栃木発、無着色料の
クラフトリキュール誕生!
<後編>

PICK UPピックアップ

栃木発、無着色料の
クラフトリキュール誕生!
<後編>

#Pick up

原百合子さん by「栃木リキュール」

今月は「小規模」「地域文化」「インディペンデント」を体現するクラフト・リキュールメーカーのお話。バーテンダー、そして一般消費者に、日本らしいリキュール文化を届けたいと奮闘する「栃木リキュール」の試みを紹介しよう。

文:Ryoko Kuraishi

栃木県東部に位置する八溝山地にて、半世紀以上続く国見ミカンの栽培。地元幼稚園の子どもたちによるミカン狩りの風景は地域の風物詩だ。 生産者は現在5名5軒、そのうち3名が80代だという。

今年2月に流通をスタートした「栃木リキュール」。
現在のラインナップは、那須烏山市国見のミカンの果皮のリキュール「デキュプル・セック」、宇都宮市新里の、「幻のユズ」と呼ばれる種なしユズの果汁を使ったユズチェッロ「ルミネ・ドゥ・ラブル」など、20種を揃える。


季節の素材で地域の魅力を伝える「ディエズ」シリーズ、栃木のイチゴをベースに、女性向けに商品開発を行った「M」シリーズに、日光スギやミカン&コーヒーなど、遊び心のある素材をベースにした企画商品……新商品も続々リリース中。


先日イギリスで開催された英国酒類品評会では出品した「ディエズ」シリーズのリキュール4種が、居並ぶ老舗メーカーを制して銀・銅賞を受賞しており、クオリティはお墨付きだ。

直売を大切にする農家と顧客との付き合いは、時に何十年と続くとか。 量よりも質にこだわり、土壌管理を徹底し…… そうしてようやく実る果実。手にできる幸運に感謝しつつ、丁寧に仕込んだリキュールで恩返しすると誓う。

全国の産地に足を運んで

「栃木リキュール」では栃木産だけでなく全国に散らばる魅力的な農産物をリキュールに仕立てている。


各地の生産者や自治体から「うちの農産物を使って!」という依頼が舞い込むそうだが、製造においては原さんが実際に産地を訪れ、季節の素材を味わい、生産者と対話を重ねて慎重にセレクトする。


「まずは商品の完成形と流通を想像することができるか。
リキュールを誰に届けたいか、届けた先で喜んでもらえるか。
具体的なターゲットを想定できないリキュールは作れません。


いちばんの原動力は、生産者の話を聞いて、その人となりを知り、ぜひリキュールを作りたい、一緒に頑張っていきたいと思えること。


例えば、ノーワックスで伝統のミカンを作っていらっしゃる、那須烏山市国見のミカン農家は生産者の高齢化に伴い、後継者問題に直面していました。
地元の人は国見ミカンを知っていても、生産する農家が5軒しかないこと、うち3軒は生産者さんが80代だということを知りません。


けれどこのミカンでリキュールを作ることで、国見という地域やその歴史を広く知ってもらえる可能性がありますよね。
ものづくりだけで精一杯ではありますが、今後は情報発信も積極的に行い、少しでも地域に貢献したいという思いがあります。


生産者もまた完成した商品を買って『栃木リキュール』を応援しよう、広めようとしてくれています。
生産者に支えてもらっているメーカーですから、彼らに喜んでもらえるものづくりが大前提です」

栃木県内の酒蔵で行なった実務研修の様子。製造経験を積むことが製造業の入り口、と原さん。

このようなストーリーに加え、着色料や保存料を加えないという品質の高さ、メイド・イン・ジャパンというものづくりの背景は、現在のバーが求める要素だろう。


昨今のクラフト・ブームもあり、バーテンダーや飲み手は“顔の見える”造り手やストーリーのあるプロダクトに重きを置いている。
実際、都内を中心に「栃木リキュール」を扱うバーが増えてきている。


「国産リキュールの数は少なく、バーにおいてスタンダードなお酒とは言えませんが、いつか当たり前のようにバックバーに置かれている未来を目指し、全国のバーテンダーとつながって信頼関係を築いていきたいと考えています。


そのためにはまず、バーテンダーに『面白い、使いたい』と思ってもらえるような商品を揃えなくてはいけません。
完成したリキュールを届けたいバーテンダー、憧れのバーテンダーなど、具体的な人物を思い浮かべながら作っています。


それぞれ個性のあるリキュールを、バーテンダーの発想と自由なアイデアで新しいカクテルに仕立てていただければ嬉しいです」

現在、バーテンダーを対象にした試飲イベントを企画中だ。 数種のベーススピリッツと組み合わせ、試飲&ワークショップを行う予定。

「北京在住のあるバーテンダーに、『海外のフルーツは日本のものに比べて酸味や甘みが控えめ。そこにフレッシュ感のある栃木リキュールを加えたらカクテルの味わいに大きな広がりが生まれる。
だから海外にもニーズがあるのではないか』と指摘してもらえ、目から鱗が落ちるようでした。


まずは国内のファンに愛される、信頼されるリキュール・ブランドを目指しますが、いずれは輸出を視野に入れて展開していきたいと考えています」


バーのみならず一般消費者に向けてもリキュールの魅力を広めるため、県庁や宇都宮駅構内で行われるイベントにも参加してテイスティングの機会を設けている。


バーの外ではマイナーな存在のリキュールだから、まずは実際に味わってもらい、家庭で楽しめる飲み方やそれぞれのリキュールの背後にある物語を紹介することが大切なのだ。


こうしたイベントで求人をかけると地元の女子大生からも応募があるそうで、これはバー時代にはなかった傾向だそう。
若い世代からの注目に、原さんは「若者と酒文化をつなぐ新しい切り口になる」と手応えを感じている。

JR宇都宮駅構内で行なった販売イベントでは、過去最高ペースの売れ行きを記録した。若い アルバイトスタッフが醸す雰囲気、立ち寄ってくれる人たちの栃木愛。「色々なものがリンクして、実り多いイベントになった」(原さん)。

バーテンダーのアイデアを実現するOEM

産地や生産者と手を組んでの地域貢献、ふるさとへの思いを表現するローカリゼーション。


加えて「栃木リキュール」が力を入れているのが、OEM。
「栃木リキュール」発足を支えてくれたバーテンダー仲間への、原さんなりの恩返しだという。


「小型のタンク4基を使っての小規模生産ですから、現場で使ってみたいというバーテンダーのアイデアをオーダーメイド・リキュールとして実現することができます。


ものづくりに興味のあるバーテンダーにぜひ利用していただきたいですし、『こんなものがあったらいいな』というアイデアをどんどん実現してもらいたいと思っています」


農家、飲み手、そしてバーテンダー。
リキュールを取り巻くさまざまな人たちと手を取り合い、真摯にものづくりを行なっていきたいという原さん。


そうして生まれるクラフトリキュールは、日本のカクテル文化をさらに盛り上げてくれるはずだ。

SHOP INFORMATION

栃木リキュール
栃木県宇都宮市二荒町9-11KRB
TEL:028-612-4300
URL:https://www.tochigi-liqueur.com

SPECIAL FEATURE特別取材