ブームよりも「続ける」ことを!
マデイラの始祖のフィロソフィ。
<前編>

PICK UPピックアップ

ブームよりも「続ける」ことを!
マデイラの始祖のフィロソフィ。
<前編>

#Pick up

鈴木勝宏さん by「Leandro」

独自の加熱処理と酸化熟成により、独特の風味と香りが楽しめる酒精強化ワイン、マデイラワイン。開栓しても半永久的に楽しめるという変わり種だ。今回はマデイラに情熱を注ぐ、マデイラワインのパイオニアを直撃!

文:Ryoko Kuraishi

レアンドロのシグネチャーは、マデイラではなく製菓用のコアントローをソニックスタイルでいただく「ウツセミ」。店の前に位置する坂の名前と、源氏物語の空蟬にかけて名付けられたこちらは、「僕の下心を反映した一杯(笑)」。「21世紀のスクリュードライバー」として常連に超人気!  Photos by Kenichi Katsukawa

こちらは、知るひとぞ知るマデイラワインの聖地、「レアンドロ」。
底なしに陽気な名物オーナー、鈴木勝宏さんが迎えてくれるカフェ+バーである。

マデイラワインの品揃えは世界一を誇り、その数およそ150種。
ギネスにも認定されるほど。
それにしても、一体どうしてこんなに集まってしまったのか。


「日本ではマデイラ=料理酒というイメージが強いんですが、実は酒そのもののポテンシャルが凄まじく高いんです。
だって、3世紀前に造られた酒を普通に飲める、なんて考えられないでしょ?


うちで扱っている最古のボトルは1720年。
つまり将軍吉宗の時代の物を、そのまま口にできるんですから。
そんな『時を旅する酒』にはまってしまって、気がつけばこんなに集まっていました」

店内の壁には、ここを訪れた醸造所関係者によるサインや書き込みがたくさん。

2007年に店をオープン。
毎年、マデイラ島に渡って現地視察を行う。
そんな鈴木さんには、オープン当初からの夢が2つあった。


「一つは、かつてナポレオンに献上されたという幻のマデイラ、その実物のボトルをこの目で確認し、写真に収め、可能あれば飲んでみたい、ということ。
セント・ヘレナに流されるナポレオンが道中、マデイラ島に立ち寄った際、時の領事が1792年のブドウで造られたマデイラを一樽、献上しました。
ナポレオンはそれを口にすることはなかったんですが、その樽を1840年にBLANDY’S社(現地の醸造所)が買い戻しまして、300本のボトルとしてイギリスでリリースしたんです。
そのボトルこそ、僕の長年の夢でした。


二つ目は、マデイラワイン騎士団に認定されること。
マデイラワイン普及の功績を讃える集団なんですが、ぜひここに名を連ねたい。
そんな思いを持ってやってきました」

バーにもお勧めというマデイラ。こちらはジンの代わりにマデイラを使ったマデイラトニック(=モントニック)。アルコール度数はジントニックよりひかえめ。爽やかな飲み口、マデイラ独特の風味が生きる一杯だ。

2012年、そんな鈴木さんに大きな転機が訪れる。
この年、どちらの夢にも限りなく近づいたのに、夢目前にして破れてしまったのだ。


「2011年に、BLANDY’S社と正規代理店契約を結んだ木下インターナショナル(ポルトガルワインを日本に最も輸入しているインポーター。マデイラ島のワイナリーの一つ、BARBEITO社の共同経営者でもある)の木下康光社長のお力添えで改めて調べてみたところ、すでにナポレオンのボトルはなくなってしまったことが判明しました。


マデイラ騎士団の方も、既存メンバーの推薦があれば騎士団になれると聞いていました。
2012年、木下インターナショナル主催のポルトガルのワイナリーを巡るツアーへの参加をきっかけに、同行されていた木下社長と懇意にして頂けるようになったんです。
日本はおろか、東洋で唯一のメンバーである木下社長に推薦いただけることになったんです!
が、理由はいまだにわからないんですが、それでもやっぱり認められず……。


そんな二つの挫折を味わって、これまでの自分は浮かれていたのかもしれないって、それまでのマデイラとの向き合い方を見直すことにしたんです」


そんな自省の念からスタートしたのが、現地醸造所での研修だ。
木下社長に相談しながらマデイラ島のBARBEITO社に掛け合ってみたところ、ブドウの収穫シーズン中に研修生として受け入れてもらえることになったのだ。

レアンドロの”リーサルウェポン”、3世紀前のマデイラがこちら。左から1720年、1760年、1780年、1795年。「劣化しないと言っても、味のピークはもちろんあります。1720年はピークを少し過ぎちゃった感じ」と鈴木さん。

「マデイラがどうやってできるのか、そのプロセスにそもそも興味がありました。
そしてマデイラ島で実際に造ったことのある日本人は一人もいないという事実も、僕にとっては重要でした。
マデイラ島の視察を毎年行い、ギネスももらった、そんな自分は日本人の中でのマデイラの経験値はかなり高いと思います。
それでも、日本でマデイラの良さをきちんと知ってもらうためにはさらに、『造る』という経験も必要だって感じたんです」


受け入れ先の選定から現地との交渉を経て、昨年ようやく研修が実現。
56歳での初挑戦、前向きな気持ちはあるけれど、言葉も勝手もわからない中での研修はなかなかハードだ。
さすが繁忙期、朝8時半から始まる作業は時に深夜にまで及び、初めの2週間は体力的にもかなりきつかったという。
それでも3週目ごろからは少しずつ現場の雰囲気にも馴染み、醸造所ならではの活気と作業を楽しめるようになったそう。


「酒を扱う以上、造るというプロセスを肌で知っていることは強みだと思います。
もちろん、醸造所研修は今後も続ける予定で、次回の研修は来年を予定しています。
実はJUSTINO'S社での研修を狙っていて、去年、現地で視察した時には『きみのために3週間のプログラムを組んでやろう』と言質をもらいました。
あとはBLANDY’Sで2週間、BARBEITOで1週間、トータル3つの醸造所で働かせてもらおうと画策中」

マデイラ自治州の州旗が目印。いつでも飲みに来て欲しいからと、現地視察時期以外は年中無休でオープン!

また、今年6月には前出の木下社長の「(料理酒だけではなく)ドリンクしてのマデイラの文化を、ここ、日本から発信していこう!」という熱い思いに共感した、全国のカフェやバー、レストランで作る「クラブ・マデイラ」も発足。
鈴木さんは副会長に就任した。
札幌、埼玉、東京、京都、兵庫、徳島、福岡、長崎と、各地で精力的に活動するオーナー、バーテンダーと情報交換を行いながら、マデイラの魅力を広めるべく地道な活動を繰り広げている。


そうした鈴木さんの活動に伴い、「レアンドロ」のラインナップにも少しずつ変化が生まれているとか。
以前は鈴木さんが「飛び道具」と表する、キャッチーなボトルを数多く置いていた。
現在もそうした古酒は扱っているが、マデイラの良さをキチンとわかってもらえるもの、日常の酒として楽しめるベーシックなボトルこそ大切だと考えるようになった。


紆余曲折を経て、自らの足元を再び見つめたこの4年。
果たして鈴木さんがその先に見つめるものとは……?
後編では2020年を見据えた、鈴木さんなりのプロモーション・プランをお伝えしよう。


後編に続く。

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