2019年、新時代の到来か。
バーテンダーの新しい生き方って?
<前編>

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2019年、新時代の到来か。
バーテンダーの新しい生き方って?
<前編>

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寺田心平さん、釜谷道夫さん by「CRISTA」

2019年は企業が経営する大型バーが増え、オーセンティックバーとの二極化が進む!?この動きの背景を探るべく、「タイソンズアンドカンパニー」寺田心平社長と釜谷道夫バーディレクターにインタビュー!

文:Ryoko Kuraishi

“東京ならではのステーキレストラン”として、旬の食材を使った季節のメニューを取り揃えている「CRISTA」。

長く続いたバーが閉店、バーテンダーの異動が相次ぐなど、2018年はバー業界に大きな動きのある年だった。
さらに、来月オープンするスターバックス リザーブ ロースタリーにバーが併設されるなど、2019年は大手によるバー経営もますます活発化しそうである。


2019年はこうした大型バーとオーセンティックな個人店の二極化が進むと予測したどりぷら編集部ではこのムーブメントを象徴する2つの店舗をピックアップ。
大型店舗が増加することでますます多様化するバーテンダーの生き方について関係者にインタビューを行った。


釜谷道夫さんは昨年、14年続けた自身のバー、BAR 73をクローズした。
いわゆる個人店に長く身を置いてきた釜谷さんだが、その新天地が都内で14店舗の飲食店を運営する「タイソンズアンドカンパニー」である。
グループが展開するレストランバーのカクテルを統括するバーディレクターに就任したのである。


釜谷さんが「タイソンズアンドカンパニー」にて手がけた第一弾が、表参道のモダングリル&バー、「CRISTA」。
それでは早速、「タイソンズアンドカンパニー」チームの一員になった理由を釜谷さんに伺ってみよう。

「タイソンズアンドカンパニー」寺田心平・代表取締役社長(右)と、バーディレクターの釜谷道夫さん(左)。

「BAR73という店を長く続ける中で、ごく自然な成り行きでそろそろ次のステップに進みたいと考えるようになりました。
その中でたまたま、20年来の付き合いである寺田社長から『一緒にやろうか』というお誘いをいただいたんです。


『タイソンズアンドカンパニー』はブルワリーやベーカリーなど食にまつわるコンテンツを幅広く展開しています。
ジャンルを超えて様々なリソースを活用することができる環境は企業ならではのものですし、一方で、こういう大型店舗に身をおいて個人店で培ってきたスキルがどこまで通用するのか見てみたいという気持ちもありました。


もちろん、『タイソンズアンドカンパニー』のそれぞれの店が持つ世界観が好きだったこともあります。
こういうスタイルの店なら自分の得意なことに集中できますし、グループ全体のバーを監修するマネジメント・スキルを勉強したいと思ったことも理由です」


一方、寺田社長が釜谷さんを迎えた理由とは?
「早くからブリュワリーを手がけ、すべてのレストランでクラフトビールを楽しんでいただけるような体制を整えましたし、サードウェーブコーヒーをレストランで提供するようになったのもうちが先駆けでした。
これまでもレストランで見過ごされがちな部分のクオリティを上げてきたのです。


レストランに併設するバーをより強化したいと思っていたこともあり、バーを併設する店舗のすべてのバーマネジメントを釜谷さんにお願いしたんです。
具体的には、オーセンティックバーを経営してきた釜谷さんのエッセンスをレストランのバーに注入し、全体的なレベルを引き上げていきたいと思っています。
バーの質を上げることで店そのものの価値も高まりますから」

「CRISTA」で楽しめるカクテル、「PINEAPPLE ARUGULA MAITAI」¥1,300。フレッシュなパイナップルとルッコラをマイタイに仕立てた。

個人店か、企業が経営するバーか。
一般的なオーセンティックバーか、レストランを併設するバーか。
釜谷さんがこれまで経験してきたバーと「タイソンズアンドカンパニー」内のバーは大きく異なっている。


一例を挙げると「CRISTA」のバーは、食事の前に立ち寄る、食中や食後にカクテルを楽しむ、バーカウンターで食事とともにアルコールを楽しむなど、多彩な使われ方をされる。
用途も客層もコアの時間帯も様々、それがここの特徴だ。


「例えば、73とCRISTAの大きな違いはスピード感です。
一杯にじっくり時間をかけられるのは個人店の強みですが、大型の店舗になればスピードが問われます。
ただ速いだけではなく、いかに速くかつ高品質のカクテルを安定的に供給できるのか。


そのためには『仕組み化』が大切。
メイキングする人、仕込みをする人、バーカウンターの環境を丸ごと組織化しなくてはいけません」

フレッシュなキウイとグレープフルーツジュース、フレッシュハーブを使った「KIWI GREEN GIMLET」¥1,300。

釜谷さんに限らずバーテンダーが大型店に魅力を感じるようになってきたのは、どういう背景からだろうか。


「クラフトビールやサードウェーブコーヒーやのムーブメントを経て、食の世界では職人をリスペクトする機運が生まれました。
クラフトという流れの中で、職人であるバーテンダーが改めてフォーカスされるようになり、スターバーテンダーという職業も確立したような印象を受けます。
そういう社会的な流れが二極化を推し進めるのではないでしょうか。


個人店では経営も経理も現場もオールマイティに見なくてはいけないですが、一方、企業経営のバーでは専門分野に注力できるというメリットがあります。
かつ、社内のリソースを自由に使い、新しいことに取り組めるというのも、バーテンダーにとってはプラス材料になるでしょう」(寺田)


「そもそも、バーテンダーの生き方自体が変わってきました。
これまでは独立して自分の店を持つことが一つのゴールでしたが、メーカー主催のコンペが増えるにつれ、その肩書きから商品や店のプロデュース業、ゲストバーテンダーを生業にするなど、多彩な仕事が生まれるようになりました。


店を持たずともやりたいことができるようになって、バーテンダーとして人生の選択肢が増えました。
食、コーヒー、ワインのスペシャリストたちとチームを組んでカクテルに向き合うというチャレンジも、その選択肢の一つだと思っています」(釜谷)

バーを強化することにより、食事とカクテルを一緒に楽しめる食文化を東京に定着させていくのが「CRISTA」の目標だ。

「日本ではまだまだオーセンティックなバーが多い印象ですが、世界的には若い人でも入りやすいカジュアルな雰囲気で、かつクリエイティブなカクテルを味わえるバーという流れに向かっています。
インバウンドの影響もあり、日本でもCRISTAのようなカジュアルなバーはますます増えるでしょう。


これはどちらがいいという問題ではなく、スタイルの違い。
ただ、バーの選択肢が増えるということはバー愛好家の裾野が広がるということで、それはバー業界全体にとっていいことではないでしょうか」(寺田)


経営母体が別にある大型店の良さは、釜谷さん自身が動きやすくなること。
積極的に外に出て行って業界のトレンドをキャッチし、それを各店のバーにフィードバックするのも バーディレクターの務めだ。


「業界のトレンドはもちろんですが、街場のバーで培ったスキルや経験を社内のスタッフにシェアしてもらうという点にも期待しています。
うちはシェフ、ソムリエ、バリスタ、ブルワーなどスペシャリストのためのキャリアを用意しているんですが、今後はバーテンダーのキャリア環境も整えていきたいと考えています」(寺田)


「人材の育成はまさに僕の目標でもあって、今後は積極的に人をプロデュースしていきたい。
この会社からコンペに勝つような有名バーテンダーを輩出できたら嬉しいですね」(釜谷)

SHOP INFORMATION

CRISTA
東京都渋谷区渋谷1丁目2−5
TEL:03-6418-0077
URL:https://www.tysons.jp/crista/

SPECIAL FEATURE特別取材