日本で唯一の独立系!
活気づく洋樽メーカーを直撃!
<前編>

PICK UPピックアップ

日本で唯一の独立系!
活気づく洋樽メーカーを直撃!
<前編>

#Pick up

小田原伸行さん by「有明産業株式会社」

ウイスキーの味わいや香りを育む熟成樽。今月は日本で洋樽作りに励む、数少ないクーパー(樽職人)たちをフィーチャー。知られざる洋樽製造の裏側をご案内しよう。

文:Ryoko Kuraishi

本社のある京都と都農の工場を行き来する小田原伸行さん。

近年、世界的にも高い評価を得るようになったジャパニーズ・ウイスキー。
多くの蒸溜所が試行錯誤して造り出す、それぞれの気候、風土、ブレンダーの感性を反映した香り、味わい。
それを影で支えているのが、熟成に欠かせない洋樽だ。


かつて日本に4社あったという洋樽メーカーも、現在日本で独立系として稼働しているのは一社のみ。
宮崎に生産の拠点を置く、有明産業である。


京都で創業した有明産業はもともと、酒用の木箱を製造し日本酒メーカーに納めていた。
洋樽の製造に乗りだしたのは、1985年のこと。
技術に長けた職人たちを営業職に据え、営業先で直接、手直しを施すという手厚いアフターサービスで、酒造メーカーの信頼を得た。
平成16年からは洋樽製造が主産業に。


「創業当時から酒文化に携わってきました」と胸を張るのは、昨年からこの有明産業の舵を取る若き3代目、小田原伸行さん。
「日本の酒文化を活性化する手伝いをしたい」と、新しい樽の提案を積極的に行っている。

工場の敷地内には、大小さまざまな樽がずらり。再生処理加工を施すため海外から直送された中古樽も。

小田原さんに、樽製造の拠点たる宮崎県都農町にある工場を案内してもらった。


敷地内にはいくつもの棟があり、中には大きさ、種類もさまざまな洋樽がずらり。
工場の外には、海外から引き取ってリメイクし、出荷を待つばかりとなった中古のシェリー樽が並ぶ。
450ℓサイズのアメリカ産ホワイトオーク樽を中心に、海外から引き取ったシェリー樽やワイン樽、ブランデー樽など中古樽のリメイクやリチャーも行っている。
ウイスキー人気の高まりを受けて、シェリー樽の需要も多く、再生処理加工のオーダーも多いのだそう。


この工場の年間生産数は4500丁(樽は1丁、2丁と数える)ほど、そのうち9割は焼酎メーカーへ、残りの1割が国内のウイスキーメーカーに提供されている。
近年、バーボンの市場が活発になったことでバーボン樽の原木を大手メーカーが押さえてしまっていることから、海外メーカーからの問い合わせも増えてきたそうだ。

ガマの葉を手早くよじり、鏡板の隙間に収めるのは、組み入れの工程でナンバーワンの技術を誇る山下泰幸さん。長年の経験と、経験に裏打ちされた「目」で、ぜったいに漏れない樽を造る。

「樽の製造で大切な点は2つあります。
第一に、酒の味わいを左右する『焼き』。
第二に、『漏れない』という精密さ。
日本の樽と海外の樽の違いは、この精密さにあります。


海外の樽は自動化された製造ラインで、効率よく大量に作られています。
完成品の樽は漏れることがままありますが、漏れないように手直しをする職人が各蒸溜所にいますから、樽メーカーではそこまで漏れを気にする必要はありません。


一方、日本の樽はといえば、納品の段階で『漏れない』という精密さが求められます。
うちでは多くの行程を職人自らが昔ながらのやり方で行っていますが、それも精度の高さを求められるからなんです」

職人たちの、年季の入った道具類。

たとえば、色や香りの決め手となるチャーリング。
ホワイトオークは焦がすことで香りがさらに際立つため、新樽にしろ、中古樽のリメイクにしろチャーリング(焦がし)という工程を施す。


その際、海外の樽メーカーではガスバーナーを用いるが、ここでは樽をかぶせた種火にオークチップをくべ、粉塵爆発を起こさせて内側を燃焼させるという方法を採る。
この昔ながらのやり方のほうが焼きムラが少なく、均等に仕上がるのだ。


漏れを防ぐための「組み入れ」の工程も、職人技の賜物だ。
鏡板(蓋)を樽にはめ込む際、ねじったガマの葉をパッキン変わりに利用する。
海外では小麦粉のペーストを代用するそうだが、湿度の高い日本ではすぐに痛んでしまう。
そこで考案されたのが、ガマの葉を代用する方法。


樽の径に応じて使用するガマの数もねじり方も変わってくるのだが、長年の経験から、まるで測ったかのようにぴったりと樽の内側に収められていく。
こうして漏れのない樽が生まれるのだ。


中古樽のレフィルもしかり。
側板に痛みや傷があれば、その一枚だけを外して別のレフィル樽から移植する。
ひとつひとつたわみの異なる樽に合わせるため、多くの側板からぴったりはまりそうな一枚を探し出すのも職人の長年の勘だし、ミリ単位で削ったり叩いたり調整しながら中古の樽にぴたりとはめるのもまた、職人技だ。

自社で製造した蒸留酒用の樽と、輸入したワイン、ブランデー、シェリーの中古樽。中古樽はリメイク、リチャーを施してよみがえらせる。

このように、合理的という視点から考えると無駄とも思われがちな一手間一手間。
小田原さんによれば、こうした手間にこそ樽メーカーの未来がかかっているのだとか。


「以前は、僕たちは『樽』そのものを売っているんだと考えていましたが、私たちが扱っているのは樽を通じての『味わい』なんですよね。
樽そのものではなく、樽が醸すバニラ香やハチミツ香などのフレーバーや味わいが重要なんです。


『求められた樽を納めればいい』という従来の考えから脱却し、『焼き方一つでフレーバーは変わるんだ』という視点に立てば、僕たちにできることはまだまだあると思っています。
とすれば、国内の樽文化には発展する余地が残されているんじゃないでしょうか」


新世代の樽メーカーが考える、「日本らしい」樽文化とは?
後編では有明産業の新しい提案をご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

有明産業株式会社
京都市伏見区東菱屋町428-2 (本社)
宮崎県児湯郡都農町大字川北1948-2(工場)
TEL:075-602-2233
URL:http://ariakesangyo.co.jp

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