日本のバーテンディングにも通じる?
日本茶に、世界中が熱視線!
<後編>

PICK UPピックアップ

日本のバーテンディングにも通じる?
日本茶に、世界中が熱視線!
<後編>

#Pick up

嬉野茶時(前編) by「東京茶寮」

世界を席巻する日本茶にフォーカスする今月。後半は、ハンドドリップ日本茶専門店の「東京茶寮」から、カクテルに応用するためのヒントとして日本茶の個性を引き出すコツをご紹介。

文:

左は深蒸しで甘みの強い「ゆめかおり」。中は浅蒸しの「香駿」でシナモンのような華やかな香り。右が「うじひかり」。日光を遮る被覆を行い、旨味成分であるテアニンが増えている。葉緑素も増し、茶葉がやや青みがかった鮮やかな緑に。形状の違いも一目瞭然。針のように見えるのが浅蒸し。一方、深蒸しは加熱によって繊維が壊れ、粉末のような状態になっている。Photos by Kenichi Katskawa

ここは東京、三軒茶屋にある日本茶専門店「東京茶寮」。
カフェで飲むスペシャルティコーヒーのように日本茶を楽しもうと、世界で初めて、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるスタイルを提案している。


コーヒーと同じように日本茶も、品種、産地、生産者、蒸し・焙煎によって全く風味が異なるからである。
まずは日本茶の基礎知識を、「東京茶寮」クリエイティブディレクターの谷本幹人さんに伺った。


「一口に日本茶といっても煎茶、抹茶、ほうじ茶、など様々な種類があります。
海外で脚光を浴びているのが抹茶。
素材として加工しやすく、茶葉そのものの色味や味わいがシンプルに表現できます。
料理や洋菓子で使われるのはそのためですね。
ただ、日本では茶道という伝統文化のフィルターがかかってしまうゆえ、時にハードルが高く感じられてしまう。


僕たちはあえて煎茶を扱っています。
舌の上で香り、味わいを楽しむという観点からみれば煎茶の方により奥深い魅力があると感じています。


抹茶の文化が戦国武将らによって広まり富裕層に愛されたのに対し、煎茶は江戸時代に庶民に受け入れられた日常性の高い飲み物。
日本茶を普段のライフスイタルに取り入れてほしいという僕たちのコンセプトに、煎茶が適していました」

(「東京茶寮」バリスタの井原優花さんは元バーテンダー。日本茶のアルコール抽出についてトライ&エラーを繰り返している。

本来、煎茶というと江戸時代に永谷宗円さんが発明した製茶法(青製煎茶製法)のことをいう。
茶葉を蒸した後に手もみし、乾燥させるこの製法は、江戸時代後期、江戸の庶民の間で大流行し、現在の煎茶文化が生まれるきっかけとなった。


「東京茶寮」ではこの煎茶に限らず、釜炒り茶、玉露を含め、カジュアルに楽しめる日常性の高いものを煎茶として定義。
その中でもシングルオリジン、つまり単一農園の単一品種だけを扱っている。


「飲み手が味わいの違いを明確に感じられるような個性があること。
品種、農家、製法などにストーリーがあるもの。
茶葉のラインナップ全体とバランスが取れること、その3点を意識してセレクトしています」


この中で、同じ品種でも製法の異なる蒸し製と釜炒りを用意したり、同じ品種の産地違いだったり、様々な味わいを楽しんでもらえるような工夫を凝らしている。


今回は谷本さんに、カクテルの副材料とする場合のポイントについてご教示いただこう。

一煎目と二煎目ではうつわも変える。よりすっきりとした飲み口の二煎目は、うつわのヘリが外側に広がったカップを選ぶ。

まずはお茶の基礎知識から。


お茶の主成分は主に以下の3つである。
アミノ酸:低温から抽出が始まる。50度くらいから抽出されやすくなる。
カフェイン:苦味のもと。75度くらいで多くとけ出てくる。80度を超えると苦味が強く感じられる。
カテキン:渋みのもと。75度くらいで多くとけ出てくる。80度を超えると渋みを強く感じられる。


ポイントは、アミノ酸と、カフェインとカテキンの使い分けだ。
「うちでは一煎目を、アミノ酸を中心とした味わいにするため、70度で抽出し、香りと甘味を楽しんでもらいます。
二煎目を80度に上げ、カフェインとカテキンを抽出して渋みとキレを味わってもらっています」


一方、その反対で低温(3〜5度くらい、あるいは氷水)で抽出すると、カフェインとカテキンが出にくく苦味・渋みが控えめの甘いお茶に。
低温になればなるほどアミノ酸を感じさせる出汁っぽい味わいになる。
「東京茶寮」では4gの茶葉に120mlのお湯を基本的なレシピとしているが、湯量を少なくすることで濃さをコントロールすることも可能だ。


谷本さんが語る「究極のお茶」としては、氷を上に乗せて30分かけてじっくり、ひとしずくだけを抽出するという方法もある。
茶葉の旨味、甘みが凝縮された一滴は、もはや甘露、あるいは花のみつのようなインパクトのある味わいだとか。
カクテルに仕立てるにはコスパがあまりにも悪いが、そういう抽出方法もあるということをご紹介しておこう。

茶葉は市場から買い付けるほか、全国の茶農家へ焙煎、蒸しをリクエストして特別に作ってもらう場合も。

次に、コーヒーで言うところの焙煎に近い、煎茶の蒸しについて考えてみよう。

浅蒸し:フルーティでフレッシュな味わい。
深蒸し:香りが飛んでまろやかに。味わいも丸くなる。
蒸しの浅い・深いは、蒸し時間の長さ、つまり加わる熱量の違いである。


カクテルに仕立てる際にも重要な、水色の違いは主に蒸しの違いである。
浅蒸しの茶葉をお湯で抽出するとクリアな黄金色になる。
フラボノールという色素がとけ出すためだ。


一方、深蒸しは濃いグリーンのお茶になる。
クロロフィルを含む茶葉が微粉となって液体に含まれるためだ。
さらに鮮やかなグリーンを出したい場合、「被覆」という製法に注目する。


「日光を遮って(被覆栽培)育てることでクロロフィルが増え、より深い緑色に変わるのが『被覆』です。
被覆すると色だけでなく香りも変わってきて、覆い香という癖のある香りが立ってきます。
玉露のあの独特の香りがそうなんですが、これはジメチルスルフィドという香りのもととなる成分が増えるから」


こうやってみてみると、どのような味わい、香り、色を表現するかによって、選ぶ茶葉が生産工程から変わってくることがわかる。


「お茶はワインと同じ。
雨量、雨が降るタイミング、木の樹齢、肥料をやるタイミング……。
同じ畑、同じ作り手であっても生産年によって全く異なる茶葉になるのです」

谷本さんの会社がもともとプロダクトデザインを主としているため、茶器や茶道具は全て、ここのために特別にデザインされたオリジナルだ。

最後に抽出方法だ。


「『お茶の味わい』といった時、多くの人が思い浮かべるのは『苦味』です。
味わいを強調する、つまり苦味を出そうと思うと、濃く抽出する必要があります。
先ほどお話したように、苦味のもとは75度あたりからとけ出すので、低温の水で抽出する場合、濃さを出すのに工夫が必要になる。


濃さが足りない場合は苦味以外の特徴として香りを強調するという手もあります。
お茶はアミノ酸が主成分といいましたが、お茶の焙煎されたときの香りのもとはテアニンというアミノ酸が変化したものなんですね。
他にも香気成分はいくつもありますが、お酒と合わせる場合、お茶は比較的香気成分が少ないのでお酒の香りに負けてしまう。
特に冷やして提供する場合、香りのたち具合はさらに控えめになってしまいます」


そこで登場するのが、アルコールで抽出する、つまりウォッカやブランデー、ウイスキーに漬け込むというパターンだ。
アルコールが茶葉の成分を分解するので濃く抽出できる。


「うちでもアルコールと日本茶の掛け合わせはトライ&エラーを繰り返していますが、アルコール抽出がいちばん表現の幅が広いようです。
さらに、抽出したお茶に香りを、粉末のお茶に渋みを求め、足りないものを補い合うような掛け合わせも有効です」


「東京茶寮」では、カクテルの副材料として試行錯誤を楽しめる、個性的なお茶が揃っている。


「バーもそうですが、お客さんの目の前で作り、香り、味わいともに最もいい状態で提供する、そんなライブ感のあるドリンクって、ものすごいポテンシャルを秘めていると思うんです。

バーで提供するお酒とハンドドリップの日本茶には共通項が多いですが、バーの世界と日本のコラボレーションがさらに強まれば、日本のドリンク文化はさらに深化していきそうですね」

東京茶寮
東京都世田谷区上馬1-34-15
TEL:非公開
URL:http://www.tokyosaryo.jp

SPECIAL FEATURE特別取材