日本で唯一!
活気づく洋樽メーカーを直撃!
<後編>

PICK UPピックアップ

日本で唯一!
活気づく洋樽メーカーを直撃!
<後編>

#Pick up

小田原伸行さん by「有明産業株式会社」

日本ならではのフレーバーを追い求め、サクラやヒノキなどの原木を使った樽造りに取り組む有明産業の職人たち。樽メーカーだからできる新たな試み、提案とは?

文:Ryoko Kuraishi

キャリア20年の三輪正さんは、木の目を見極めるプロフェッショナル。肌理を見ると同時に虫食いの穴や割れをチェック。「弱いところから必ず漏れてきますから」。

日本で唯一の独立系洋樽メーカーとして日々、新しい樽の開発に奮闘する小田原伸行さん。
樽の開発の原動力となるのは、日本の樽を、引いては日本の熟成文化を発展させたいという強い思いだ。
そしてそのヒントを、海外の蒸溜所で得ることも少なくない。


昨年はスコットランドへ蒸溜所巡りに出かけたが、「これまではメーカーに求められるものをただただ作り続けてきたが、これからは自分たちらしい発信を積極的に行わなくては」、そんな思いをますます強くしたという。


「日本にはたくさんの種類の酒がありますから、それぞれの土壌や風土にフィットする樽を作ってそれを酒造メーカーに提供し、熟成してもらったらどうだろう。
たとえば麦焼酎用には、アメリカンオークを使い、焼き方はミディアムで。
芋焼酎にはヨーロピアンオークをトースティングして」


お酒に合わせて樽をカスタムする。小田原さんの夢は膨らむばかりだ。

曲げ加工を施して成形した樽を種火にかぶせ、内側を焼く。蒸留酒用はチャーリング、醸造酒用にはトースティングという加工を施す。

「なぜなら、酒造メーカーにはまだまだいい酒がたくさん眠っています。
そして蕎麦に米、麦……ここまで多彩な原材料を使い分けて酒を醸すというのは、他国では見られない文化ですよね。
原料の風味を活かした原酒と、樽の風味を組み合わせて熟成する。
それこそが日本の新しい『いい酒』に繋がるんじゃないかと考えています」


そうした試みの一つとして新たに取り組んでいるのが、フレーバーの異なる材を使った樽だ。
熟成樽といえばアメリカンオーク、そしてミズナラを含むヨーロピアンオークが王道だが、小田原さんたちはスギやヒノキ、カエデなどさまざまな材に取り組んでいる。


「スギひとつにしたって飫肥スギ、吉野スギ、屋久スギといろいろですし、ヒノキにカエデ、サクラなど日本の風土を代表する樹木はたくさんあります。
日本の材を使った日本メイドの樽で、日本らしい酒造りのお手伝いをすること。
つまり酒メーカーと一緒に酒を造っているんだという高い意識を職人一人一人が持つことが、これからの課題でしょうか。


極東の最後発国の一つではありますが、ひとつひとつきめ細かに、『日本らしさ』を大切にした提案をしていけば、海外に負けない樽文化、酒文化を築けると考えています」

種火にオークチップをくべると粉塵爆発が起こり、内側が一気に焼けこげる。季節、気温、湿度によって燃焼時間は調整するが、それも職人が見極めている。

現に小田原さんたちがプレゼンした日本のスギ材、サクラ材を使った樽も、いくつかのメーカーに採用されて始めているそう。
海外の酒メーカーからは北海道産ミズナラを使った樽への問い合わせが急増中だ。


「僕たち樽メーカーにできることは、こんな原酒を使ってこんな樽で熟成させるとこんな味わいが楽しめますよ、という情報を広く伝えることでしょうか。
そしてその酒が持つ風土性を最大限に引き出せる樽を造れれば、酒を選ぶ楽しさがもっと増える、選ぶ酒の選択肢も増える。
今まで、もしかしたら僕たち樽業界の人間は、そういう意識が足りなかったのかもしれない。


でも料理と酒のペアリングがあるように、酒と樽のペアリングによって互いの良さをより引き立てあうことだってできるように思うんです。
そういう樽を追求していくのが、僕たちの使命です」

工場内には古い樽をずらりと並べたギャラリー風の一角が。

例えば、麦焼酎も樽で7、8年寝かせたら、まるでウイスキーのような味わいになるという。
焼酎メーカーの中には10年、20年寝かせたも原酒をストックしているところもあり、それは本場スコットランド惨のスコッチにひけをとらない、複雑な味わいが楽しめるとか。


小田原はさんは、「焼酎、ウイスキーに関わらず、日本ならではの樽を用いての長期熟成にも興味が有るし、あるいは、そうやって熟成させた世界の原酒と日本の原酒をブレンドしてみても、面白い味わいができるかもしれません」と樽の未来に思いを馳せる。


樽状の保存容器は紀元前から存在し、その形状は現在とほとんど変わらぬフォルムなんだとか。
何千年と変わらぬ姿を保てたのは、樽というアイテムが機能面、デザイン面からみても、高い完成度を誇る道具だったからに他ならない。


その樽に、長年培った技と新しいアイデアで新しい付加価値を見いだそうとする職人集団。
古くて新しい樽の未来は、ここから生まれる。

SHOP INFORMATION

有明産業株式会社
京都市伏見区東菱屋町428-2 (本社)
宮崎県児湯郡都農町大字川北1948-2(工場)
TEL:075-602-2233
URL:http://ariakesangyo.co.jp

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