隠し味は個性的な「人」!
ココ・ファームのおいしい秘密。
<前編>

PICK UPピックアップ

隠し味は個性的な「人」!
ココ・ファームのおいしい秘密。
<前編>

#Pick up

醸造部長・柴田豊一郎さん&醸造スタッフ、栽培スタッフ by「ココ・ファーム・ワイナリー」

高品質の手作りワインが評判のココ・ファーム・ワイナリー。そのユニークなワイン作りの哲学を探りに、いざ栃木県の山間の村へ。

文:

ワイナリーに併設されたカフェ。春は日差しが心地いい、テラス席がおすすめ。

栃木県足利市の山間にある小さなワイナリー、ココ・ファーム・ワイナリーをご存知だろうか?


いまから約半世紀前、特別支援学級の生徒たちとクラスを率いる先生が、
子どもたちの作業学習できる場を求めて、手ずから開拓したブドウ畑。

ワイナリーを支えているのは、指定障がい者支援施設「こころみ学園」の
100人の園生と20数名のスタッフたちだ。

現在も、学園に寝泊まりする園生たちがスタッフとともに
ブドウの栽培や醸造の手伝いにあたっている。


畑の開墾、そしてブドウ栽培の当初の目的は、ワイナリーではなく
恵まれた環境で生きてきた園生たちが厳しい社会で「生きる力」を育くむための、訓練の一環だったそうだ。

「農作業を始めて子どもたちは変わったそうです。

ふわふわで赤ん坊のようだった手が、たくましい労働者の手に。

急斜面を毎日上り下りするうちにバランス感覚も養われた。

暑い、あるいは寒い戸外での労働に、落ち着きや根気も生まれました」
とココ・ファーム・ワイナリーの歴史に詳しいスタッフ、牛窪利恵子さんは話す。

発酵用タンクは容量各8500リットル。巨大なタンクがずらりと並ぶ。

標高90メートル、平均斜度38度。

お隣り佐野市の畑も含めて約4.2ヘクタールの急斜面に
機械を使わず、スコップとバケツを用いて、
手作業で植えられた600本のブドウの苗木が始まりだった。


現在はマスカット・ベイリーA、リースリング・リオン、ノートン、タナ……
厳選した7品種が育てられており、
年間生産量15万本、ワインの銘柄は20種類を超える。

それらは障がいのうえに高齢化という問題も抱え始めた、園生たちの
貴重な収入源となっている。


ココ・ファーム・ワイナリーが一躍、脚光を浴びたのは2000年のこと、
ここで作られたスパークリングワイン「NOVO」が
九州・沖縄サミットの晩餐会での乾杯に使われたのだ。


「NOVO」は本場のシャンパーニュ同様、瓶内二次発酵を採用した、手間ひまかけた逸品。


そのほか「農民ドライ」や「農民ロッソ」など手軽でおいしいワインを数多く生み出し、
ファッション業界やメディア関係者にも多数のファンを持つ。

こちらは「北海ケルナー」。北海道・余市のケルナー種を使った、やや辛口の白。爽やかな酸味が持ち味。

さて、ここのワインの特徴は、2007年より100%日本のブドウだけで醸されていること。

醸造所の前に広がる畑でできたブドウのほかに、余市や勝沼など他産地からも取り寄せているが、
それも国産ブドウにこだわっているそう。

醸造所前、南西の斜面に広がる畑は日当たりもよく、水はけもいい。

すこぶるいいブドウができるのだろうと思ったら、
ここの醸造部長、柴田豊一郎さんは「いえ、いい産地に比べると、ここの風土は過酷です」と一蹴。

ブドウを作るにしては降水量も多いし、寒暖差が少ないのだ。


とはいえ、その産地の風土にあったブドウを探してその育て方を試行錯誤する、その行程も楽しい、とあくまでも前向き。

「いいブドウ、悪いブドウはないんです。
それぞれ個性が異なるだけ。

その個性をどう活かすのか、それが醸造家の腕のみせどころですよね」


ココ・ファーム・ワイナリーの醸造スタッフは柴田さんを含めて現在、5名。

30~40代前半と若い醸造家たちは、その試行錯誤を大いに楽しんでいるようだ。

醸造スタッフ、フランス人のローマンさん。ブルゴーニュ、オーストラリア、カリフォルニアなど世界中のワイナリーで研修を積んでいる。

「以前は一部のブドウにのみ野生酵母を用い、多くは乾燥酵母を使っていたのですが、
いまでは全てのブドウに野生酵母を使って発酵させています」


野生酵母とは土壌や空気中など自然界に存在する天然の自生酵母のこと。

乾燥酵母よりも管理が難しく、思うように発酵が進まないこともあり、
大きなタンクなどで使うにはリスクを伴うと聞くが……

「そうですね。
でも、野生酵母で醸した味わいに興味があったので、積極的に切り替えてみました。


また、毎年それぞれのブドウの発酵の違いを見るため、発酵のテストも新たに始めました。
こうやって新しいことに取り組める、やりがいを感じます」


そんな柴田さんはじめスタッフが心がけるのは
「日々、楽しむ」こと。

「作業を、プロセスを、楽しむ。

そしてブドウにも、畑で作業するスタッフにも
なるべくストレスがかからないよう、気にかけています。
それが彼らの『楽しむ』につながっていきますし。

もちろん、大事なブドウを丁寧に見守り続けることも重要です」

ここでは長らく、1989年にアメリカから招聘されたブルース・ガットラヴさんが醸造長をつとめてきた。
そのブルースさんと10年近くを共にした柴田さん。

「楽しむ」というのは、ブルースさんから受け継いだ哲学らしい。

こちらはテイステイングコーナー。柴田さん自ら、お薦め銘柄を注いでくれた。

さて柴田さん、ココ・ファーム・ワイナリーのおすすめは?

「僕のおすすめは白ワインの『甲州F.O.S.』と赤ワインの『第一楽章』です。

『甲州F.O.S.』は勝沼のブドウで作っているのですが、
赤ワインのように皮ごと発酵させることで皮のうまみを引き出しています。

一方『第一楽章』は畑の一番上に植わっているマスカット・ベイリーAで作ったワイン。

エレガントさのある赤ワインで、華やかな香り、味わいが特徴です」


定番の「2009 足利呱呱和飲(あしかがココワイン)」は特別にセレクトした甲州、シャルドネ、バッカスの3品種をブレンド。
シャルドネ種のコクとバッカス種の華やかな香り、
柔らかく優しい口当たりが人気の気さくな一本。

「農民ロッソ」はメルロにカベルネ・ソーヴィニョン、ツヴァイゲルトレーベ、マスカット・ベイリーA、甲州をブレンド。
メルロやカベルネの果実味にあふれ、コクのある料理にぴったり。


そのほか、20数種の銘柄を手がけている。
カフェスペースの横にあるテイスティングコーナーで、柴田さんおすすめの銘柄を味わわせていただいた。

後編につづく。

SHOP INFORMATION

ココ・ファーム・ワイナリー
326-0061
栃木県足利市田島町611
TEL:0284-42-1194
URL:http://www.cocowine.com

SPECIAL FEATURE特別取材