業界仲間で手を取り合おう!
田中城太、”Fellow Distillers”を語る。
<前編>

PICK UPピックアップ

業界仲間で手を取り合おう!
田中城太、”Fellow Distillers”を語る。
<前編>

#Pick up

田中城太さん by「キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所」

世界中の注目を集め続けるジャパニーズウイスキー。シーンをさらに発展させるためにウイスキー業界関係者はどのような未来を描くのか。キリンのマスターブレンダー、田中城太さんに特別インタビュー!

文:Ryoko Kuraishi

ワイルドターキー蒸溜所で、”伝説的マスターディスティラー”と謳われるジミー・ラッセル氏と。

キリンディスティラリーのマスターブレンダー、田中城太さんといえば、ウイスキー業界のアワード、「アイコンズ・オブ・ウイスキー」において世界最優秀マスターブレンダーに選出されたこともある、日本を代表するブレンダーの1人。


田中さんが開発に携わった「富士御殿場蒸溜所 シングルグレーンウイスキー AGED 25 YEARS SMALL BATCH」は、2016年以来、「ワールド・ウイスキー・アワード」の「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」を3度も受賞している。


そんな田中さんが提唱するのが「フェロー・ディスティラーズ(=ウイスキー仲間)」という思想だ。
つくり手同士はライバルではなく同じ目的意識を持って高品質のウイスキーづくりに携わる仲間であり、ともに手を取り合って業界を発展させていこうというものだ。

昨年の「Tokyo International Bar Show」の様子。ブースには多くのウイスキーファンが足を運び、テイスティングを楽しんだ。

"生きる伝説"、ジミー・ラッセルが教えてくれたこと。

これはウイスキー業界に長年、息づく思想だという。
「この考え方を体現するのが、ワイルドターキーの伝説的マスターディスティラー、ジミー・ラッセルです。


今から17年ほど前、私がフォアローゼズ蒸溜所で働いていた時のことです。
あるイベント試飲会でブースを出していたのですが、当時、米国内でそれほど有名でなかったフォアローゼズには人があまり集まりませんでした。


それが突然、閑散としたブースに何人もの人が足を運んでくれるようになった。
聞けば、ジミーに紹介されたのだと言います。


彼に礼を述べると、『僕たちは仲間なのだから、みんなで一緒に成長しよう。ピザの一切れを奪い合うのではなく、ピザそのものを大きくしてみんなで分かち合えば、みんながハッピーになれる』、そんな言葉が返ってきたのです。
フェロー・ディスティラーズという思想の真髄に触れ、大いに感銘を受けたことをいまでも鮮烈に覚えています」

より雑味のない原酒を得るために、富士御殿場蒸溜所では「ハートオブハーツ蒸留法」を採用している。

実際、田中さんがこれまでに携わってきた洋酒、特にウイスキーやワインの世界では、つくり手同士のオープンな交流があるという。


「技術や人的交流はもちろん、原料配合や新しい技術の情報交換も活発に行われています。
その根底には、歴史と伝統に裏打ちされたものづくりの担い手としての自信と誇り、そしてフェロー・ディスティラーズ思想が流れているのです」


あまり知られていないが、日本でも蒸溜所の規模の大小や地域にかかわらず、ウイスキー業界関係者の交流は行われている。
さまざまなつくり手と出会い、新たな刺激を得る中で、ここでもフェロー・ディスティラーズが醸成されていることを感じる、と田中さん。

富士御殿場蒸溜所の仕込み水は、富士山の伏流水。ウイスキーづくりに適した天然水だ。

ジャパニーズウイスキーを守るために、つくり手に必要なもの。

一方で、折からの世界的なクラフトブームも相まって、日本のウイスキー業界は新たな課題に直面している。
これまでにない発想や製法のウイスキーが登場する中で、ボトリングだけを日本で行なっているようなものを“ジャパニーズウイスキー”と謳った商品さえ出てきているのだ。


「ウイスキーの定義については改めて各地で議論が巻き起こっていますが、ジャパニーズウイスキーについては厳密な定義がないこともあり、海外ではジャパニーズウイスキーが築いてきた信頼を傷つけかねない商品が一部、出回っています。


新たなつくり手も続々と参入し業界の活性化に一役買っていますが、蒸留について最低限の知識・経験さえ持たない、あるいは『ウイスキーは儲かりそうだ』という営利目的だけの新規参入者も中にはいて、そこに危惧を抱いています。


ガチガチに縛りたくはないけれど、こういう状況を見ていると健全な発展のためにはある程度の線引きが必要なのではないかと感じています」

イベント出展の際は、蒸溜所から樽を持ち出して蔵出し原酒を振舞うことも。

「例えば『水がキレイだからウイスキーをつくりたい』という話をよく耳にしますが、日本ではどこでもいい水を得られるわけです。
水だけを理由にウイスキーづくりを行うのはいささか短絡的すぎるように思います。
ウイスキーづくりはそんなに簡単なものではありません。
そもそものウイスキーへの想いや志し、ビジョンはどうなのか。


ウイスキーづくりには時間も手間もかかりますから、それだけつくり手の想いが反映されやすい。
人々はウイスキーに込められた夢やストーリー、つくり手の“想い”にも共感しながら愉しんで下さっていると思うのです」


こうした課題に直面し、ジャパニーズウイスキーへの信頼を守るためにはどうすればいいのか。
後編では田中さんのビジョンと、思い描くウイスキーの未来についてご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所
静岡県御殿場市柴怒田970
TEL:0550-89-4909
URL: http://www.kirin.co.jp/entertainment/factory/gotemba/

SPECIAL FEATURE特別取材