SPECIAL FEATURE特別取材
2022年、世界を変える!?ジャパニーズウイスキー新時代。
#Special Feature
文:Drink Planet 編集部 / 画像:ウイスキー文化研究所

土屋守さん(右)(嘉之助蒸溜所を視察) トップ画像:ガイアフロー静岡蒸溜所
日本全国各地で新しいウイスキー蒸留所の建設・稼働が相次いでいる。2022年もこの流れは衰えず、新たに10箇所もの新設が見込まれている。果たしてブームの背景は何なのか?世界の流れは?今後の課題は?ウイスキー文化研究所代表の土屋守さんに特別インタビューを行いました。
ウイスキー文化研究所が発行している専門誌『ウイスキーガロア』では、最新の30号(2022年1月12日刊行)でジャパニーズウイスキーを特集する。実はジャパニーズウイスキーの特集は3号連続となるが、2021年11月に発刊した号から2ヶ月を経てさらに5箇所の蒸留所が増えたそうだ。
「2017年3月の創刊時、全国のウイスキー蒸留所はわずか11箇所でした。この号に掲載する最新の蒸留所マップには、全国60箇所がリストアップされています。そのうち、実際にウイスキーを蒸留しているのが40箇所以上。これからさらに15箇所が稼働を予定しており、わずか5年で5倍になる計算です」(土屋さん)

輸出額は清酒を超え、圧倒的1位、470億円(見込)に!
この背景にはジャパニーズウイスキー人気の世界的な高まりがある。
「国税庁が発表している輸出統計によれば、2020年のウイスキーの輸出額は271億円を超え、対前年比39.4%増。酒類のなかではダントツの1位で、もはや清酒を超えています。2021年は1月から11月までの統計で426億円を超えており、年間460〜470億円になると見込まれています。
ちなみに輸出相手国はアメリカを抜いて中国が1位に。以下、アメリカ、フランス、オランダ、シンガポールと続きます」
新型コロナウイルス感染症対策として世界中でロックダウンが施行され、バーも閉まっていたというのにこの金額。これには世界的なウイスキーブーム、とくにジャパニーズウイスキー需要の高まりがあるようだ。
「全国でこれだけ蒸留所ができると供給量が需要を越えてダブついてしまうのでは?という味方もあるようですが、クラフトといわれる蒸留所の規模を考えると、50の蒸留所の年間生産量を合わせても、アイラにある蒸留所1箇所の年間生産量にかないません。
世界中のウイスキーファン、とくに中国市場の需要の高まりをみると、たとえ100〜200の蒸留所がフル稼働で生産しても供給量はまだまだ不足している。それが世界のスケールなんです」

鴻巣蒸溜所 / 埼玉県(2020年生産開始)
世界最大手、ディアジオ社もジャパニーズウイスキーに参入!
近年の蒸留所新設の背景の新たな動きとしてキーワードになりそうなのが「大手資本」、「海外資本」だ。
「先日、軽井沢ウイスキー株式会社が軽井沢蒸留所建設着工の発表を行いましたが、これにからんでいるのが三菱地所。東京・丸の内エリアと軽井沢をつなげ、ウイスキーでの街おこしに乗り出すようです。
一方、鹿児島の嘉之助蒸溜所はディアジオとのパートナーシップ締結を発表しました。ディアジオとしてもジャパニーズウイスキーにそれだけの可能性を見出しているということで、今後、大手資本、海外資本参入の動きが加速するでしょう」
ディアジオのような大手海外資本の参入とは異なるが、野沢温泉蒸留所、鴻巣蒸溜所、利尻蒸留所のように外国人オーナーの蒸留所も増えてきている、と土屋さん。日本の風土に魅力を感じる海外の造り手が、ジャパニーズウイスキーをどう表現していくのか。こちらの動きも注目に値するだろう。
ところで、なぜジャパニーズウイスキーは人気なのか?特に中国市場で圧倒的な支持を得るのはどうしてなのか?
「そもそもジャパニーズブランドへの信頼度が根底にあるのでしょう。これまで世界のウイスキー市場はスコッチとバーボンに支配されていました。ジャパニーズウイスキ−がシングルモルトを中心とする高級酒のカテゴリーに地位を獲得したことで、これまでのウイスキー勢力図を変えるのではないか、そんな期待感があります。
そのベースにあるのは、日本という国がもつブランド力。製品に如実に反映される気候風土、ヨーロッパにはないものづくりの文化や姿勢、哲学。こういったものすべてがジャパニーズウイスキーに影響をもたらしています」

嘉之助蒸溜所 / 鹿児島県(2017年生産開始)
日本酒で培った麹文化はウイスキーをどう変える?
「さらには日本ならではの発酵文化、麹文化の存在が大きいはず。
ディアジオが嘉之助蒸留所に目をつけたポイントは、焼酎造りで培われた麹文化にあるのではと思っていますが、これは欧米のウイスキーメーカーにとって“未知なる宝箱”です。
従来の新規蒸留所は焼酎メーカーか異業種からの参入が多かったですが、近年は日本酒の造り酒屋がウイスキー造りにチャレンジする事例を散見します。『ウイスキーガロア』30号でも取り上げていますが、彼らは酵母と水に関して驚くほど長い伝統と知見を持っています。
確かに蒸留に関しての知見は未知数ですが、これまでウイスキー造りで見過ごされてきた酵母、水にまつわる彼らの経験が世界のウイスキー造りを一変させる可能性がある。私はそんなふうに見ています」

ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(出典:日本洋酒酒造組合)
今後の課題は「ジャパニーズウィスキーの定義づけ」。
とはいえ、ジャパニーズウイスキーならではの課題もある。まずは定義について。日本洋酒酒造組合は2021年2月、ジャパニーズウイスキーの表示に関する新たな定義を発表した。
「現在製造している、もしくは販売中の製品に関しては、2024年3月までの適用猶予期間が設けられています。ですが、私の体感として市場に流通している製品で新たな基準に合致しているものは1割にも満たない。大手も含めて外国産の原酒をブレンドするなどの事例が多いことから、この影響はウイスキ―業界全体に及ぶと考えています。
一方、クラフト蒸留所ではいちはやくこの定義を取り入れ、『ジャパニーズウイスキー』という名称を積極的に使うことで自らの価値をあげていこうとしています。ブレンデッドにしても、嘉之助蒸溜所や桜尾蒸留所のように自社でグレーンウイスキーを造り、『ブレンデッドジャパニーズウイスキー』と謳おうとしている造り手もいるほど。
クラフトが改革の大きな原動力になっているのは確かで、こうした時代の移り変わりを目の当たりにできることが現在のジャパニーズウイスキーのシーンの面白なのかもしれませんね」
とはいえ、この定義はあくまでも日本洋酒組合の内規に過ぎず、罰則規定も設けられていない。組合に加盟していないなら従わなくてもいいのだ。おまけに「ジャパニーズウイスキー」と一語での公称に関する定義に過ぎず、例えば「ジャパニーズブレンデッドウイスキー」というような表記を行う場合、この定義は当てはまらなくなる。
「それに加え、酒税法で定められているウイスキーの定義も問題です。世界では、原料に穀物を使っていること、蒸留していること、樽で貯蔵していることの3つの要件がウイスキーと認識されていますが、日本の酒税法では、穀物を使った原酒が10%以上使われていればウイスキー扱いになります。つまり残りの90%は醸造アルコールなどでかまわないとされているのです。
こうした定義にまつわる問題が、今後、世界5大ウイスキーとして存在感を発揮する中で解決すべき課題と考えています」
ウイスキー樽のNFT化、ツーリズムとの融合など、新しいビジネスモデルが次々に誕生しているジャパニーズウイスキー。「ものづくりのダイナミズムを体感できることがウイスキーの魅力であり、こうした面白さこそがウイスキーのポテンシャル」とおっしゃる土屋さん。2022年もウイスキー・シーンから目が離せません!
★ウイスキー専門誌『ウイスキーガロア』2022年1月12日発売の最新号と同時に下記サイトも更新されます。
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