ドイツ蒸留所留学!日記

SPECIAL FEATURE特別取材

ドイツ蒸留所留学!日記
[vol.03] -  ~蒸留にまつわるあれこれ~

#Special Feature

文:江口宏志 ブックショップ「UTRECHT」代表、「THE TOKYO ART BOOK FAIR」ディレクターを経て、フリーの本好き。現在は日本に蒸留所を作るためにドイツで修行中。 hiroshieguchi.com

江口宏志氏がドイツの南の小さな村で奮闘する、蒸留留学日記の第三回。

今回はいよいよ蒸留のこと。

今日はプラムの蒸留をする日。
1000リットルの立方体のタンクには、一ヶ月前にマッシュし、イーストと酵母を加え、発酵させていた約900リットルのプラム(梅)が入っています。
蒸留器のポットのサイズはわずか150リットルと小さいので、5回にわけて一日で蒸留します。

数字に疎い僕がなぜ自信を持って書けるかというと、事前に蒸留する量や回数を税務署に申告する必要があるからです。

蒸留する量に応じて生産するアルコールと税額が決まり、蒸留の許可と共に税金の請求書が送られてくるという仕組みなのです。
製造した量だけ納税しなくてはならないということは、たとえ蒸留が失敗して製品にならなくても、税金は収めなくてはなりません。
もちろん今まで発酵させたものも全て無駄になりますし、それもあって、蒸留の朝は皆真剣そのもの。ピリピリとしたムードが小さな蒸留器の周辺に漂います。

ちなみに、この仕組みはStählemühle(シュテーレミューレ)が年間生産量が少ないための例外的な処置で、一般的な規模の蒸留所は製造後、製品にするタイミングで申告する制度になっているそうです。
(恐らく日本もそのような仕組みになっています)。

ただその場合は、蒸留した後の液体もまだ自由にすることはできず、鍵のかかったタンクに一旦保存し、税関の担当者立会のもと、解錠する必要があるみたいです。

この話はまた今度にするとして。

さて、プラムの表面には発酵が終わったカスによって層ができています。
それをミキサーの先で突くと、鮮やかな赤紫色の液体が現れました。発酵が進んでいるため、すでにアルコールの匂いが立ち上っています。
よく混ぜて、蒸留器のポットに入れます。
入れる際に砂糖を加えるのは香り付けのため。
他にもヘルメットの部分に冷凍保存しておいた果実を入れたカゴを固定して、そこを蒸気が通るようにしたり、香り付けのためのやり方は、原料ごとに様々に行われています。

150リットルのタンクにこの液体を入れるといよいよ蒸留のはじまり。
と、いいつつ、ここからはあまりドラマチックなことはありません。
温度管理はプログラミングされていて、ポットの温度が10分ごとに1℃づつ上がるように、などとすでに設定されています。
(もちろん最初にそのようにクリストフが設定したわけですが)。

常時撹拌されたポットの中の液体は、徐々に温度があがっていくに従い、先にアルコール分が蒸気になり、真ん中の縦長のコラムへと移動します。
下に貯まった液体が更に加熱→蒸気→上の段に移動、加熱→蒸気→上の段に移動…
ということを繰り返すうちにアルコール度数が高まっていきます。
コラムの後のタンクを経由して、最後に左の冷却塔を通り、透明な液体となって現れます。

最初に出てくる部分はヘッドと言われ、不純物も多いため飲用には使いませんが、オイル分なども多く含まれ、エッセンシャルオイルにすることもあります。
その次がハートと言われる部分。
この部分がフルーツブランデーになります。

アルコール度数は80%を超え、かなりアルコール度数の高いものですが、口にするとプラムの成分も十分に感じることができます。
プラム特有の甘酸っぱい匂いが蒸留所に充ちています。蒸留する前に嗅いだものにくらべると、すっきりとして上品な香りです。

最後にテイルと呼ばれる部分を別に取り分けて、一セットの蒸留が終了。蒸留の記録は税務署がチェックすることもあり、毎回のアルコール度数を計りながら、詳細に記録します。
例えば写真の表だと、
8:32分にスタートした一回目の蒸留は、140リットルの原料を使い、0.4リットルのヘッド、8.9リットルのハート、6.8リットルのテイルを蒸留。ボディのアルコール度数は84%のため、生産したアルコール量は7.4リットル。
という具合です。

このあとフィルトレーションと呼ばれるろ過作業と加水処理を行い、アルコール度数は43度程度に調整されるので、この量から実際に商品になるのは、このボディの量の2倍くらいということになりますが、それにしても140リットルのプラムから、製品になるのはわずか20リットル以下。
つまり一つの製品(350ml)には、3キロ以上のプラムが使われているということになります。

そして、蒸留のあとはひたすら掃除。
これまたクリストフがよく言うのがあって、
「Only Bright Copper makes a good spirit」
という言葉。

これは言うまでもなく蒸留器の素材が銅でできていることから来ていてで、終わったあと蒸留器は嫌になるくらいきれいに掃除をします。
蒸留器をみてもらうとわかるけれど、銅色の素材部分は蒸留物のための通り道。
一方、冷却や洗浄のために水の流れるのはシルバーの管で、そっちの方が複雑に管が通っています。

全体に水を流して水洗い、そのあとポットの中については手で洗い、見た目はもちろんにおいについても入念にチェックをします。
一回の蒸留にかける時間と同じくらいの時間を掃除にかけるのだから、この言葉の重みがわかるというものです。



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