ハーブと漢方の和洋折衷、
知られざる薬酒の世界へ!
<後編>

PICK UPピックアップ

ハーブと漢方の和洋折衷、
知られざる薬酒の世界へ!
<後編>

#Pick up

桑江夢孝さん by「薬酒BAR」

心と体のバランスを整えてくれる薬酒。そもそもは民間療法の一つとして長く庶民の生活に根付いてきたものだ。数千年という時間をかけて浸透した「生活の知恵」を、専門バーで味わってみよう。

文:Ryoko Kuraishi

3月上旬には、医療法人とコラボしたカフェが大阪にオープン予定。管理栄養士による栄養食やスーパーフードを用いたメニューが、薬酒とともに楽しめるとか。Photos by Kenichi Katsukawa

自分たち家族が経験した効果を、より多くの人と分かち合いたい。
そんな気持ちでスタートした「薬酒BAR」。
蒸留酒を満たしたビンに草や根、樹皮や石を漬けていると、「万物の命が溶け込んでいく実感がある」と、桑江夢孝さんは言う。


「薬酒を勉強し始めたら、中医学よりも薬酒のほうが歴史は古いんじゃないか、そんな風に思うようになりました。
おとそや御神酒も薬酒の一種だし、日本では神様をお迎えするときに振る舞れますよね。
ヨーロッパでは修道院で薬として造られてきた歴史があります」
西洋東洋問わず、薬酒が神聖でありがたい存在であったのは確かなようだ。


さて、いよいよ「薬酒BAR」を始めるとき、桑江さんが抱いたイメージがある。
漢方を学ぶようになって知った、中国の農村の風景。
そこではおばあちゃんが家族の舌の色や顔色をチェックして各自の体調を把握し、その日の献立を決めていたという。

こちらは男性にオススメのニクジュヨウ。中央アジアやモンゴルの砂漠地帯に生息する、植物の根に寄生する植物だそう。穏やかな強壮・強精効果がある。

「カウンター越しにお客さんとバーテンダーが向き合うバーなら、対面のカウンセリングだって可能です。
熱っぽい、喉が痛い、ダルい……体調が良くないなというときに、気軽にバーを訪れてバーテンダーに体調を相談でき、薬ではなくて薬酒が処方される。
バーテンダーは現代の中医学の先生に、『薬酒BAR』は病院に行く前の駆け込み寺的な存在に、そんな風になったら面白いなと思っていました」


2006年の第1号店のオープン以来、決して順調満帆ではなかった。
むしろ、業界の規制があり薬酒と謳えなかったこと、薬酒があまりにマイナーなことから何度も心が折れそうになったとか。
それでも諦めようと思わなかったのは、漢方・薬膳がもたらした奇跡の結果である子どもたちの成長していくさま、そして桑江さんのアドバイスに従って無事に子どもを授かった十数組の夫婦からの「ありがとう」の言葉があったからだった。
確実にいいものだとわかっているのだから、このままマイナーな存在に留めていてはいけない。
そんな使命感にも似た気持ちが、桑江さんを鼓舞してくれたという。


薬酒が受け入れられてきたと実感するようになったのは、ごく最近のことだ。
規制が緩和され、また現代病を導く食生活の乱れが注目を集めるようになるにつれ、薬酒を目当てにバーに足を運んでくれる人が増えてきた。
一度訪れた客は多くが、リピーターになったという。

ナイトキャップにぴったりのコーヒーリキュールを、ということでレシピを考案した「グッドスリープコーヒー」。巣鴨の有名ロースターが焙煎した豆を使っている。デカフェなのにコーヒーの風味がしっかりと生きている。安眠に誘い、ホルモンバランスを整えるハーブ入り。甘くて濃くてほろ苦い、至福の一杯。1,000円。

現在の桑江さんは薬酒と薬酒バーのノウハウを伝えるべく、セミナーや講座の講師の仕事も積極的に引き受けている。
今月にはいよいよ、一般社団法人薬酒協会も発足する。
家でも自分に合う薬酒を作ってもらいたいから、「薬酒BAR」ではレシピだって教えてくれる。
桑江さんは運営店舗を「薬酒友だち」と称するが、今年の目標は「薬酒友だち」を30人(店)つくること。
目標は「友だち100人」だ。


「『薬酒BAR』で自分にぴったり合う薬酒を見つけてもらい、家庭でも作って実践してもらう。
自分や家族の健康を自ら整える、『薬酒BAR』がそういう時代を作るきっかけになればいいと思っています。


薬酒は作るのも簡単なので、手軽に薬酒ライフを楽しめます。
蒸留酒に素材を漬け込むだけ、あとはお湯やトニック、ソーダなど好みの割り材で割るだけ。
気をつけるのは、旬の素材を旬の時期に仕込むこと。
素材はすべて自然のものですから、それぞれ旬があります。
暑い時期にできるものは体の熱を取り去り、寒い時期に旬を迎えるものは体を温めてくれます。


あとは『おいしくなれ』と念じながら仕込むこと。
本当においしくなります(笑)」


桑江さん自身、店はもちろん、家庭でも薬酒ライフを堪能中。
ベストマッチする素材はウイキョウだそうで、薬酒のおかげで長年悩まされていた薬アレルギーを克服したとか。

アフリカンジンジャー、バオバブの樹皮、そして西アフリカのショウガ科の多年草の種子であるクレインズ・オブ・パラダイスをブレンドした「ナイジェリア ブレンド」。ショウガの風味がスパイシーで、いかにも体が温まりそう。1,000円。

店を続ける中で漢方やハーブを取引するパートナーも世界各地に増え続け、現在はアジア圏、ヨーロッパ圏、南米大陸圏、アフリカ圏から質のいい素材を仕入れられるようになった。
現在、「薬酒BAR」で取り扱うのは、実に300種以上の薬効のある食品。
それぞれを旬に合わせて仕込み、季節の薬酒として提供している。
薬酒は各店舗で造っており、同じ素材を使ってもそれぞれの店舗の個性がでる味わいとなっている。


「自分のお気に入りを見つけたら、次は店舗で異なる味わいを飲み比べてもらってもいいし、自作の薬酒に挑戦してもいい。
薬酒にルールはありません。
飲んでおいしい、造って楽しい、そうでなかったら続きません。
飲食業に携わる立場から、おいしい、そして続けられるという2点にフォーカスして薬酒の魅力を広めていきたいと思っています」

SHOP INFORMATION

薬酒BAR
渋谷区神宮前2-22-2 2階
BAR STREET内
TEL:03-5775-6560
URL:http://yakusyu.net/

SPECIAL FEATURE特別取材