栃木発、無着色料の
クラフトリキュール誕生!
<前編>

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栃木発、無着色料の
クラフトリキュール誕生!
<前編>

#Pick up

原百合子さん by「栃木リキュール」

近頃、バーで話題のクラフトリキュールがある。栃木の旬の果物を使った「栃木リキュール」がそれだ。手がけるのは元バーテンダーの酒造家、原百合子さん。そのものづくりの背景をご紹介しよう。

文:Ryoko Kuraishi

「栃木リキュール」を立ち上げた、元バーテンダーの原百合子さん。現在、たった1人で業務全般にあたっている。

栃木を拠点とする「栃木リキュール」は、昨年秋に稼働を始めたばかりの新進クラフトリキュールメーカーだ。
バーテンダーならではの視点と地元・栃木へのふるさと愛を形にした地産リキュールである。


「栃木リキュール」の原点は、原百合子さんがオーナーバーテンダーとして2012年にオープンした「BARフルールドゥリス」。
自分の店を開くにあたり、着色料が入ったリキュールは一切使わないことを決めたという。

自家製リキュールの店、「BARフルールドゥリス」。カウンターにずらりと並んだ自家製果実酒が壮観!

バーカウンターから生まれた、自家製リキュール

もともとアレルギー体質で、体調管理のために人工着色料や保存料などの添加物を控えていた原さん。
「自分が安心して飲めるものだけをお客さんに勧めたかったから、思い切って人工的な発色のカクテルを提供しないと決めました。


代わりに、地元の果物を使って果実酒を仕込むことにしました。
栃木はイチゴを代表とするフルーツの一大産地。
身近にフレッシュな果物があるなら旬を感じるカクテルを楽しんでもらいたいと思って」


カウンターにずらりと並んだ、40種もの自家製リキュール。
原さん曰く、もともと栃木では新しいものを積極的に取り入れるよりも、古くから親しまれているものへの理解を深めたい傾向が強いという。
それは地域の文化を守り抜こうというアイデンティティと密接に関わっているのかもしれない。


そうした土地柄と、地元で作られている昔ながらのフルーツを使ったリキュールがうまくマッチングしたようだ。
四季折々のフルーツを使ったリキュールは話題になり、「BARフルールドゥリス」は“果実酒のバー”として認知されるようになった。

カウンターから栃木のフルーツの魅力を発信していたバーテンダー時代。「栃木リキュール」はここから始まった。

「自分の店を始める前は、スタンダードカクテルを提供するオーセンティックバーで修業をしていました。
お客さんと直接ふれあえる環境も、兄弟子からバーテンディングを学べることも、すべてが素晴らしい経験でした。
お客さんには天職と言っていただけたし、師匠には『カクテルは覚えないのに人のことは本当によく覚えている』とお褒め(笑)の言葉をいただいたこともあります」


だが、大好きなバーの仕事と原さんのフィジカルはマッチしなかった。
持病のアレルギーがだんだん悪化、洗い物で手指が荒れて出血が止まらない。
営業もままならなくなり、退店を余儀無くされる。


そんな過去の反省から、一からスタートする自分の店では働く環境を整え、ベストなコンディションでカウンターに立つことを自らに課した。


「そうした事情もあって、着色料や保存料の入ったものは使わないと決めたほか、24時閉店、フルーツの香りを楽しんでもらうため店内は全面禁煙に。
栃木のバーでは異色です。


24時閉店は子どものすること、全席禁煙なんて顧客に失礼、自家製果実酒は王道からの逃げ……さまざまな批判も受けました。
ただ、お客さんがついてきてくれたから、自分のスタイルを貫けたのだと思います」

栃木県那須烏山市国見のミカン畑では、高齢化の進んだ生産者が後継者問題に直面していた。

常連客が後押ししてくれた、酒造家への転身

そのうち、「邪道」といわれた自家製果実酒が地元メディアに取り上げられるようになり、地産というキーワードで新たな客層が足を運んでくれるようになった。
自家製リキュールの原料となる果物を探す中で、農家との交流も増えた。
自治体やJA職員らとの会話から、地域の過疎化や農家の後継者問題といった、農業が直面するリアルを知ったことが次なるステップのきっかけとなった。


「流通時期は短くとも、年間を通じて農産物をPRする方法を探している農家さん、地域農産物の魅力を広めたいというJA職員、自治体のみなさん。
そんな声が、地域発のリキュールをもっと広くアピールしたいと願う私の背中を押してくれたように思います。


いつも私を応援してくれるお客さんのサポートもあって、2014年の秋頃からリキュール製造業に挑戦しよう、そんな風に思うようになったんです」


バーテンダーから酒造家へ。
実は「BARフルールドゥリス」を始めた頃からキャリアチェンジを視野に入れていた。
30代を迎えて出産や育児といった女性のライフステージの変化を考えると、カウンターに立ち続けることは難しい。


とはいえ、これまでに築いてきた常連客との絆は大切にしていきたいし、恩師や兄弟子の助けを得て切り拓いたバーの道をなんとか続けたいという想いもあった。
酒造業という選択肢は、バーテンダーとしての働き方に葛藤を感じていた原さんの胸に落ちたのである。

イチゴの生産量50年連続日本一を誇る栃木県。イチゴの一粒一粒に食の喜び、大地の恵みが凝縮されている、と原さん。Cocktail by Kyoka Ogawa, BAR amber

「地元の産地へ足を運ぶことから始め、県内の酒造メーカーや酒蔵26軒を訪問して酒造りの精神を学びました。
また、自治体が主催する起業家向けのセミナーに参加して製造業の勉強をしました。


2016年には地方銀行が主催する女性起業家向けのビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞、融資とバックアップの確約をいただくことができました。
昨年春に会社を立ち上げた際には酒税官に驚かれましたが、酒造免許取得への真剣度を示して秋にようやく認可が下り、『栃木リキュール』をスタートさせることができました。


昨年末に行った『栃木リキュール』のクラウドファンディングにはこれまでお世話になった方々に加え、新たなサポーターもご支援をくださり、いよいよ夢の実現に向けて歩み始めたところです」


自身のバーという枠組みを飛び越えて日本全国に高品質なリキュールの魅力を広めることができたら、地元農家とともに新しい文化を築いていけるかもしれない。
「小規模」「地域文化」「インディペンデント」、クラフトリキュールを体現する「栃木リキュール」がついにスタートした。


後編では、栃木で生まれたクラフトリキュールの、新たな魅力やバーでの可能性をご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

栃木リキュール
栃木県宇都宮市二荒町9-11KRB
TEL:028-612-4300
URL:https://www.tochigi-liqueur.com

SPECIAL FEATURE特別取材