バーで最強の割り材を探せ!
<前編>

PICK UPピックアップ

バーで最強の割り材を探せ!
<前編>

#Pick up

磯部太郎(BAR SALT)/木村孔美(GH Ethnica)/小林卓也(武蔵屋)

12月最後にお送りするのは、3名のジャッジによる割り材頂上決定戦。定番の一品からトリッキーなあの銘柄まで、それぞれの立場から至高の割り材を考えてもらった。まずはソーダ編、スタート!

文:Ryoko Kuraishi

左から磯部さん、木村さん、小林さん。バーテンダー、お酒に詳しい料理家、バー専門酒屋という立場でそれぞれの好みのソーダを語ってもらった。

——本日は「最強の割り材対決」鼎談ということで、神楽坂「Bar SALT」のバーテンダー、磯部太郎さん、渋谷「GH Ethnica」シェフの木村孔美さん、バー専門酒屋「武蔵屋」スピリッツ担当の小林卓也さんの3名にお集まりいただきました。用意したソーダは4種、「ウィルキンソン タンサン」、「ザ・プレミアムソーダ“YAMAZAKI”」、「n.e.o.プレミアムソーダ」、「男のちょい割る強ソーダ」です。

磯部太郎さん(以下、磯部):実は僕もソーダ8種を並べてテイスティングしたことがあるんです。ガスボリュームの数値でも泡の大きさやきめ細かさ、ガスの感じ方が違うんですよね。

小林卓也さん(以下、小林):例えば「フィーバーツリー」は、ガス圧そのものは割と高いらしいんですが、泡がキメ細かいからバチバチとしたガスを感じにくい印象があります。何を求めるかにもよりますが、単純に数値だけで選ぶと体感が違うということはありますよね。

左から「男のちょい割る強ソーダ」(¥95)、「ウィルキンソン タンサン」(¥72)、「n.e.o.プレミアムソーダ」(¥80)、「ザ・プレミアムソーダ“YAMAZAKI”」(¥100、価格はいずれも武蔵屋販売価格)。 取材協力/武蔵屋

——では、まずは定番のソーダから行きましょう。「ウィルキンソン タンサン」、こちらはどうでしょう。

磯部:王道ですよね。ごくごく飲める。純水ベースだから飲みやすい。

木村:何にでも合いそうですね。ボトルもクラシックでいいで、「ザ・炭酸」って感じで。バックバーに並んでいても違和感がないのではないでしょうか。

磯部:タンサンって一般名詞のように使われていますけれど、ウィルキンソンの商標ですからね。

小林:一般的に普及しているから、飲み手にとっても安心感があるのかも。

——それでは「ウィルキンソン」を軸にして他の銘柄を飲んでみましょうか。次は、ウイスキーと相性がいいと言われる「ザ・プレミアムソーダ“YAMAZAKI”」です。

磯部:これが出たのは10年くらい前だったと思いますが、当時は「炭酸が強いな」って思ったのを覚えています。

木村:明らかに水の味が違いますよね。そのまま飲んでおいしい。

小林:「山崎」の仕込み水と同じ天然水を使ったソーダなんです。炭酸の強さと水の味のバランスは秀逸だと思います。

海外居住経験のある木村さん。カクテルに慣れ親しんだのは海外のバーが先だったとか。現在は渋谷STREAM 1階にある「GH Ethnica」(https://ghghgh.jp/gh-ethnica/)で腕を振るう。

木村:私見ですが、「ウィルキンソン」はプレーンな味わいだからジン、ウォッカを割ってシトラスやミントを添えるとおいしくなりそう。「“YAMAZAKI”」はもっと和の方向性を感じます。

小林:ちょっと重厚というか、「ウィルキンソン」よりボディが肉厚な感じがしますね。

磯部:ソーダってただ強ければいいってもんじゃない。強すぎると炭酸による味の抑制力やビリビリという刺激がベーススピリッツの味わいに影響しますよね。ところで前から不思議に思っていたんですが、メーカーさんが硬度やガスボリュームを明かさないのはどうしてなんでしょう。そういう情報があって飲み比べると面白いと思うんですけれどね。

——次は「n.e.o.プレミアムソーダ」。バーテンダーが監修したシリーズで、佐賀県の天山山系の天然水を使用している、ということです。

小林:「n.e.o.」はソーダよりジンジャーエールが先発したんですが、1回で使いきれる量で販売しているところがバーテンダー目線だなと感じました。ソーダは強炭酸を売りにしています。ボディの味わいは「ウィルキンソン」寄りかなあ。

木村:うーーん。飲んだ時に炭酸ガスを口唇に感じます。その割に際立ったキャラクターがないのかな。これなら「ウィルキンソン」でいいや、って思ってしまう。

磯部:そう考えると「ウィルキンソン」のブランド力ってすごい。よく分からなくても手に取らせる、スタンダードみたいなパワーがある。

神楽坂の路地裏にある小さなバー、BAR SALT(新宿区神楽坂4-2-30)のバーテンダー、磯部さん。SALTはオーセンティックのツボを押さえつつも隠れ家的ムードが心地いいバー。ご本人の飾らない人柄も魅力。

——最後は異色の「男のちょい割る強ソーダ」。銀座の一部オーセンティックバーでも支持されている銘柄ですね。

磯部:実は、うちでソーダの飲み比べを行った時に最後まで悩んだ一本がこれなんです。僕の中ではダークホース的な存在。いわゆる「居酒屋のチューハイ」的なイメージなのかなと思ったんですが、暴力的とも言える強炭酸です。泡が暴れる(笑)。

小林:炭酸のバチバチ感、ありますね。

磯部:炭酸は強いんですが、純水ベースなのでボディ自体はそこまで個性的じゃないと思いました。悪くないんだけれど、やっぱりパッケージが……。

木村:量が出る居酒屋とか飲み屋では、バーっと作っても炭酸が残ってくれるから強炭酸がいいんですかね。

小林:確かに「フィーバーツリー」を使って家でカクテルを作ろうと思っても、素人ではキメの細かいガスを活かしきれない。自宅で気軽に何かを作ろうと思った時は強炭酸がわかりやすくていいのかもしれません。

——それではスピリッツと合わせてみましょうか。まずはウイスキーから。「ウッドフォードリザーブ」のハイボールを、「“YAMAZAKI”」と「男」で作ってみます。

木村:「“YAMAZAKI”」、よくできていますね。さすがによく合う。日本のクラフトジンとも上手くマッチしそうな懐の深さを感じます。

磯部:残念ながら「男」はバーボンの甘みを引き立てきれていない感じ。これじゃないかなあ。

それぞれのソーダの個性を際立たせてくれたリキュールはカンパリだった!

——じゃあ薬草系ということで、次は「カンパリ」を「“YAMAZAKI”」と「男」、それぞれで割ってみましょう。

木村:こんなに違う味わいになるんだ!「“YAMAZAKI”」だとカンパリの甘みがかなり抑えられる印象。

小林:苦味の出方も変わりますね。ガスの強さというより水の違いなのかな。

磯部:「男」はカンパリの甘み、苦味を上手く引き出してくれる。この組み合わせはありですね。ちょっと「n.e.o.」でも試してみていいですか?

小林:(カンパリと「n.e.o.」を合わせてみて)「n.e.o.」って、良くも悪くもソーダとしての存在感を消している印象を持つんですが、この組み合わせはカンパリ感が立つからカンパリ好きにはお勧めできるかも。

木村:でも、これなら「ウィルキンソン」でよくないですか?

磯部:クリーンなもの同士ということで、「ケテルワン」と「n.e.o.」を合わせてみましょうか。(テイスティングしてみて)「n.e.o.」はウォッカ本来の甘みを引き出してくれる。これ、焼酎の割り材にしてもいいかもしれない。米とか麦のキレイな焼酎。「n.e.o.」はパンチのある洋酒向きじゃないのかもしれません。

小林:カクテルのベースに焼酎を使うバーテンダーさん、増えていますしね。

——ソーダ編の結論をお願いします!

小林:「ウィルキンソン」を基準に考えた時、「“YAMAZAKI”」と「男」にはキャラがありますね。ここに「フィーバーツリー 」があったら、もう一つ別の軸が見えたかも。泡のきめ細かさという点で。

——後編ではトニックウォーターを飲み比べていただきます。

後編に続く。

SPECIAL FEATURE特別取材