「ベスト・カクテルメニュー・アワード」受賞の「Lab22」。
驚きのメニューの中身とは?
<後編>

PICK UPピックアップ

「ベスト・カクテルメニュー・アワード」受賞の「Lab22」。
驚きのメニューの中身とは?
<後編>

#Pick up

Max Hayward/マックス・ヘイワード by「Lab22」

昨年の「The World's 50 Best Bars」で「ベスト・カクテルメニュー・アワード」を受賞した英国ウェールズの首都カーディフに位置する「Lab 22」。ヘッドバーテンダー、マックス・ヘイワードにユニークで類い稀なるメニュー作りと独自のカクテルネーミングについて聞いてみよう。

文:Drink Planet編集部、Miyuki Sakamoto(後編)

「ベスト・カクテルメニュー・アワード」を受賞した「Lab22」チーム。中央がベッドバーテンダーのマックス。トップの写真は、”セオリーズ+フロンティアズ”のメニューから、テキーラベースのカクテル「Concrete Daisy」。世界が抱える食糧問題を解決するためのアーバンファーミングを背景に考案された意欲的なカクテルだ。

三部作で展開したメニューの最終章、”セオリーズ+フロンティアズ”

「『ベスト・カクテルメニュー・アワード』を受賞できるなんて、本当に予想すらしていなかった。
ファイナリストの5店に入っただけでも驚きで一杯だったのに。映えある素晴らしい賞をいただき、心から嬉しく光栄に思っているよ」


取材を始めるにあたってお祝いを述べると、マックスからこんな言葉が返ってきた。
しかし、その後話を聞いているうちに、これほどユニークなメニューがある店が受賞しないわけがない!と思えるほど、そこには楽しさと新しさが詰まっていた。早速その詳細を紹介していこう。


2021年のメニューのテーマは、”セオリーズ+フロンティアズ”だったという。


「これは2018年の”ディスカバリー+プログレス”、2019年の”パイオニアズ+リヴォリューショナリーズ」と合わせての、三部作の最終パートでもあるんだ。
なぜこのような構成にしたかというと、この店のメニューをよりクリエイティビティにあふれたものにしたかったから」

左は、カクテル「Buck Fast, Die Young(バックファスト・ダイ・ヤング)」。それぞれのカクテルには右のような描き下ろしのイラストを添えている。メニューにはグラスの容量(125ml)とアルコール度数(16%)の表示も。

「最初の”ディスカバリー+プログレス”はすべての足がかりでもあって、これまでやったことがなかった手法やテクニックにトライしてみることがテーマだった。
その次の”パイオニアズ+リヴィリューショナリーズ”は、歴史上の科学者たちへオマージュを捧げつつ、私たちのルーツを改めて確かめながら、どこまで新たな領域に達成できるかの挑戦だった。
そして”セオリーズ+フロンティアズ”は、未来に向けての章なんだ。
化学の世界、そして『Lab 22』にはどんな将来が待っているのか?という思いをカクテルに落とし込んでいったんだ」


一つのテーマを長年続けるのではなく、バーが店として成熟していくためのターゲットに合わせ、メニューのテーマも変化させていることがうかがえる。

そして、2年間に渡ってテーマを設けて思考錯誤したメニュー、“セオリー+プログレス”と“パイオニア+リヴォリューショナリーズ”では、2018年と2019年続けて「Imbibe’s Drinks List of the Year」賞受賞するという快挙を成し遂げた。


メニューでは各カクテルにQRコードを添えている。
それにアクセスすることで作り手の考えや科学的エピソードなど、その一杯にまつわる詳細を読むことができる。

「これはカクテルが作られた背景にある物語や主題となった人や事柄を知ってもらい、メニューのテーマをより明確にするためなんだ。
でも科学をベースにした僕たちのカクテルを知るのに、堅苦しくてまるで教科書を読むみたいな感じになるのは避けたかったから、ユーモアをプラスすることも大切だった。
文字で載せるのではなくてQRコードを選んだのは、メニュー上が情報過多になりすぎるのを避けるため。
カクテルが飲みたいだけで、背後にある科学話には興味がないカスタマーだっているからね」


バーテンダーとして重要で思い入れある詳細がカクテルの背後にあっても、カスタマーへの押し付けはご法度。

「ここは自分の居場所なんだって思ってもらえることは大切だから」、とにかく店の敷居を跨いだ人すべてに、リラックスして最高のカクテルを楽しんでもらうことが信条なのだ。


そしてメニュー上のカクテルの説明には、材料だけでなく1杯分のアルコール度数、分量も表記している。
「これらの数字が注文する品を選ぶ基準になることだってある。これもすべては人々が快適に過ごして楽しんでもらうためなんだ」

カルヴァドス・ベースの「Snakebite Negroni」は「毒ゲノム研究」という新しい研究分野にオマージュを捧げるカクテル。レシピの背景を知りたい方はぜひ、Lab22のウェブサイトへ。

ローカル・コミュニティを大切にしたメニュー構成

さらにはカーディフ・ローカルのコミュニティを大切にしていることも盛り込んでいる。

たとえば、ウェールズ語(ウェールズには現在も使われ続けている世界最古の独自の言語がある。ちなみに英国では英語とウェールズ語の両方が公用語なのだ)のメニューを用意しているのもその一つ。
(「ウェールズにあるお店でもウェールズ語のメニューのない店が多くて残念に感じていたんだ」とマックス。)


そしてスタッフのお気に入りのバーやカフェ、レストランなどを紹介するコーナー「ディシジョン・ツリー」のページもある。
これはメニュー内でマックスがもっとも気に入っている箇所だとか。

「カーディフの飲食店同志のつながりと助け合いは本当に素晴らしいんだ。
お互いにサポートし合い、この街を訪れた人々にはその良さを最大限味わってもらうためにも、これを載せることにしたんだ」

クラシックカクテルをもじったネーミングが流行っている。

カクテルの名前は、ドリンクのタイプにメニューのテーマを反映させながら選んでいくという。

言葉遊びも重要な要素だ。例えばここの最も人気の一杯で、バックファスト・トニックワインを使った「バックファスト・ダイ・ヤング」は、「リブ・ファスト・ダイ・ヤング」という慣用句のもじりだ。
深海をテーマにしたカクテルの名は「ポイント・ニモ」。どちらもウィットに富んでいる。

「でも何よりも大切なのは、飲んでみたい!と思える名前にすることだね」

近年のイギリスでの傾向と感じているのは、インスピレーション元となったクラシックカクテル名の一部を拝借した名付け方だという。

数年前にマックスが「ダンデライアン」を訪れた時に目にした「キャノン・コスモ」や「スイートハート・サゼラック」がその例だ。

「こうしたネーミングのメリットは、オリジナルながらも、その名から元のクラシックカクテルを連想して、どのようなカクテルか予想をつけてもらえること」。

また、クラシックなスタイルからどのように進化しているかを比べる楽しさもありそうだ。「Lab 22」の「スネークバイト・ネグロニ」や「カーボン・クーラー」も同様にしてネーミングしたカクテルだ。

新しいアイデアであふれたメニューと独創的なカクテルの「Lab 22」。
現在はまた新たなテーマで新しいカクテルを開発中という。今後の進化がますます楽しみなバーだ。

Lab22
22 Caroline Street, Cardiff CF10 1FG
URL:www.lab22cardiff.com

SPECIAL FEATURE特別取材