ミュンヘンの老舗カクテルバー発、
敏腕マネージャーの仕事術。
<後編>

PICK UPピックアップ

ミュンヘンの老舗カクテルバー発、
敏腕マネージャーの仕事術。
<後編>

#Pick up

那須孝光さん by「Pusser’s New York Bar」

ミュンヘンから帰国した那須孝光さんが、中垣繁幸さんとともに東京、大阪、名古屋を巡り、開催した「ジャパンツアー・オブ・ザ・カクテル・セミナー」。日本とドイツの違いを体感したという那須さんに直撃インタビュー。

文:Ryoko Kuraishi

東京で行われたセミナーの模様。立ち見が出るほどの盛況ぶり。

ドイツ最古のカクテルバー、「パッサーズ ニューヨーク バー」でマネージャーを務める那須孝光さん。
後編ではマネージャーとしての業務のなかで日々、心がけていること、日本とドイツのバーシーンに触れたなかで得られた気づきなど、幅広く語っていただこう。


「和」を大切にした那須さんのチーム作りは、小さな取り組みから大胆なチャレンジまで実に多岐に渡る。
例えば、それまで現場を取り仕切っていたオーナーには、店の「顔」としてゲストをもてなすことに専念してもらった。
オーナーがゲストと直接会話を交わすことで、『パッサーズ ニューヨーク バー』がどんなバーなのか、多くの人にアピールすることができるからだ。


また、オクトーバーフェス中にはビールを一切出さないという、無謀とも思える試みにも挑んだ。
そこには、「パッサーズ ニューヨーク バー」はクラシックなカクテルバーである、という自負がある。


「ビールは他の店でも提供しています。
けれど、『パッサーズのカクテル』はうちでしか提供できないものなんです。
カクテルを求めるゲストを大切にしたい気持ちと、僕たちはやっぱりカクテルで勝負したい、そんな思いがありました。
結果、そのチャレンジはビジネス的にも成功を収めたんです」


現在では週末もビールを提供しないという。
それでも、ビールの街ミュンヘンで、ビールではなくカクテルを求めて多くの人が行列を作る。

セミナーにはパッサーズ ラムを持参、東京のバーテンダーにこのラムの魅力をアピールした。

また、マネージャーの仕事で大切なのは、スタッフの本質を理解することだという。
「職人気質で個性も強いバーテンダーたちをまとめるには、まず彼らの本質を把握しなくてはなりません。
バーテンダーと一口に言ってもさまざま。
自分のバーを開く夢を持つ人、家族を養うため、職業としてこの仕事を選択した人、とにかく有名になりたくてバーテンダーになった人。


それぞれの本質を見極めて、最もその個性や力が発揮できる場所へ誘導する。
チームとはすなわち『和』ですが、その『和』の形成には核となるモノ(人間)が必要です。
それこそが、チームの中での私のポジションだと思っています。


まずはスタッフみんなの動きに目を配り、彼らが置かれた状況やその心の動きを汲み取ってコミュニケーションを図る。
もしそこに何か問題があれば、他のスタッフがバックアップできるような体制をとります。
それこそがチームであり『和』だと思っています。
スタッフみんなの個性がハーモニーとなるチームは、本当に強いと思うんです」

今回のジャパンツアーに持ってきたもの。左は昨年上梓された「パッサーズ ニューヨーク バー ブック」。

さて、去る6月。
そんな那須さんの念願であったジャパン・ツアーが実現した。
中垣繁幸さん(BAROSSA)とともに東京、大阪、名古屋でセミナーを開き、セミナーの後は、それぞれの土地のゆかりのあるバーでゲスト・バーテンダーを体験。
「パッサーズ ラム」をプロモーションしながら、日本とドイツのカクテル文化の架け橋になるべく、その第一歩を刻んだ。


「今回のツアーの目的は日本のバーテンダーに『パッサーズ ラム』をご紹介することでした。
味わい、歴史に加え、コストパフォーマンスを兼ね備えたこのラムを、ぜひ日本のバーテンダーの皆さんに知ってもらいたい、そんな思いがありました。
さらには現場の人間としてヨーロッパのバーシーンをお伝えし、情報共有できるような場を作っていきたい。
中垣さんとツアーを行うことでさらにネットワークを広げることができるのではないか、そんな風に思ったんです。
と同時に、味わいや所作、ホスピタリティに定評のあるジャパニーズ・バーテンディングに触れてみたいという思いがありました」


ほんの数週間の滞在だったが、各都市でそれぞれ何軒かのバーを回ることができ、その地域性の違いも見ることができたという。

セミナーの後はゲスト・バーテンダーとしてさまざまなバーのカウンターに立つ。

「まず感じたのは、そのサービスです。
どのバーでも精一杯のおもてなしを受け、ジャパニーズ・バーテンディングの『おもてなし』の精神を感じることができました」


また、日本のミクソロジーのレベルは既に最高レベルにあると痛感した。
ヒントになったのは、名古屋駅前で見つけた「ひつまぶしパスタ」や「豆腐チョコレート」といった商品だ。
それぞれに豊かな味わいを持つ素材を、さらに混ぜる必要性があるのか。


「豆腐は豆腐でおいしく、チョコにはチョコの奥行きがあり、2つの素材を同時に際立たせることは難しい。
けれど『カカオ100%のチョコ本来の味でありながら、カロリー70%オフ!』というものであれば、市場での差別化を図れます。


カクテルも同じで、ただ斬新な組み合わせというだけでは継続的に売ることは難しいかもしれない。
けれど、あるスピリッツをより際立たせる、このスピリッツでなければこの味は出ない、そういう組み合わせがあるはず。
そんなことを考えさせられ、非常に勉強になりました」


また、ドイツと日本では酒やカクテルの成り立ちや使い方(売り方)において根本的な違いを感じたという。

パッサーズ ニューヨーク バーのスタッフらとともに。前列左がオーナー、2015年、ドイツのアワードにて「ベスト・オーナー」賞を受賞!

「日本では戦後、蒸留設備もスキルもない中で造られてきた酒を、よりおいしく味わうために果汁や香辛料を混ぜるようになったという背景があるでしょう。
焼酎だったら水やお湯を混ぜて薄めて飲みやすくしたという歴史もあると思います。
ですから、ピュアで飲めるお酒はピュアで飲まないともったいない、ピュアが最もうまいという考えがあるのかもしれません。


ヨーロッパでも、蒸留設備の乏しいギリシャ時代から同じ様な道を辿ってきました。
しかし、質がいいからこそミックスするというのがヨーロッパの考えです。
例えて言うなら、素材のいいモデルに衣装を着せてメイクアップを施し、さらにゴージャスに見せるようなものでしょうか。


日本独特のスタイルを大切にしつつ、さらにヨーロッパの歴史も理解していただければ、カクテルにさらなるバリエーションが生まれるのではないかと思いました」


新たな視点、考え、アイデアを育んでくれたというジャパン・ツアー。
来年は東北や北海道、自身の故郷でもある九州にも足を運び、さらにパワーアップした内容のセミナーを開催したいと考えている。
「日本という国で、ヨーロッパで培った経験やスキルを惜しみなくお伝えすることが、今の自分にできることだと思います」


ドイツで奮闘する那須さんの活躍に、どうぞご注目を!

SHOP INFORMATION

Pusser’s New York Bar
Falkenturmstraße 9,D-80331 München, Germany
TEL:+49 (0)89 220500
URL:http://www.pussersbar.de/welcome-to-pussers-bar.html

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