日本のバーテンディングにも通じる?
日本茶に、世界中が熱視線!
<前編>

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日本のバーテンディングにも通じる?
日本茶に、世界中が熱視線!
<前編>

#Pick up

嬉野茶時(前編) by「嬉野茶時」

世界的に日本茶がブームになっている。
今月は、モダンにアップデートされた日本茶が話題をご紹介しよう。

文:

「マンダリン オリエンタル 東京」とコラボレーションした時の様子。桜の開花時期に合わせ、桜の木や番傘をあしらい、お座敷茶寮をイメージした空間がホテル内に登場した。

空前の日本茶ブームを迎えている昨今。
ニューヨークには抹茶専門のドリンクバーができたり、バリスタではなく茶師常駐のティースタンドが登場したり。


人気の理由はさまざまで、健康志向の高まりだとか、和食人気に牽引されたとか、美意識の高いセレブが抹茶好きを公言しているとか、人気の理由は諸説あり。
そんな中、産地ではとびきりユニークな試みがスタートしていた。


こちらは日本を代表する産地の一つ、佐賀県嬉野市。


嬉野のお茶の歴史は室町時代に遡る。
お茶はもともと中国発祥の飲み物だが、今から500年ほど前、明の陶工が焼き物文化とお茶を嬉野に持ち込んだ。


嬉野茶といえば、大きな釜を使って高温で炒ることで発酵を止める「釜炒り茶」が知られているが、南京釜が持ち込まれたのもこの頃のこと。
これが嬉野式の釜炒り茶の始まりである。
(ちなみに最近は釜入りを改良した製法である蒸し製玉緑茶の生産量が圧倒的で、釜入り玉緑茶はごく希少なものになってしまっている。)

「嬉野茶時」メンバーの1人であるお茶農家、「副島園」の副島仁さん。自らの畑にしつらえた「天茶台」でお茶を淹れてくれるイベントも開催している。

そんな歴史ある嬉野茶の魅力を広く知らしめようと、立ち上がったのが「嬉野茶時」。
お茶農家、温泉旅館、肥前吉田焼の窯元という、地元の伝統文化の担い手たちが協力し合い、立ち上げたプロジェクトである。


嬉野茶時のきっかけは、2016年夏に行った「うれしの晩夏」という、嬉野茶を主役にしたイベントだった。

嬉野温泉の旅館の一室に、その日のためだけに誂えた特別な肥前吉田焼の器とお茶を引き立てる料理を揃える「嬉野晩餐会」。
真っ白のユニフォームに身を包んだお茶農家が茶師として登場、とっておきのお茶を振る舞う「嬉野茶寮」。
「うれしの晩夏」ではその二つのコンテンツでゲストをもてなした。


脇役になりがちなお茶を主役に据えたコンセプトと、お茶農家自ら、自分たちが栽培したお茶を淹れてくれるという斬新さが相まって、SNSの話題をさらった。

「嬉野茶時」の公式茶器となっているのは、同じ地元の肥前吉田焼。「嬉野茶時」に名を連ねる作家、辻諭さん率いる「224 Porcelain」のもの。

「嬉野茶時」発起人の1人であり、老舗旅館「和多屋別荘」代表の小原嘉元さん曰く、「嬉野茶時とは、この土地とともに生きてきた伝統文化を、新しい切り口で表現しようという取り組み」だという。


「嬉野温泉は1300年、嬉野茶は500年、肥前吉田焼は400年の歴史があります。
これだけの伝統文化が一箇所に集約されているところは、日本のどこにもないんだ。
イベントをきっかけに、『うれしの晩夏』に携わった僕たちも、そんな思いを新たにできたのです」


伝統文化の若き担い手たちが抱いた思いで始まった「嬉野茶時」。
洗練された空間でお茶を飲む空間なら、東京でもニューヨークでも作ることができる。
けれど、「どんな畑で、どんな思いで育てた茶葉なのか」を、生産者から直接語りかけてもらえる経験は嬉野でしか味わえない。

「嬉野茶時」×「マンダリン オリエンタル 東京」で登場した、嬉野の特産物をいっぱいに詰め込んだ、フルーティなインフューズドカクテル。

嬉野茶時では、こうした四季折々のイベントに加え、特別感を味わえる、お茶のための空間を随所に設営中。
それは茶畑の中にしつらえた、屋外茶室である。


例えば標高200mの段々畑に設けた「天茶台」は、嬉野の街とどこまでも続く茶畑というランドスケープを独り占めする、まさに天空の茶室である。
まるで神域のような木立の中の茶畑に構えた茶室もある。
「杜の茶室」と名付けられた神秘的なこちらも、唯一無二のロケーションだ。


茶畑の中の茶室でいただくお茶が非日常の一杯だとすれば、日常の一杯も大切にしたい。
そんなコンセプトから、嬉野茶専門のティースタンドをプロデュース。
今年5月、佐賀駅の一角にポップアップショップ「歩茶」がオープンした。


コーヒーと同じ感覚で、きちんと淹れた嬉野茶を片手に街を歩けたら。
お茶へのハードルの高さを感じてしまう層へ、改めてお茶のおいしさ・手軽さを訴求しているのだとか。

佐賀駅に登場した「歩茶」では、カジュアルに本格的な嬉野茶を楽しめる。

また、3月には「マンダリン オリエンタル 東京」にてお茶を主役にしたカクテルを味わうバーを期間限定でオープン。
「嬉野茶時」の試みは嬉野から日本各地へ、そしてワールドワイドに広がろうとしている。

「この街ではどこに行ってもおいしいお茶が飲めるということを、たくさんの人に広めたい。
そしてお茶を味わう際は、吉田焼の茶器にも注目してもらいたい。
嬉野の魅力を深掘りできる取り組みを、産地から発信していきます」(小原さん)


「嬉野茶時」の中心メンバーの1人であるお茶農家、「副島園」の副島仁さんは、世界を魅了する日本茶の魅力をこんな風に教えてくれた。
「お茶には日本の文化が集約されている」、と。


「お茶というのは中国発祥のものですが、茶葉を粉末にした抹茶を生み出したように日本独自の文化として発展してきました。
お湯の温度を下げて淹れるのは日本だけの習慣ですが、これも相手のことを思いやるおもてなしの気持ちの表れ。
お茶を淹れる行為に込めた思いも、日本らしいスピリッツとしてプレゼンテーションできると思うのです」


味わいだけではない、日本茶が体験する文化、マナー、ホスピタリティ。
つまり、日本茶にはどこか、ジャパニーズ・バーテンディングに通じるところがあるようなのだ。
後編では東京・三軒茶屋から、日本茶の魅力をご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

嬉野茶時
非公開
TEL:非公開
URL:https://www.ureshinochadoki.com

SPECIAL FEATURE特別取材