生産者、消費者、環境。オールwinで
カカオをとりまく構造を変える。
<後編>

PICK UPピックアップ

生産者、消費者、環境。オールwinで
カカオをとりまく構造を変える。
<後編>

#Pick up

Yoshino Keiichi /吉野慶一 by「Dari K」

生産者、消費者、環境、カカオ生産に関わるすべての人・モノにメリットのある製品を作りたい。5年を費やして画期的なカカオグラインダーを開発した「Dari K」吉野慶一さんが、生産者、消費者、カカオを取り巻くシーンへの想いを語る。

文:Ryoko Kuraishi

Dari k ではアグロフォレストリー農法(混植、トップ画像)を採用することで生態系を豊かに保ち、カカオの収穫量の維持に努める。これによって生産者を守ることができるのだ。

インドネシアで知った、カカオ豆栽培の不条理。

金融アナリストだった吉野さんがカカオ産業に携わるようになったのは、たまたま入ったカフェでインドネシア産のカカオ豆の存在を知ったことがきっかけだ。


「カカオ豆というとアフリカのイメージがありましたが、実はアジアも産地なんですね。
とくにインドネシアは世界でも5本の指に入る生産量を誇る産地であることを知りました。
僕はアジアもチョコレートも好きでしたから、インドネシアのカカオ豆に親近感を抱き、現地の様子を見てみたいと思ったのです」


現地ではカカオは換金作物に過ぎないと知ったのは、実際にインドネシアの産地に出向いてから。
おまけに、カカオを生産する農家は誰も、最終的な製品であるチョコレートを口にしたことはなかった。

収穫したカカオから一つずつ、手作業でカカオ豆を取り出す。

「そもそも同じアジアである日本にインドネシアのカカオ豆はほとんど輸入されていなかった。
なぜなら、インドネシア産のカカオ豆はおいしいチョコレートに不可欠である発酵というプロセスを踏んでいなかったからです。


現地の生産者はだれも発酵のやりかたを知りませんし、そもそも発酵という手間を踏んだところで買い取り価格は発酵していない低品質のカカオ豆と変わらないという現実がありました。
値段が変わらないのだから、わざわざ手間をかけたいというおもう生産者はいませんよね?


“手間ひまをかけていいものを作れば高く売れる”、“努力は報われる”、“ものの値段は売主が決める”(カカオ豆の買い取り価格はニューヨークやロンドンの先物市場で決められている)という当たり前のことが通用しない不条理を、インドネシアの産地で目の当たりにしたのです」


立場の弱い生産者の環境をよくするためのチャレンジに取り組んでみようと、2011年に「Dari K」を創業。
インドネシアに子会社を設立し、農家に対して高品質なカカオ豆を生産するために欠かせない発酵の技術指導や、発酵させたカカオ豆を直接買い取って農家の収入アップを図る取り組みをスタートした。

パリで行われるチョコレートの世界的な祭典「Salon du Chocolat」に参加したときの様子。

それと同時にインドネシア産カカオ豆の従来のイメージを変えるべく、それを自社で輸入し高品質なチョコレートに仕立て販売を行う。


起業してわずか4年でパリのチョコレート見本市「Salon du Chocolat」に出展すると、ブロンズアワード(銅賞)を受賞。以来4年連続で同賞を受賞している。
地道な努力でインドネシア産のカカオ豆への評価を変えたのである。


こうした取り組みを続けられるのも、吉野さんがポジティブな変化を肌で実感できたからだろう。
たとえば、2015年から日本の取引先やパティシエほか、チョコレートに関心のある一般に向けて行なっている農園視察ツアーでこんなことがあった。

カカオ豆は南国のフルーツであるカカオの種子をことを指す。カカオの中の白い部分が果実で、これはカカオ豆を発酵させる際に役立つ。

生産者と消費者の交流が教えてくれたこと。

「初めは視察に訪れる日本人参加者を“ゲスト”と呼んで一定の距離を保っていた生産者も、みんなで何度も同じテーブルを囲んで食事をし、交流を重ねるなかで、いつしか参加者を“ファミリー”と呼ぶようになっていました。


最終消費者を“ファミリー”と考えるようになったことで、これまで否定的だった無化学肥料・無農薬にも前向きに取り組んでもらえるようになりました。
もし農薬を使わないことで収穫量が減ってしまえば収入が減ってしまう。これは生産者にとって大きなチャレンジです」


けれど、『ファミリーに対して農薬まみれのカカオ豆を届けられない、だから無農薬で栽培できる仕組みを考えたい』と言ってくれるようになったのです。
農薬を使わずに収穫量を確保するため、現在はカカオ一つ一つにカバーをかけて栽培してくれています。
手間をかけてもよりよいものを届けたい、そんな気持ちが生産者の中に生まれたのです。
生産者と消費者の交流の大切さを教えてくれたできごとでした」

栽培技術の指導、そして高品質なカカオを高く買い取る制度により、収入が倍増した農家も。

カカオ豆というバトンを、たくさんの人につないでほしい。

その次のステップとして吉野さんが取り組んだのが、カカオグラインダーの開発だった。
チョコレート店だけでなく、レストラン、カフェ、バーなどさまざまな業種の店舗が気軽に利用できるカカオグラインダーがあれば、カカオ豆の個性をもっとたくさんの人たちに広め、さらなるマーケットを作ることができるからだ。


「コンビニのコーヒーマシーンがコーヒー豆の流通量をあげたように、誰もが使えるグラインダーはチョコレートを製造するよりもカカオのシーンや環境づくりに貢献できるはずです」


スピリッツやビール、コーヒーなど嗜好飲料におけるクラフト文化の流れに、このグラインダーを使ったカカオドリンクは確実にマッチするはずだ。
実際、世界各国の一流シェフからすでに多くの問い合わせがあるという。


生産者から渡されたカカオ豆というバトンをつないで多くの消費者に届けてほしい、と吉野さん。
材料ありきでレシピを考案する、そんなインプロビゼーションを得意とするバーテンダーなら、より独創的で彩り・味わい豊かなバトンをつなげていってくれることだろう。

SHOP INFORMATION

Dari K
京都市北区紫竹西高縄町72-2
TEL:075-494-0525
URL:www.dari-k.com

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