中にファンをもつ名店も存在する。

そのひとつが、レストランバー「Saxon + Parole」。

アメリカ国産ミートやシーフードを贅沢に用いたグリル料理とクラフトカクテルが自慢のこの店は、2011年のオープン以来、バワリー地区に燦然と輝く人気店だ。

その実力は、著名メディアのレビューでの高評価だけにとどまらず、2013年の「Tales of the Cocktail」で“ワールズ・ベスト・レストランバー”獲得という快挙も成し遂げており、フードもドリンクも折り紙つきなのである。

さらに、この店でバーを指揮するのは、あのシーバスリーガル主催のバーテンダーコンペティション「ザ・シーバスマスターズ 2014」のチャンピオンに輝いた漆戸正浩氏である。

マサ・ウルシド。

その名は今、NYのメディアやカクテルファンの間で熱い視線を浴びている。

© Jason Lang

夕方のオープンを前に、昼間は静けさに包まれた「Saxon & Parole」。

32歳という若さでありながら、メニュー考案からスタッフトレーニング、取材対応、モスクワ店の監修などを一手に任されている漆戸正浩氏は、バーの片隅で静かに黙々とデスク仕事を続ける。

時おりデリバリーの業者やスタッフが出勤してくると、一人一人に声をかけ、ほがらかな笑顔を見せる。

NYに住んで6年という漆戸氏だが、その流暢な英語やフランクな振る舞いはアメリカ育ちのような印象だ。

「5歳のときに、近所の英会話学校に自分で行きたいと言い出したらしく、以来ずっと英語が好きでしたね」

© Shino Yanagawa

長野県箕輪町に生まれた漆戸氏がホスピタリティの世界に足を踏み入れたのは、高校卒業後の19歳のとき。

代官山のダイニングレストラン「Tableaux」でフードランナーのバイトを始めたのがきっかけだ。

もともと食に興味があったのかと問うと、「実のところ、バイト情報誌をパラパラとめくって、“せーの”で見つけた仕事だったんですよ」と漆戸氏は笑いながら振り返る。

運によって導かれた仕事だったが、フロアで働くうちに、この仕事の面白さに引き込まれていったという。

そしていつの日かカクテルメイキングに興味をもつようになり、同店ではヘッドバーテンダーを務めるまでに昇格した。

その後、銀座の名店「Dazzle」でもバーテンダーとして活躍をするが、念願だった留学のため渡米。

場所は、旅行でたびたび訪れていたというNYだった。

© Shino Yanagawa

「日本で大学に行かなかったので、勉強したいという思いがずっとあったんですね」

ニューヨーク市立のコミュニティ・カレッジに入学し、リベラルアーツを専攻した漆戸氏だが、その才能はやはりバー業界が離さなかったようだ。

東京で知り合ったニュージーランドウォッカ「42 below」のアンバサダーの推薦で、当時ホットなレストランバーと話題だった「Kingswood」のバーで働くことに。

「4年制大学への編入という道もありましたが、競争率の高いNYのレストラン、バーで働くなかで手応えをつかみ始めていたときだったので、この仕事を生業にしようと決めました」

そこで、世界的な活躍を続けるバーマンNaren Youngの目に留まり、彼とともに「Saxon + Parole」を手がけることになる。

「本を読めばカクテルの歴史や技術はある程度勉強できますが、カクテルの真髄を教えてくれたのはNarenですね」

技術からサービスまであらゆることを、丁寧に教えてくれたという。

© Yuki Kuwana

バーテンダーになって10年近く、漆戸氏が思うのは、バーホスピタリティの仕事は、カクテルうんぬんの話じゃないということ。

家族や恋人、友人と訪れたそれぞれのお客様に、どう楽しんでもらうのか、が重要なのだという。

「だから僕は、このレストランバーという形が好きなんですよ」とにこやかに語る漆戸氏。

彼の過去を振り返れば、働いてきたどの店もカクテルラウンジではなく、レストランとバーが融合した店だ。

「暗くてムードのあるカクテルバーもいいんですが、僕は賑やかでお客様もスタッフも元気をもらえるようなレストランバーで働くのが気に入っているんです」

撮影でシリアスな顔を求められるのが苦手、という元来の明るい性格からも、この環境が合っているようだ。

後編では、漆戸氏のカクテル哲学について迫ってみたい。こうご期待!

後編につづく。

SHOP INFORMATION

Saxon + Parole
316 Bowery, New York, NY 10012
TEL:+1-212-254-0350
URL:http://saxonandparole.com

SPECIAL FEATURE特別取材