PICK UPピックアップ
伝説のバーテンダーが作り出す、
ニッポン発の極上リキュール。
<後編>
#Pick up
デニーさん by「HOWL」
「バーは都市生活者の食物連鎖の頂点」とデニーさん。「バーはアートと一緒。なくてもいい、でもバーがなければ文化も生まれない」 Photos Tetsyua Ymamoto
星子の仕込みにはほぼ、3シーズンを要する。
毎年春に仕込みを開始、まずは収穫した梅のおいしさを最大限に引きだすための作業が行われる。
梅が収穫されるとその風味や酸味のバランスを見極めて、スパイスや甘さを調整していく。
そして秋口、晴れて「星子ヌーヴォー」のお披露目となる。
「梅は生きものだからね。年によって出来が違うのは当たり前だし、納得いかない年も多い。
でもだからこそ、ヴィンテージの楽しさがあるね」
全ての酒はヴィンテージを作るべきだ、これがデニーさんの持論。
ヴィンテージはウソがつけない。
化学実験室のような無機的な環境で生まれた酒はヴィンテージになり得ない。
デニーさんはそう考える。
実際、自然の叡智ともいえる梅の果実をまるごとと、職人の魂が注ぎ込まれた星子のボトル内では、ゆっくりと熟成が進む。
そしてヴィンテージが誕生する。
90年代の放浪の旅の記録は、ポジで6000枚(!)にものぼる。店内にはその一部が。
「初リリースの2005年は梅の出来がすこぶるよかった。
梅の出来がいいときは星子の酸味がしっかり出るんだ。
フルーツは表裏があるというけれど、その翌年、2006年の星子は実際、やんちゃでね。
それが一年たつとまあるくなって、シャトー・ディケムか?と思わせるようなエレガントな星子になった。
2010年のヌーヴォーはリリースしたばっかり。
梅の出来はイマイチだけど、そういうときの星子はとりわけジューシーになる。
まだ若いけれどおいしいものができたよ。
梅も星子も生きている。どう育つかわからない、そこに面白さがある」
こうしたリキュールを世界が放っておくわけもなく。
2009年2月。兼ねてからの星子ファンを自認するセレブリティに招かれ、デニーさんはNYに飛んだ。
「現地でサンプリングした際は、各国のハイクラスが多数、来場していた。
彼らから『どうしてクリスタルのボトルに入れて出荷しないんだ?』と不思議がられたね」
3つ星レストランでも大好評を博した。
いや、まさに。星子はそうしたハイエンドな舞台がふさわしいリキュールなのだ。
「クリスタルもいいけれど、たとえば薩摩切子とか江戸切子とか、そういう若い作家たちとコラボして『ジャパン・プロダクツ』として発表したいね」
デニーさんの夢はどんどん広がる。
星子を使ったオリジナルカクテル「星音」(¥1,500)。デニーさんいわく「見た目はイマイチだねえ。」でも味は最高!なのだ。
デニーさんのバー、神宮前の「HOWL」では、リキュールを生み出した本人がそれを使ったカクテルを飲ませてくれる。
初めてここを訪れるなら、まずは星子をクラッシュアイスでいただこう。
ミントとカットライムがさわかやかな、モヒート感覚のカクテル「星音(ホシノオト)」や
ブリュットシャンパンで割る「東風(コチ)」も絶品。
燗をしてお湯で割ればナイトキャップにもぴったりだ。
「星子はこう飲むべき、みたいな縛りがないんだ。
そんなもの、人がどうこう決めつけること自体がナンセンス。
好きなときに好きな方法で飲むのがいちばんおいしい飲み方なんだよ」
流行りの「ミクソロジスト」という言葉を否定する。「酒を混ぜるだけじゃあ、カルチャーは生まれない。カウンターカルチャーってのはここ、バーのカウンターから生まれるんだ」
温められた星子からは、えも言われぬエキゾティックな香りが立ちこめる。
バスソルトやバスオイルにしたら、さぞかしリラックスできそうな……。
事実、バスラインをリリースする話がもちかけられたこともあるそうだ。
そのときは残念ながら形にならなかったけれど、星子を取り巻く世界がぐんぐん広がって、多くの人々に愛されていくのをデニーさんは楽しみにしている。
「星子はオレの人生のカクテルの瓶詰め。
星子を通じて人と人との出会いがある。
モノ作り、つまり星子を作る作業は孤独だけれど、星子がふれあいをもたらしてくれる。
星子はオレの分身だけど、手離れした別人格でもある。
オレの嫌いな人間も含めて、飲んだ人を幸せにしてくれる、ってことは作り手であるオレもハッピーなんだよ」
アメリカ大陸放浪のころ。こうした冒険のなかに彼の原風景がある。Photo K.Kin
「日本の小さなマーケットで万人受けしてほしいとは思わない。
世界の人口の0.00001パーセントでもいい、その人たちが星子を愛してくれて、
そして星子がその人たちを幸せにしてくれれば」
デニーというバーテンダーの生き様をそのまま形にしたような酒、「星子」。
星子=スター・チャイルド、
その名前はこの星に生きとし生けるものへのオマージュである。
その一杯を味わうために、今宵も星空の下、グラスを傾ける。
HOWL | |
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