PICK UPピックアップ
極めるは、カクテルの味わい!?
フレアに吹く、新しい風。
<後編>
#Pick up
熊代綾子さん
優勝を果たした「Roadhouse World Flair-Chicks With Flicks 2017」にて。
12月10日、熊代綾子(オーリー)さんは2017年のラストを飾る大会、「ANFA THE Professional Flair 2017」に出場した。
世界で最も注目を集めるフレア・バーテンダーの一人、アルゼンチンのローマン・ザパタ選手ほか、今大会には強豪選手が顔を揃えた。
出場選手11名のうち8名はプロフェッショナル部門での優勝経験があるという。
難易度の高い、かつオリジナリティに溢れた技で会場を沸かせたローマンが優勝するかに思えたがドロップによる減点が響き2位に。
ダイナミックな技を次々と繰り出したNOAこと三宅諒さんが優勝を飾った。
熊代さんは惜しくも4位だったが、カクテルポイントはトップだったことを付け加えておこう。
とはいえ司会者も認めたように、音楽とルーティンのマッチングや一体感、ショウとしての見応えは、熊代さんのパフォーマンスが群を抜いていた。
これが世界大会でも高く評価された熊代さんの持ち味である。
バーテンダーとしてカクテルの味わいを追求すると同時に、一人のパフォーマーとしてエンターテインメント性の高い、観客を惹きつけるパフォーマンスを目指す。
これが世界のトップレベル!「ANFA THE Professional Flair 2017」でのローマン・ザパタのパフォーマンス。
「私が世界の大会に出るようになって衝撃を受けたのが、うまくてスタイルのある選手がゴロゴロしている、ということでした。
特に最近はクリエイティビティを感じさせるパフォーマンスを得意とする人が、男女を問わず増えてきているように思います。
ローマンもそうですよね、躍動感のある技の間にユーモラスな動きを入れて、彼にしかできないパフォーマンスで観客を沸かせます。
女性バーテンダーは力技では男性に劣りますが、エンターテインメント性で観客を楽しませることはできる。
しなやかさを強調したり、技と技の間を流れるような動きで繋いだり。
音楽と技のタイミングをきっちり合わせるというのも、そうしたエンターテインメント性の一つです」
今でこそカクテルの味わいと観客に楽しんでもらうことを何よりも重視する熊代さんだが、12年前、長野にあるダイニングバーでキャリアをスタートした当時は、技の出来にばかり目を向けていたとか。
「フレアは人に見せるもの、自分たちは観客あってこそのエンターテイナー」、そんなフレア・バーテンダーとしての真髄を得られたのは、身内の集まりのような小規模なものから県外の有名バーテンダーが多数参加するような大規模なものまで、熊代さんが参加してきた数々のフレアのイベントのおかげだという。
2017年11月にハンガリー・ブダペストで開催された「Fabbri Flairsupply 2017」の様子。手前はイタリアの選手。選手同士が互いを熱心に応援して会場を盛り上げるのも、海外大会の魅力の一つだとか。
「お客さんの目の前でパフォーマンスをするうちに、どうすれば見てくれている人が喜んでくれるのかを考えるようになりました。
何をどうすれば一つ一つの技がよりよく見えるのか、練習の時から常に本番を想定し、観客席と自分の位置関係を意識していますね。
ライブ感を演出するためにもアドリブと思わせるようなルーティンを積極的に取り入れています。
例えば観客と目を合わせたり、笑いかけたり。
こうしたちょっとした動作が会場との一体感を生んでくれます」
男性に比べれば技のダイナミックさではかなわないかもしれない。
けれど、音楽の使い方、音楽に合わせてよく練られたルーティン、間の取りかた、技と技のつなぎ……それらをブラッシュアップすることで高い得点も狙えるし、何よりも完成されたショウとして観客に楽しんでもらえる。
ちなみにフレアの「エンターテインメント性」、つまりショウとしての完成度は、多くのフレア・バーテンダーにとっても課題になっているようだ。
「ANFA THE Professional Flair 2017」での審査員講評でも、「音楽に合わせること」「独りよがりではなく、観客を意識したプレイ」を意識するように、というコメントがが印象的だった。
ブダペストの大会で作ったカクテル、「Aromatic Garden」。大会の指定銘柄である、日本未上陸のチェリーリキュールを使ったオリジナルだ。
さて、昨年、一昨年と2年連続して世界大会での優勝を果たした熊代さんの2018年の抱負は?
「フレア・バーテンダーとしてはさらにカクテルの勉強をしてバーテンディングの知識やスキルを上げていきたい。
勉強のためにオーセンティックバーにも足を運ぶのですが、いつも刺激を受けています。
フレアとオーセンティックを同時に行う『横濱インターナショナルカクテルコンペティション』のようなコンペにもチャレンジしてみたいですね」
大会をきっかけに海外を訪れた際は、現地の人気バーにも出かける。
それぞれの国のカクテルに対する考え方やバーテンダーのホスピタリティの違い、個性的なプレゼンテーションは大いに参考になるのだという。
「例えばハンガリーの有名なバー、『グッドスピリッツ・バー』へ行った時のこと。
クラシックなカクテルバーですが、バーテンダーのスピーディなパフォーマンスが見もの。
スローインしているバーテンダーの後ろを通りがかった別のバーテンダーがパッと指を出してカクテルを味見して、『good!』なんて言っているんです。
日本だったら考えられないようなマナーですが、カウンターに座っているお客さんにとってはエンターテインメントですよね。
バーテンダーの所作に躍動感があるから見飽きない。
カクテルバーとしての高いクオリティをキープしつつ、お客さんに喜んでもらえるパフォーマンス。
そういうところを見習いたいですね」
「Fabbri Flairsupply 2017」入賞メンバーと。
「もうひとつ興味があるのは、演出です。
他の選手のパフォーマンスを見ていて、音の使い方でもっと高得点が狙えるのに、と思うことも。
使用する音楽の編集の仕方、音楽と技の構成や間の使い方。
一つのショウとしてよりエンターテインメント性を高めるための演出について、若い選手にレクチャーできる機会があればと思っています」
2018年、フレアの世界にまた一つ波が起こりそうだ。
今年からWFA(World Flair Association)主催の大会で審査基準が変更になる。
オリジナル、クリエイティビティ、エンターテインメント、レレベンス(関連性:カクテルの内容とパフォーマンスが合致するかどうか)と4つあったカテゴリーが、今年からフレアとエンターテインメントの2つだけになるのだ。
「レレベンスというカテゴリーがなくなったことでより技の難易度が高まるのか、それともレレベンスは当たり前として技と味わいを内包するカクテルの完成度が求められるのか。
どちらの方向に進むのかはわからないけれど、大きな変化が起こりそうでワクワクしています。
どんな変革が起きるとしても、バーテンダー、エンターテイナーとして常に進化している姿をお見せできたら」
日本を代表する女性フレア・バーテンダーの、さらなる挑戦にご注目を。