ドイツ蒸留所留学!日記

SPECIAL FEATURE特別取材

ドイツ蒸留所留学!日記
[vol.02] - ~蒸留は答え合わせ~ 

#Special Feature

文: 江口宏志 ブックショップ「UTRECHT」代表、「THE TOKYO ART BOOK FAIR」ディレクターを経て、フリーの本好き。現在は日本に蒸留所を作るためにドイツで修行中。 hiroshieguchi.com

江口宏志氏がドイツの南の小さな村で奮闘する、蒸留留学日記の第二回。

前回は様々なフルーツや植物の収穫を紹介しました。今回はいよいよ蒸留のことを、と思っていたのですが、ボスのクリストフがある日、気になることを言いました。

前回は様々なフルーツや植物の収穫を紹介しました。今回はいよいよ蒸留のことを、と思っていたのですが、ボスのクリストフがある日、気になることを言いました。

Distillery is just a proof.

蒸留は単なる証明。
わかりやすく言えば、答え合わせみたいな感じでしょうか。

つまりは、どのようなフルーツを、どのタイミングで収穫するか、収穫した果物をどのようにに適切に加工するか。
蒸留とはそれらがうまくできたかを確かめることで、蒸留する前に大切なことは全て決まっている。


というわけで、今回は収穫したフルーツや植物をどのように加工するか、ということを紹介したいと思います。

例にあげるのは、Vogelbeer(rowanberry)の実。

日本ではナナカマドと呼ばれるものが近い種で、街路樹などでも見かける赤い実が特徴です。
僕も子どもの頃に食べた記憶がありますが、とてもじゃないが苦くて硬くて食べられたものじゃありません。
これがどうやってお酒になるのでしょう。

まずは収穫。
例によって収穫は外にでかけます。今日はゴルフ場へ。

コース内での決死の収穫の様子(大げさ)は、僕のサイトをご覧ください。

その後ゴルフ場の別の木からも収穫し、約300キロの実が集まりました。
いよいよ加工ですが、まずは枝から実だけを取り外します。

用意するのは、何かと使う青い樽と金網を加工して作った特製実外し台。
台の上に枝付きの実を載せ、手で押さえつけながらスライドさせると、実がポロポロと取れて樽の中に落ちるという仕組みです。

言うは簡単ですが、Vogelbeerの実は硬くて、枝ともしっかりくっついていてなかなか大変です。二人がかりで半日かかって、ようやく全ての実を取り外しました。

ちなみに、ぶどうやベリーなど実が柔らかいものだと、取り外す際に実が潰れてしまい、終わる頃には手がべったりと紫に染まります。
石けんでも落ちないこの手は、ディスティラーズ・ハンドと言われて喜ばれます。

次は、実をマッシュ、つまり細かく砕く作業があります。
基本は機械を使います。
実の大きさ、硬さによって、ケーキづくりに使うハンドミキサーが巨大化したようなものから、今回のような回転するカッターに流し入れるタイプのものまで数種類を使い分けます。

左:アーノルドと呼ばれる巨大ミキサー 右300キロあった実がわずか200リットルに

左:アーノルドと呼ばれる巨大ミキサー 右300キロあった実がわずか200リットルに

一気に砕かれると空気中にも成分が飛び出し、Vogelbeerの実独特の、強い苦味に酸味が加わった鮮烈な香りが立ち上ります。
見た目はアレですが、この瞬間はなかなかいいものです。
結局、300キロの実は、マッシュして約200リットルになりました。

その後、先ほども使った青い樽に移し、酵母とイースト菌を加え、巨大ハンドミキサーでよくよく混ぜます。酵母とイーストの量は全体量と気温によって都度調整します。
余談ですがこの巨大ハンドミキサー、ここではアーノルドと呼ばれています。

蒸留器メーカーのアーノルド・ホルシュタイン社製だから付いた名前ですが、そもそも蒸留所の機材はほとんどアーノルド・ホルシュタイン社製なので、なぜこれだけアーノルドと呼ばれるのかはよくわかりません。
そして、最近ミキサーを替えて他社製にしたために、いよいよアーノルドの理由は謎になってしまいました。

双眼鏡のような糖度計

双眼鏡のような糖度計

最後に、糖度計で糖度を計ります。
これによって発酵時間の目安をつけているようです。
その後、温度調整をしている倉庫に入れて、発酵を待ちます。
糖分がアルコールに変わるまで数週間~1ヶ月。
次こそはいよいよ蒸留、答え合わせです。

シュテーレミューレについてはドリンクプラネットのこの記事をご参考ください。


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牧場に生えたりんごの収穫。りんごをめぐって牛たちと激しい争いが繰り広げられます

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