【特別レポート】
前回大会世界第3位、宮﨑剛志氏と
ワールドクラス2014を振り返る。

SPECIAL FEATURE特別取材

【特別レポート】
前回大会世界第3位、宮﨑剛志氏と
ワールドクラス2014を振り返る。

[vol.01] -  

#Special Feature

文:Drink Planet編集部

(冒頭写真)総合優勝したチャールズ・ジョリー氏と歴代チャンピオンたち。(上)今回お話を伺ったワールドクラス2013総合第3位の宮﨑剛志氏(奈良ホテル)。

(冒頭写真)総合優勝したチャールズ・ジョリー氏と歴代チャンピオンたち。(上)今回お話を伺ったワールドクラス2013総合第3位の宮﨑剛志氏(奈良ホテル)。

2014年7月28日~8月1日の5日間、世界最高峰のバーテンダー・コンペティション「ワールドクラス2014」のグローバル ファイナルが開催された。

6回目となる今回は、史上最多約1万5,000名のエリートバーテンダーが予選に参加し、グローバル ファイナルには各予選を勝ち抜いた48ヵ国48名(史上最多)の代表バーテンダーが集結した。

舞台は、英国のエディンバラとロンドン。

世界No.1スコッチウイスキー、ジョニーウォーカー発祥の地であるスコットランドからスタートし、世界一のカクテルシティーであるロンドンでフィナーレを迎えるという、いわば“原点回帰”が強く打ち出された大会となった。

World Class Global Final 2014 Agenda
★Day1 ブランドテイスティング 「Blend of Worlds」「Sensory」
★Day2 筆記試験(移動中の電車内) 「A Tale of Two Martinis」
★Day3 「Five Star Classic」「Written Word」
★Day4 「Ketel One Market」「Zacapa Gastronomy」「Against the Clock」
★Day5 「Punch and Glass」

ご存じの通り、総合優勝に輝いたのは、過去にどりぷらにも登場してくれたアメリカ代表のチャールズ・ジョリー氏(Charles Joly)!

ビバレッジディレクターを務めるシカゴの「Aviary」で提供する奇抜なカクテルとは打って変わって、バーテンダーに求められる多面的な能力(バーテンディングスキル、即興性、創造性、おもてなし)を遺憾なく発揮し、どのチャレンジでも安定した成績を収めての優勝となった。

さて今回、ワールドクラス2014(イギリス大会)を振り返るにあたり、どりぷら編集部ではワールドクラス2013(地中海大会)総合第3位の宮﨑剛志氏(奈良ホテル)に話を伺うことにした。

選手でも、ジャッジでもなく、オブザーバーとしてワールドクラス2014に同行した宮﨑氏は「そんなに偉そうに語れる立場ではないのですが……」と前置きしたうえで、客観的な視点からワールドクラス2014について語ってくれた。

会場を大いに盛り上げたイタリア代表のクラウディオ・ペリネッリ氏。

会場を大いに盛り上げたイタリア代表のクラウディオ・ペリネッリ氏。

Q 2013年と比べて、2014年のワールドクラスの印象はいかがでしたか?

「私が参戦した2013年もタフに感じましたが、2014年はそれ以上でした。優勝するまでのチャレンジは9つ。これは史上最多です。さらにブランドテイスティングや筆記試験もあり、選手たちは移動する間もずっと課題を課せられているような状態でした。海外の選手から学ぶことも多い一方で、肉体的にも精神的にも相当きつかったと思います」

「また、わずか1年のあいだに、全体のレベルがワンランク上がっているように感じました。例えば昨年のファイナリストだったニュージーランド代表のジェイソン(・クラーク)ですら、2014年は早々に敗退してしまいました。ワールドクラスという大会が世界のバーシーンの底上げに大きく貢献をしている証だと思います」


Q そんななかで印象に残ったバーテンダーはどなたでしたか?

「すべてのカクテルを試せたわけではないのですが、イタリア代表のクラウディオ(・ペリネッリ)は印象に残りました。ワールドクラスの大会の中でもひと際目立つ華やかさがあり、イタリアらしい陽気さがあり、バーテンディング(所作)も美しかったですね。そうした彼のパーソナリティーがきちんとカクテルに反映されている点も見事でした」

「“らしさ”というのは、バーテンダーにとって大事なことなんだなと改めて痛感させられました。自分らしさ、日本人らしさ……、つまり本来持っている〝強み”を突き詰めていくことも、ワールドクラスを勝ち抜くうえでの大きなポイントではないかと思います」

(左)1日目に行われた2つのチャレンジでは、唯一両チャレンジの“ミニ・ファイナリスト”に選出された日本代表の倉上香里氏。 ※編集部注 最初の2チャレンジに限り、競技直後に成績上位者が発表され、倉上氏のみ両チャレンジにノミネート (右)「Tale of Two Martinis」で披露したBlooming Martini。 

(左)1日目に行われた2つのチャレンジでは、唯一両チャレンジの“ミニ・ファイナリスト”に選出された日本代表の倉上香里氏。 ※編集部注 最初の2チャレンジに限り、競技直後に成績上位者が発表され、倉上氏のみ両チャレンジにノミネート (右)「Tale of Two Martinis」で披露したBlooming Martini。 

Q 日本代表の倉上香里氏のパフォーマンスはいかがでしたか?

「非常に潔くてよかったですね。ワールドクラスのコンセプトである“Raising The Bar”を実践するかのように、倉上さんは普段お店でやっている仕事ぶりを、ワールドクラスの舞台でもきちんと表現していました」

「残念ながらファイナルの6名には残れませんでしたが、日本代表として倉上さん“らしい”戦いぶりを見せてくれたと思います。何度も言いますが(笑)、潔くて、カッコよかったです」

「今回は選手ではなく、客観的な立場からワールドクラスを見させていただいて、日本のバーテンディングはやはり他とはまったくの別物であるように感じました。最近は世界中のバーテンダーがジャパニーズ・バーテンディングを直接、あるいは動画などで学んでいるようですが、日本のバーテンディングには日本人にしか表現できない“型”があると思います。これは私も含めて日本のバーテンダーのストロングポイント。個人的にも世界に出てみて、より強く日本というものを意識するようになりました」

※編集部注 倉上香里氏は大会4日目、12名から8名に絞られるエリミネーションで惜しくも敗退

※編集部注 倉上氏カクテル「Blooming Martini」
Tanqueray NO. 10/60ml
Dry Vermouth/少量
Japanese Brown Sugar/2g
ミキシンググラスに氷とDry Vermouthを入れリンス。余分な水分は捨てる。
その後SugarとTanqueray NO.10を加えステア。
Salted Cherry Blossom Flowerを沈めたカクテルグラスに注ぐ。

シンガポール代表のピーター・チュア氏(左)と台湾代表のジェフリー・チャン氏(右)。

シンガポール代表のピーター・チュア氏(左)と台湾代表のジェフリー・チャン氏(右)。

Q 今大会はアジア勢の躍進も目立ちましたが、アジア勢で印象に残ったバーテンダーはどなたでしたか?

「アジア勢で唯一ファイナリスト6名に残った、シンガポール代表のピーター(・チュア)は仕事ぶりがきれいでしたね。以前、彼が働く『28 Hong Kong Street』を訪れたことがあるのですが、いわゆる欧米スタイルのバーで次から次に大量のオーダーが入るような店でした。彼は大量のオーダーを丁寧にこなしながらも、常にバー回りをきれいにしていたので、その時から密かに注目していました」

「今回も、例えばCocktail Against the Clock Challengeのようなスピード重視の競技でも、ツールを大切に扱い、バー回り、それもお客さまに見えない場所も含めて常に清潔に保っていました。おそらく普段の営業からそのあたりを意識しながら働いているんだろうと思います」

「それから、台湾代表のジェフリー(・チャン)もよかったですね。ファイナリスト6名からは惜しくも漏れてしまいましたが、見事ベスト8には入りました。彼は一杯一杯のカクテルを誠実につくります。もちろん誰もがそういう姿勢で臨んでいるとは思うのですが、彼の場合はその誠実さが傍から見ていても感じられるのです。彼もワールドクラスという大会の時だけでなく、普段から意識して誠実さが伝わる仕事をしているはずです」

「ピーターにしても、ジェフリーにしても、まだ20代で勢いがある。若さというのもアジア勢のメリットかもしれません。彼ら若い世代がいきいきと活躍することで、日本を含むアジア、あるいは世界のバーテンダーも確実に刺激を受けますし、シーンのレベルアップにも繋がることでしょう。アジアのバーシーンは伸びしろも多く、今後ますます面白くなりそうです」

スコットランドよりロンドンに到着した48ヵ国48名のグランド・ファイナリスト。

スコットランドよりロンドンに到着した48ヵ国48名のグランド・ファイナリスト。

Q 今後、日本のバーテンダーが日本予選、さらには世界大会でワールドクラスを勝ち抜くために必要なものはなんでしょうか?

「う~ん、これは難しい質問ですね。私個人でいうと、昨年ワールドクラスに参戦するのと前後して、英語の個人レッスンと茶道をはじめました。英語に関しては必要に迫られてという部分もあるのですが、茶道に関しては日本伝統のリチュアルに惹かれるものを感じました。日本にしかない様式美、作法、あるいは型、といったらいいでしょうか。決して派手ではないんですが、日本人にしか表現できない、無駄のないしなやかな所作がバーテンディングに活かせればと考えています」

※編集部注 ワールドクラス世界大会において、英語でのプレゼンは必須ではありません

「同じ日本人でも100人のバーテンダーがいれば100通りの個性があって当然です。情報が氾濫し、世界が繋がっていくなかで、それぞれの“らしさ”を追求していくのが大切なんじゃないでしょうか。まだ私自身も、日々試行錯誤しているような状況です(笑)」


2015年2月3日より次の大会に向けて、日本各地でバーテンダー対象の「ワールドクラス2015 & タンカレー ナンバーテン ブランドセミナー」がはじまる。

※2015.2/3福岡、2/4広島、2/5大阪、2/6名古屋、2/9~10東京、2/12札幌
※公式ホームページ http://www.kirin.co.jp/products/spirits_liqueur/wcjapan/index.html

時を同じくして、アジア各国や世界の国々でもワールドクラス2015に向けた動きが加速することだろう。

次回のグローバル・ファイナル開催地はケープタウン(南アフリカ)ということも発表された。

はたしてケープタウンの舞台に立つ日本人バーテンダーは誰なのか。そしてケープタウンの地で総合優勝の座に輝くのは誰なのだろうか。


World Class 2014 The Six Final Bartenders are:
★チャールズ・ジョリー(Charles Joly)USA, The Aviary ※総合優勝
★グラント・シーニー(Grant Sceney)Canada, Fairmont Pacific Rim
★チャーリー・エンスバリー(Charlie Ainsbury)Australia, The Anchor & Bulletin Place
★アメド・ヤヒ“ミド”(Ahmed Yahi “Mido”)France, Café Moderne
★クラウディオ・ペリネッリ(Claudio Perinelli)Italy, Bartenders Academy Verona
★ピーター・チュア(Peter Chua)Singapore, 28 Hong Kong Street

※ワールドクラス2014は2位以下の順位づけなし

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