日本最古のソウルバーで
「伝説のママ」の面影に出会う。
<前編>

PICK UPピックアップ

日本最古のソウルバーで
「伝説のママ」の面影に出会う。
<前編>

#Pick up

岡田信子ママ by「George's」

1964年に六本木に生まれ多くのソウルメンに愛されたソウルバー、George’s。惜しまれつつ2005年にクローズするも、同年、西麻布に再オープン。約半世紀に渡る歴史を振り返る。

文:

41年間続いた旧店舗を再現したGeorge’sのバースペース。ポスターやレコードのジャケット、古い雑誌のカバーがずらりと飾られて。

日本最古のソウルバー、Geroge’sはご存知だろうか。
チャカ・カーンにジェームズ・ブラウン、ローリング・ストーンズのメンバーに、ビリー・ジョエル、ジャネット・ジャクソン……
世界中のミュージシャンが、来日するたびに足を運んだという伝説のバー。
店内にずらりと飾られたサイン入りのポスターが、この店の歴史を物語る。


六本木・防衛庁の脇に小さな店が誕生したのは今から50年前、東京オリンピックの年。
店の主役はジュークボックスだった。
「オープン当初からR&Bをウリにしていたわけではなく、あくまでもBGMを流すためにジュークボックスをリースしたと聞いています」
と現オーナーの高橋知恵さん。
だから当時は演歌にクラシックまで、BGMはなんでもあり!のスナックだった。


そんなGeroge’sがソウルバーとして名を馳せるようになったのは、時代性もあったようだ。
当時、横須賀や横田の基地にはベトナム戦争に従軍するため、多くのアメリカ兵が駐留していた。
Geroge’sにはジュークボックスがある!と聞き及んだ黒人のアメリカ兵たちが
自分たちの好きなレコードを持って飲みにきたのが始まりだとか。
持ち込んだレコードはそのまま置いていかれ、ジュークボックスの中はブラックミュージックだらけに。


そしてGeorge’sはいつしか、「ソウルの殿堂」と呼ばれるようになった。

こちらが名物のジュークボックス。約80枚のシングルレコードが収められている。ラインナップは週ごと、あるいは気分によって変えているのだそう。ママのお気に入りの曲だった192番「I Wish It Would Rain Down」(Millie Jackson)は、ジュークボックスに必ず入っている。

さて、George’sにはジュークボックス以外にもう一人主役がいる。


それが、今は亡き岡田信子ママ。
広島出身のお嬢様育ち、Geroge’sを始める前はガーナ大使館やラジオ局に勤めていたというモダンガール。
外国の文化に触れる機会が多く、好奇心も旺盛。そして洋楽に精通していた。
35歳のとき、たった一人で六本木に「スナックGeorge’s」をオープンさせ、
以来George’s一筋に生きた。


「とにかく我がままで自己中心的で、どうにもならない性格なのになぜか許せちゃう。
そんな女性でした。
厳しくて、でも優しくて、強烈なカリスマ性があって、だから慕われていましたね」
と高橋さん。


黒人のソウルメンも日本人の常連客も、とにかくみんながママとデートしたがった。
店がはねた後、ママをデートに誘おうと待ち構えるクルマの列は
防衛庁の前から赤坂通りの乃木坂駅の方まで続いていたらしい。
「ウソかホントか知らないけれど、一度もフラれたことがないって言ってました。
60代になって、『夢がある』って言うんです。
『大失恋して、心が壊れるような経験をしてみたい』って」

天井にまでびっしり!よく見るとポスターやジャケ写にはそれぞれのアーティストのサインが。

多くのアーティストに愛されたママだったが、ホール&オーツは特に熱烈なGeorge’s&信子ファンで知られた。
いつだったか、アメリカで行われたライブにママが足を運んだ際、
ステージの二人が客席に座るママを見つけ、
「George’sのママが来ている!」とスポットライトをあてたこともあったとか。
「とにかく、そういうエピソードには事欠かない人だったんです」


何はともあれ、そういう高橋さんもママのチャームに魅せられた一人。
ママが残した数々の逸話を知る、George’sの「子どもたち」である。


高橋さんがママと出会ったのはまだ18歳のころ。
「はじめて店に足を踏み入れた時に、『まるで父の書斎みたい』と思いました。
父が教えたわけでもないのに、子どものときに聞いていた音楽って体に染み付いているんですね。
ジュークボックスから流れてくるモータウンも、レコードのジャケットやポスターをびっしりと飾った店内もなんだか懐かしくて」
まともなサラリーマンは一人もおらず、バブルを引きずっているイケイケの経営者やSM嬢などくせ者だらけの常連客とも不思議と馴染み、その日のうちにママと親しくなった。

六本木にあった旧店舗。オープン当時は2階が雀荘になっていて、こちらもママが経営していた。

ママの話が楽しくてバイト後、店に通ううちに、「非番の日に手伝ってくれない?」と誘われたのがきっかけ。
以来、2005年の閉店までスタッフとして関わることになる。


「もうね、曜日なんて関係なしに毎晩毎晩、頭に来るくらい忙しかったですね。
グラスなんて洗っても洗っても足りなくて。
カウンターに座る人の後ろはスタンディングのお客さんが2列ずらーっと、
お店に入れない人は外のガードレールに腰かけて飲んでいて、
それでも足りなくて、道路の向かいにあるガソリンスタンドの前に座っている人までいました。
だからいつもドアを開けっぱなしにして、ジュークボックスのボリュームも最大にして」
ジュークボックスは100円で2曲かけられる。
音が途切れないように、常連客からのカンパの100円玉や千円札が常に大量に積み上げられていた。



後編に続く。

SHOP INFORMATION

George's
東京都港区西麻布1-10-7 ウェストフローラAZABU 2F
TEL:03-3401-8335
URL:http://www.georgesbar.co.jp

SPECIAL FEATURE特別取材