コンペの参考に!カクテルネーミング最新事情と
世界基準のメニューの作り方。
<前編>

PICK UPピックアップ

コンペの参考に!カクテルネーミング最新事情と
世界基準のメニューの作り方。
<前編>

01.02.2022 #Pick up

Eguchi Akihiro/江口明宏、Suzuki Atsushi/鈴木敦、Tsubokura Kenji/坪倉健児 by「Jigger & Pony / The Bellwood / Bar Rocking chair」

今月のテーマはメニューとネーミング。バーにおけるメニューの意義は?ゲストの心に刺さるメニュー構成とは?そして世界に通用するカクテルネーミングのポイントは?各都市を代表するバーに伺います。

文:Drink Planet編集部、Miyuki Sakamoto(後編)

左はThe Bellwoodのメニュー。店のコンセプトに合わせてフォントやデザインもどこかレトロなムードに。右は、ネーミングを変え、レシピや材料をブラッシュアップしたらオーダー数が激増したという「意識高めのジントニック」。

「メニューはそのバーの名刺のような存在」  鈴木敦さん/The Bellwood

それぞれのバーが構成やデザイン、内容について工夫を凝らすものにバーメニューがあります。メニューを置かないバーもまだまだ少なくありませんが、海外ツーリストの増加に伴い、メニューの存在も一般的になってきました。

カクテルネーミングもしかり。海外のゲストからの共感を加味して考案されているようです。

今回は The Bellwood(東京)、Bar Rocking chair(京都)、「Jigger & Pony」(シンガポール)の事情をレポートします。


「“大正モダンなカフェー”をテーマにしているので、その内容に寄り添いつつもゲストの心に響きそうなコンセプトを考えてメニューに表現しています」と鈴木さん。

現在のメニューはThe Bellwoodのコンセプトが愉しめる豆 (珈琲)と茶 (日本茶)のカクテルを6種ずつ(この内容は3月に刷新予定)。

それまではモーニングから営業を行っていたこともあり、アペリティフカクテルや終日楽しめるオールデイカクテルをメインにメニュー構成をしていたが、コロナ渦により夜のみの営業にシフト。
メニュー内容も”夜に愉しめる珈琲とお茶”にフォーカスしたそう。


「あまりバーに足を運んだことがないというゲストも少なくないので、カクテルに興味を持ってもらうきっかけになれば、という気持ちでメニューの内容を考えています。
レトロな雰囲気もうちを楽しんでもらう要素の一つなので、デザインはモダンになりすぎないように。

メニューの表記でいえば、霧とか炎、空気というようなワードを使ってゲストの想像力や好奇心をそそるよう、書き方にも気を配っています。


これはグローバルでも感じることですが、10年ぐらい前のバーのメニューでは、カクテル名のほかには使われている材料(ベーススピリッツ、リキュール、フルーツなど)、が淡々と表記されているだけでした。
ここ数年、技法や素材を少しひねってメニューの材料表記などを掲載していることが多いような気がしています。

たとえば、リキュールの表記なども『アーティチョーク、樹液、エルダーフラワー』というように原料をピックアップするなど、カクテルがより魅力的にみえるような工夫をしていると思いますね」

一方のカクテルネーミングは、「ある程度そのカクテルのイメージができて、キャッチーなネーミング」が重要。

「ネーミングで気をつけているのはカクテルのコンセプトに合うか、遊び、日本語と英語での表現、の3点。
『玉露野菜』という名前で出していたジントニックのツイストは、材料や作り方を改良し、『意識高めのジントニック』に改名したら、オーダーの頻度が増えました。
似たような材料表記でもネーミングを変えるだけでゲストの目を引きオーダー数が変わるといういい例です。
コンペ用のカクテルのネーミングについては、店舗メニューのカクテルと創作目的が違うので考え方は若干異なりますが、そのカクテルのコンセプトに合った、キャッチーで印象に残るというネーミングのポイントは変わらないと思いますよ」

「Bar Rocking chair」のメニューから。「How to Order」は「Bar Rocking chair」が大切にしているメッセージのようなもの。

「メニューが、価値あるカクテル体験の手助けに」 坪倉健児さん/Bar Rocking chair

2009年のオープン以来、あえてメニューを作成してこなかったというのは「Bar Rocking chair」の坪倉さん。

というのも、「お客さま一人ひとりにベストなドリンクを提供するため、オーダーをきっかけとしたコミュニケーションを大切にしたい」という思いがあったから。

インバウンドが激増した2015年以降はファーストドリンクをスムーズに提供するべく、英語のドリンク&フードメニューを簡易的に作成するようになったというが、決定的に変わったのはコロナ禍がきっかけだった。


2020年春のコロナ休業期間中にフードおよびノンアルコールを含むドリンクメニューを開発したこともあり6月に「Rocking chair SIESTA(シエスタ)」と名付けた昼営業をスタート。
その際、昼だけのメニューを作成した。

「新メニューのフードやスイーツ各種、昼からでも飲みやすい軽めのロング・カクテル、ノンアルコール・カクテル、コーヒーや紅茶などを新たにピックアップし、昼の時間帯向けに明るい感じの色調でメニュー化しました」

このトライアルによってスタッフのモチベーションが上がったといい、現在も土日は14時からの昼営業を続けている。

これと並行して夏からは「今月のおすすめカクテル&ウィスキー」を毎月メニュー化

カクテルは6種、ウィスキーは2銘柄をとりあげ、ウィスキーは銘柄の説明とともにオススメの飲み方を提案している。
カクテルは自分たちのアレンジを加えたクラシックを中心としつつも、6種類のうち1つはできるだけ坪倉さんのオリジナルカクテルを毎月作り、組み入れているそう。

今年の新春のために坪倉さんが考案したオリジナルカクテル「ことほぎ」。 京都の「季の美」ジンと昆布を漬け込んだウォッカ、お正月に無病息災を願って飲む日本酒&屠蘇散(とそ)とバナナリキュールを組み合わせたもの。ガーニッシュとして、繊細な結び昆布をグラスに添えている。「バーで、新年を祝い、お互いの無事と幸福を願うお屠蘇がわりに飲んでいただきたいカクテルとして作製しました」

「オリジナルカクテルの考案とメニューで紹介するカクテルの選定は、旬の素材に加え、季節を感じさせる名前、色、味わいを考慮しています。現在ではこのカクテルを毎月楽しみに来店される方も。
常連のお客さまにも知られざるクラシックをご紹介でき、お客さまの選択肢を増やすことにもなりました」

オススメの提案のためにクラシックカクテルを掘り起こす作業が、自分たちの勉強にもなっているそうだ。


ネーミングのポイントは、カクテルの世界観を豊かに表現すること。

毎月新たに考案するオリジナルカクテルでは、旬の素材や季節感のある色合い・味わいをネーミングに取り入れている。

新年を祝う1月のカクテル名は「ことほぎ」、桜色のドリンクに桜の葉を浮かべた4月のカクテル「ひらりふわり」。ジンと薬草系リキュールを使ったグリーンのカクテル「緑雨」はもちろん、6月のカクテル。京都という土地柄、最近は和名が多いそう。


「カクテルの世界観を表現することは同じですが、コンペ用のネーミングでは日本人にも海外の方にも馴染みやすくわかりやすい普及性や言いやすさを意識していました。
レシピに使う製品の原産国、カクテルに添えるデコレーション、創作意図との連動性も考慮し、長すぎず、さりとて短すぎず。こうしてぴったりの言葉を探すトレーニングのなかでネーミングの重要性に気づけたように思います」

とはいえ言葉だけでカクテルの魅力をきちんと伝えることは難しい。そんなとき、写真や実用的な情報を記したメニューが大いに助けになってくれる。

「“味わう”というとても個人的な経験を、プロフェッショナルとして“印象に残る魅力的な体験”にする努力は怠らないようにしなければと、常々考えています。
カクテルの材料の吟味や試作に加え、写真撮影、メニューのデザインなども自分たちで行っており、こうした技術も少しずつ向上してきているように思います。
思わず手に取りたくなるような、味わいたくなるような魅力あるカクテルやドリンク、そしてその価値ある体験の手助けになる、時節に合せたメニュー作りを、これからもできるだけ継続していきたいと思っています」

マガジン型の分厚いメニューを用意している「「Jigger&Pony」。描き下ろしのイラストをふんだんにつかった凝った内容。ゲストが見やすいようにと、巻頭にクイックメニューを掲載している。

「メニューはゲストに安心感をもたらす」 江口明宏さん/Jigger & Pony

「Asia’s 50 Best Bars」1位に輝いたこともある名店「Jigger&Pony」を含め、バーとレストランを合わせて7店を統括する江口さん。シンガポールのメニュー&カクテル事情はどうだろうか?


「メニューはその店の顔であり、店のコンセプトや自分たちのアイデンティティを端的に表すツール。だからメニューにはこだわりがあり、店舗ごとのコンセプトにぴったり合致するようなものを作りこんでいます」

「Jigger&Pony」はマガジン式の分厚いメニューが特徴的だが、情報量が多く読み込むのに時間がかかることから、始めのページにグリッド状に構成したクイックメニューを取り入れている。

「メニュー構成では、いずれの店舗でもスピリッツが偏らないように気をつけています。バランスは、ジンとウイスキーは多め、ブランデーとウォッカ、メスカル&テキーラは1種ずつ。
アルコール度数もまんべんなく、モクテルは必ず入れています。
最近の傾向として、モクテルにもしっかりノンアルコールスピリッツを使い、カクテルと同じ値段で提供しています」

もう一つ、メニューで気をつけているのが値段のつけかた。
「値段ではなく内容で選んでほしいので、価格は統一しています。計算もしやすいですしね」

江口さんの店で採用しているカクテル評価のシート。人気があってコスパが悪いものは早急にコストの改善を図り、 人気がなくてもコスパが良いものは、名前を変えたりガーニッシュを添えるなどして見た目を変えたり、さまざまな改善を図る。

面白いのは、新しいカクテルの評価の仕方だ。

「メニューに新しいカクテルを入れたら数ヶ月ごとに必ず見直します。
そのときにこのフォーマット(写真のエクセル)を使い、人気のある・なし、コスパのいい・悪いの4つに分けて評価しています。

この評価は次のメニュー選定時に活きるので、ある程度の規模があるバーであれば取り入れてみても面白いかもしれません」


ネーミングは、バーとレストランでは全く異なるそう。

「『Jigger&Pony』はカクテルバーなので、ゲストが想像しやすいよう、クラシックカクテルをひねったネーミングが多く、新たにオープンしたレストラン『Rose Meed』はローカルの生産者とその食材がコンセプトなので、カクテルのネーミングにも生産者の名前を入れています。

ちなみに、最近はクラシックよりのものが人気でアルコール感はほどほどのものが出ますね。
一時期人気だったオールドファッションドやネグローニよりも、サワー系が人気。
これは、クラブやカラオケが閉まっていることから若い世代がカクテルバーに流れているという事情を受けてのことと考えています」


後編では、Worlds’s 50 Best Barsでメニューを受賞したあのバーを取材。さらなるメニュー事情をイギリスはウェールズからレポートします。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

Jigger & Pony / The Bellwood / Bar Rocking chair
Singapore / Tokyo / Kyoto

SPECIAL FEATURE特別取材