世界が認めたサービスのプロの
おもてなしの真髄とは?
<前編>

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世界が認めたサービスのプロの
おもてなしの真髄とは?
<前編>

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宮崎辰さん by「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」

美食の国フランスでは、シェフと同様にレストランに欠かせない存在として知られている、メートル ドテル(給仕長)。世界で認められた超一流サービスマンの、「最高のおもてなし」哲学とは?!

文:Ryoko Kuraishi

「クープ・ジョルジュ・パティスト」で行われたカクテルの課題では、あらかじめ指定されたショート、ロング各5種のカクテルの中から抽選で割当られた各1種ずつを作った。「バーテンダーの大竹学さんと親しくしているので、彼のパフォーマンスを見せてもらって勉強したことも」 Photo Art Five

シェフが料理を作るプロフェッショナルとすれば、メートル ドテルはレストランにおける全シチュエーションに責任を持つ、サービスのプロと言えばいいだろう。
日本ではまだ一般には馴染みが薄いが、食事のひとときが楽しくなるよう、なにくれとなく気を配ってくれる存在は、フランス料理の世界ではなくてはならないものである。


さて、そのメートル ドテルの技術や素養を競う世界大会があることをご存知だろうか。
1961年にフランスでスタートしたコンクール、「クープ・ジョルジュ・パティスト」がそれだ。
2000年からは世界を舞台に開催されるようになり、昨年11月にはここ、東京で第5回世界大会の決勝戦が行われた。


予選を勝ち上がった11カ国11人で競われた決勝で、見事、世界一 に輝いたのが、日本人の宮崎辰さんである。
現在は恵比寿にある「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」でメートル ドテルを務めている。


今回は「世界一のメートル ドテル」による、サービスの哲学をお届けしよう。

客前で骨付き肉を華麗に切り分ける。「常に見られているという意識が、所作を磨いてくれると思うんです」 Photo Art Five

父親の愛読誌だった雑誌『Dancyu』の影響で、子どものころから料理の世界に興味を持っていたという宮崎さん。
高校を卒業すると辻調理専門学校フランス校へ入学、料理人を目指すことに。
料理を学ぶ日々のなかで、レストランシミュレーションの授業では初めて、プロのサービスの片鱗に触れた。
実際のレストランと同じ設備からなるキッチン、実際のホールを模した施設で行われたこの授業で、レストランという空間の中で行われる体系的なサービスを学び、「とても面白い、興味深い」と感じたそう。


南仏のミシュラン1ツ星レストランにて研修の後、帰国。
東京・国分寺のレストラン「シェ ジョルジュ・マルソー」に勤めるが、料理人を目指していたのに、なぜかサービスの部署に配属。
運悪くキッチンに空きがなかったのだ。
とはいえ、フランスで体験したサービスの授業の印象が強かった宮崎さんは、「これも何かの縁」とポジティブに考える。
「ここで日本一のサービスマンに出会ったことから、目指すべき道が変わりました。
その先輩の仕草や所作、タキシード姿の立ち振る舞いがなにしろ格好よかったんです」


こうして、料理人ではなく本格的に「サービスのプロ」として歩み始めることになった。

華麗な手さばきで審査員を魅了する。アイリッシュコーヒーやシガー、アルコールといった嗜好品はもちろん、季節の花やテーブルセッティングまで、メートル ドテルに必要とされる知識は幅広い。  Photo Art Five

ボーイでもウェイターでもなく、自分たちはサービスのプロフェッショナルなんだ!そういう自負を教えてくれたのも、その先輩だった。
「当時は料理人の人口が多くて、一方でサービスのプロは少なかった。
他のみんなと同じような道を歩むのがイヤだったという気持ちもあるし、『いずれはサービスの時代が来る』という、先輩の言葉に動かされました」


とはいえ、いちばん下っ端だった宮崎さんが、その先輩の仕事ぶりに接せられる機会は滅多にない。
「下っ端の仕事が何かといえば、先輩がサービスをしやすい環境をセッティングすること。
つまりお客様に直接サービスを行う先輩のサポートをすることなんです。
もちろん、ホールになんか出られません」
見ず知らずのゲストよりも、まずは身内のスタッフに気遣いする訓練からはじまった、一流サービスマンへの道。
そうした下積みの修行を重ねながらも、ソムリエの資格をとるべくワインの勉強も始めた。


「こいつは気が利く」と認めてもらえば、新しい仕事をもらえる。
新しい仕事をもらえれば、それがまた次のチャンスにつながる。
「そうやって下積みを積んで、下っ端の仕事は誰よりもわかるようになりました。
その合間に上の人間の仕事も理解すべく、常にじっくり観察していました。
いつ、誰に『これ、やってみるか』と言われても、『できます!』と言えるように」


この店で2年間修業したのちに、憧れの先輩に誘われて東京・芝の「クレッセント」(ミシュラン2ツ星)へ。
「またいちばん下っ端(笑)」という状況は変わらなかったが、その後、日本ソムリエ協会認定ソムリエの資格も取得。
そして4年目にしてついに、憧れの黒いジャケットを着られることになった。

美しくしつらえられた開店前のジョエル・ロブション。宮崎さんの細かなチェックを経て初めて、ゲストを迎え入れることができる。

「それよりも、ここでは生涯の師匠ともいうべきサービスのプロフェッショナルに出会えたことが大きかった。
彼のサービスへの哲学や姿勢に、大いに影響を受けました。
まだ覚えているんですが、『お前は訪れる人の目線で仕事をしていない』って指摘されたんです。
僕はホールにあった真ちゅうの電気スタンドを掃除していたんですが、そこに曇りがあったんですね。
座ったら見えるものだけれど、立って掃除している自分の目には留まらなかった。
それを、掃除する目線が違うと指摘されたんです。
常にお客様と同じ目線でものごとを捉えるその先輩の、目のつけどころや考え方に脱帽しました」


見えないところにも気を配る。
最高の状態でゲストを迎え入れなければ、いいサービスはできない。
いいサービスは準備、つまり掃除から始まる。
開店前、誰もいないときから気持ちを高めて準備をしていかなくては、ゲストを満足させることはできない、などなど。
今現在につながる宮崎さんのサービス哲学は、すべてこの「師匠」との出会いによってもたらされたものだ。


「こういったことは誰でもできることなんです、お客様の気持ちを考えることができれば。
それができないのは、相手の立場や気持ちを考えられないからではないでしょうか」


人生の師匠とも言うべき超一流のメートル ドテルとの出会いにより、より奥深い「サービス」に触れるようになった宮崎さん。
さらに自分を磨くべく、サービスの技量を競うコンクール「メートル・ド・セルヴィス」杯を目指すのだが…..。


次回は、コンクールを目指す中で培ったこと、サービスの真髄について伺おう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

シャトーレストラン ジョエル・ロブション
東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス2F
TEL:03-5424-1347
URL:http://www.robuchon.jp/

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