バー愛好家の心を揺らすドキュメンタリー、
映画『YUKIGUNI』。

SPECIAL FEATURE特別取材

バー愛好家の心を揺らすドキュメンタリー、
映画『YUKIGUNI』。

#Special Feature

文:Drink Planet 編集部

現在も誕生当時と同じレシピ、スタイルで提供されている「ケルン」の「雪国」。Photo by 阿部翼

現在も誕生当時と同じレシピ、スタイルで提供されている「ケルン」の「雪国」。Photo by 阿部翼

この冬、バーテンダー必見の映画が登場する。
その名は『YUKIGUNI』。
ご存知、「雪国」というカクテルに焦点を当てたドキュメンタリーだ。
日本が誇るスタンダードカクテル誕生の裏側を、映画は丹念に紐解いていく。


20世紀半ばの日本で生まれた、スタンダードカクテル「雪国」。
材料はウォッカとホワイト・キュラソー、ライムジュースだけでという、ごくシンプルなカクテルだが、当時としては大変珍しい砂糖で仕立てたスノースタイルで提供された。


創作者は山形県酒田市にある喫茶「ケルン」のバーテンダー、井山計一さん。
日本最高齢バーテンダーの井山さんは90歳を超えてなお現役、カウンターに立ち続けている。

1955年に開店したケルン。1976年の「酒田大火」で店舗が消失、2年後に現在の地に移転して店を再開させた。Photo by 阿部翼

1955年に開店したケルン。1976年の「酒田大火」で店舗が消失、2年後に現在の地に移転して店を再開させた。Photo by 阿部翼

1926年生まれの井山さんはプロのダンス教師を経て、25歳の時にバーテンダー見習いとして仙台のグランドキャバレーに入店。
その後、福島、郡山でさらに経験を積み、酒井市に戻って喫茶店兼バー「ケルン」を開店させる。


1958年、壽屋(サントリーの前身)が主催したコンペティション、「第一回ホーム・カクテル・コンクール」に創作カクテル「雪国」を出品、翌年にグランプリを受賞する。
その後も「ボサノヴァ・デイジー」「プチシャトー」といったオリジナルカクテルをいくつも考案。


「プチシャトー」は1981年、日本バーテンダー協会の「第8回全国バーテンダー技能競技大会全国大会」創作部門で優勝を果たしている。

現在もほぼ毎日カウンターに立ち、シェイカーを振り続ける。Photo by 阿部翼

現在もほぼ毎日カウンターに立ち、シェイカーを振り続ける。Photo by 阿部翼

カクテルの材料となるリキュールやスピリッツ、フレッシュフルーツが容易に手に入る現代において、カクテルメイキングの幅は無限と言えるほど広がっている。
しかし、1960年代以前、日本に輸入されていたリキュールはせいぜい20銘柄。


「雪国」が半世紀以上も飲み継がれ、スタンダードとして定着した理由は、たった3つの材料で甘さと酸味の絶妙のバランスを作り上げている点にあるだろう。


コンペ出品にあたりさぞ綿密に練られたレシピかと思いきや、井山さんは「たまたまそこに並んでいた3本を使っただけ、『雪国』というネーミングも毎日、カウンター後ろのボードに書いている川柳から取った」と語っている。
飾り気のない井山さんの人柄を映し出すようなエピソードである。

鶴岡市生まれの渡辺智史監督。

鶴岡市生まれの渡辺智史監督。

『YUKIGUNI』の渡辺智史監督が「雪国」と井山さんを知ったのは2012年のこと。
それまでほとんどカクテルを飲む機会がなかったという渡辺監督だが、かつて近代港町、商業の街として大いに栄えた酒田の粋を体現するような井山さんに惹かれ、同時に昭和という激動の時代を生き抜き、スタンダードとして今なお愛され続けるカクテルの存在に心を動かされたという。


企画当初は、井山さんや交流のある人々の人生を織り交ぜながら、カクテル「雪国」の誕生とその背景に迫るドキュメンタリーとなるはずだったが、取材の過程で成田一徹さんによる「バーは人なり」という言葉に出合ったことで、井山さんのバーテンダーとしての半生を追いかけるライフヒストリーに変わったという。


「バーは人なり」。
まさにその言葉通り、井山さんのカクテルを飲み、話に耳を傾けるためにバーホッパーたちが全国からやってくるからだ。
「ケルン」で繰り広げられているバーテンダー井山さんとバー愛好家のやりとりを丁寧に切り取った本作からは、「日本のカクテル文化の魅力やバーがもたらす幸せな時間を伝えたい」という監督の思いを垣間見ることができる。

映画のオフショットから。美しい桜並木の下を歩く井山さん。Photo by いでは堂

映画のオフショットから。美しい桜並木の下を歩く井山さん。Photo by いでは堂

居心地のいいバーで、じっくり、カクテルと向き合ったようなひと時を体験できる映画『YUKIGUNI 』。


関東では1月2日よりポレポレ東中野、UPLINK渋谷で公開される。
公開初日は各劇場でカクテル「雪国」にちなんだイベントを開催予定だ。
ポレポレ東中野  https://www.mmjp.or.jp/pole2/
UPLINK渋谷  http://www.uplink.co.jp/


なお、映画をSNSで紹介すると当日券より割引になるSNSキャンペーンも実施中。
#YUKIGUNI を添えて映画の公開情報を告知、劇場窓口でSNSの画面を見せると
当日券よりも200円割引になる。


現在公開中の山形県内では、映画の公開を記念した特別キャンペーンが実施されている。
上映期間中、60年にわたって提供され続けている井山さんのオリジナルレシピに基づく「雪国」が、県内各地のバーで再現される。
山形県のキャンペーン情報は下記から。
http://yuki-guni.jp/news/731/


映画『YUKIGUNI』とカクテル「雪国」、2つの雪国の余韻を楽しんでみよう。

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