本場シャンパーニュをしのぐ!?
英国産スパークリングの実力。

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本場シャンパーニュをしのぐ!?
英国産スパークリングの実力。

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実は英国には400を越えるワイナリーがあり、なかでもスパークリングワインに俄然注目が集まっている。あのクリュッグも早速土地を買い付けたたらしい。いざ、イングランド南東部に広がる、UKスパークリングワインの産地へ。

Yumi Hasegawa(ロンドン在住)

世界的に評価の高い「リッジビュー・ワイン・エステート」。

スパークリングワイン、といえばフランス・シャンパーニュ地方のもの。

こういうと、一部の英国人は不服に思うかもしれない。

なぜなら、正式なシャンパーニュの生産方法として定められている「伝統製法」の発祥は、実はイングランドにあるのだから……。

それが、1662年、ロンドン出身の科学者であるクリストファー・メレットによって発表された王立学会公文書の記録。

彼が記した「糖分を加えて瓶内二次発酵を促進し、さわやかに泡立つスパークリングワイン」の製法こそ、現代のシャンパーニュづくりにつながっているのだ。

(あのドン・ペリニヨン修道士は、30年後にこのアイデアを基にシャンパーニュ製法を開発した、らしい! 要はパクリ!?)

しかしながら、イギリスのテロワール(特に気候)は長らくワインづくりには向かず、ワイン業界は停滞していた。

それが皮肉なことに、ここ数年の地球温暖化により、スパークリングワインづくりに適したテロワールへと進化。

さっそくクリュッグが土地を買い付けたとか、ルイ・ロデレールが畑を視察したとか、まことしやかな噂が業界を飛び交っている。


今、英国全土には、イングランド南東部を中心に400以上ものワイナリーがある。

その総生産量に対して、スパークリングワインの量はわずか1割程度。

それでも、着実にレベルを上げるスパークリングワインが、英国ワインの未来をになう存在として注目されている。

イングランド南部の有名ワイナリーと、ロンドン老舗のワイン専門店をたずね、英国産スパークリングワインの可能性を探った。

ロンドンから南へ車で2時間、イングランド南東部のサセックス州。

ここに、イングランド発祥!の伝統製法にのっとり、「最高品質のスパークリングワイン」づくりに挑んでいる新進ワイナリーがある。

それが「リッジビュー・ワイン・エステート」だ。

1994年にマイケルとクリスティーンのロバーツ夫妻によって設立。

現在、12ヘクタールの自社畑と約800㎡のワイナリーを有し、2009年には約20万本のスパークリングワインをボトリングした。

過去には「世界スパークリングワイン・コンクール」の金賞や銀賞をはじめ、総計140超の賞を受賞。

(しかも有名シャンパーニュメゾンを押さえて、堂々の受賞!)

2006年には、エリザベス女王80歳祝賀パーティーで振舞ったことも。

今、国内外から注目をあつめるワイナリーだ。

さて、このサセックスという土地の最大の特長、それはなんといってもその気候にある。

リッジビューの広報責任者であるオリヴァー・マーシュ氏は、土地の豊かさについてこう語る。

「寒冷な気候と、粘土石灰岩と砂岩質からなる土壌は、ブドウの酸度をすばらしく高くしています。そのため、長期熟成に耐えうるスパークリングワインづくりに適しているのです」

実際、フランスのシャンパーニュ地方から北に140kmの地に位置しながら、平均気温差はわずか1度とその気候はほとんど変わらない。


さっそく「メレット・ブルームスベリー・ブリュ」を試飲させていただくことに。

このワイン、前述のスパークリングワインの発明者メレットの名を冠し、ロンドンの地区名を刻んだ、同社のシグニチャー・キュヴェである。

18ヶ月の間熟成され、イーストによる強いビスケットのようなアロマが特徴的。

ひとたび口に含むと、クリスピーでフレッシュな味わいと繊細なフルーツノートを感じられるのは、シャルドネが64%使われているからだという。

そこに、ピノ・ノワールとピノ・ムニエの味わいが、深みや複雑さを加えている。

次にいただくのは、シャルドネのみでつくられた「メレット・グロヴナー・ブリュ」。

こちらは、熟成を重ねれば重ねるほど際立つ、ブリオッシュのようなアロマが香ってくるのが特長。

舌の上にのせると、くっきりと際立ったシトラスやグレープフルーツ、トロピカルフルーツのようなフレッシュな香りが力強い印象をあたえる。

フルーティーで均整のとれた酸味は、緯度が高い土地でつくられるUKスパークリングワインの可能性を示唆しているようでもある。

「フランスのACやイタリアのDOC法のような、イングランド独自の原産地管理基準が制定されれば、世界に向けてさらに輸出を拡大できるでしょう」と、マーシュ氏はUKスパークリングワイン業界の成長に期待している。

ロンドン市内にあるベリー・ブロス&ラッドの店内。

一方、英国産スパークリングワインの可能性に、国内のワイン専門店も大いに注目している。

17世紀末、現存するロンドン最古のワイン商として開業し、王家のワイン管理を行う「ベリー・ブロス&ラッド」もそのひとつ。

ここでセレクトされたワインなら間違いない、という王室御用達の専門店だ。

同店において、英国産スパークリングワインの売れ行きは、月300~600本ほどとのこと。

取り扱う銘柄は、前述の「リッジビュー」に加え、エリザベス女王愛飲のワインとして知られる「ナイティンバー」、ソフトな泡立ちが魅力の「チャペル・ダウン」、シャンパーニュ地方以外ではじめて「インターナショナル・ワイン・チャレンジ金賞」を受賞した「キャメル・ヴァレー」など。

いずれも、国際的なコンペティションで名を連ねるワイナリーから銘柄を厳選している。

とはいえ、スパークリングワインの主力はやはりシャンパーニュで、英国産は売り上げの2割程度にとどまるのだとか。

「でも、その中にシャンパーニュにひけをとらない出来栄えのものが多いのは確かです。価格帯がリーズナブルなのも大きな魅力ではないでしょうか」と、イングリッシュ・ワインバイヤーのサイモン・フィールド氏はフォローする。

彼の言葉を借りれば、今後温暖化がさらに進めば、英国産ワインの可能性はますます広がるかもしれないとのこと。

そのうち、スコットランド産スパークリングなんてモノまで出現するかも!

(その際の温暖化問題は別として……)


いずれにせよ、英国産のスパークリングワインの質の高さは各賞のお墨付き。

まずは一度お試しいただき、その可能性をご自身で見極めてみてはいかがだろう。

SPECIAL FEATURE特別取材