空間のプロが教えます!
バーの最旬インテリア。
<前編>

PICK UPピックアップ

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#Pick up

尾崎大樹さん by「BaNANA OFFICE」

いいバーを作るのはそこに集う人、お酒、そして醸し出されるムードである。ムード作りに大きな役割を担うのが空間デザインだ。今回は店舗デザインのプロを招き、居心地のいいバーの空間作りを考えた。

文:Ryoko Kuraishi

重厚なレザーの椅子、寄木細工が美しいウッドのカウンター。「バーにいらっしゃる方が直接、触れられる場所には上質なものをあしらいます」。銀座のタパス&レストラン・バー、CASA AfeliZ GINZAより。

今回ご登場いただくのは、いま注目のインテリアデザイン会社「BaNANA OFFICE」を率いる尾崎大樹さん。
新宿にオープンする商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」内、フードホールのパブリックスペースなど、多彩な店舗を多数手掛ける気鋭のアートディレクターだ。
バーやダイニングなど飲食店における空間作りのポイントを、早速尾崎さんに伺ってみよう。


店舗デザインにおいて最も大切なのは、その空間の趣旨やコンセプトを生かすこと。
商業デザインである以上、オーナーがその場でどんなビジネスを展開しようと考えているのか、そのモデルを明確にすることが必要でありであり、デザインはそれをビジュアライズするものだと考えている。


「バーをデザインする際は、お酒を飲むだけなのか、それとも軽く食べることができる場所なのかを確認します。
目的によってアプローチも異なります。


食事もできるダイニングバーというコンセプトなら、バーをどういう位置付けで展開するのか。
ウエイティングバー的な立ち位置なのか、バーだけでも立ち寄れるのか、
お酒だけを提供するバーなら、一人でじっくりお酒を楽しむ場所なのか、それともバーテンダーとの距離感を楽しめる店なのか。
さらには年配の客層に向けてしっとりとした空間を求めるのか、楽しく酔える開放的な空間を目指すのか。
打ち合わせを重ねてお店の方向性を探っていきます」

手仕事を感じさせるディテールやあしらいも近年のビッグトレンド、今年も継続して人気だ。こちらは、ワイン酒場DiPUNTOのために製作したオリジナルチェア。

特に年配の客層を意識した店では、「居心地の良さ」が重要なファクターになる。
仕事を終えた後のリラックスしたひと時に、腰を落ち着けてじっくりと飲みたくなるのはどんな場所なのか。
レイアウト、天井の高さといった全体的な設えから、バーテンダーとの距離感にも関わるカウンターの長さや幅、壁面の質感といったディテールの作り込みまで、店舗オーナーとの綿密な打ち合わせからその店なりの「居心地の良さ」を突き詰めていく。


「特にバーは大人がプライベートな時間を楽しむ場所ですから、『上質感』を意識して作り込みます。
若い客層と異なり、大人は目が肥えていますから。
そういう層をターゲットとする店舗では、バーのように照明を落とした場所であっても『ニセモノ』はすぐに見抜かれてしまいます」


とはいえ店舗設計では予算というハードルもある。
例えばアンティークの重厚さをコンセプトとした店舗であっても、すべてをアンティークでまとめられるほどの予算がない場合、「上質感」、つまり本物ならではの重厚さをどう表現していくのだろう。

3月にオープンしたばかり、中目黒の北京ダック専門店「北京ダックモンスター」。高級食材の北京ダックをカジュアルに楽しむという店のコンセプトを、モダンなファサードや外観が表している。

「お客さんにとって身近なディテールを『本物』でまとめるんです。
例えばレザーの椅子のスムースな質感、重厚な木のカウンターの木目の表情……座って、見て、触れて、というアクションに関わるディテールに上質なものをあしらうようにする。

その分、予算をかけられないパーツも出てきますが、全体のムードは『本物』をキープしたまま、メリハリをつけるんです。
それがプロの手法です」


さて、このところの店舗デザインのトレンドといえば「クラフト感」である。


「最近は何か一つのジャンルやアイテムに特化する店舗が多いですね。
例えば熟成肉の専門店、スペシャルティコーヒーのみを扱うコーヒースタンド、バーだったらモルトバーやラムバーなど。
そうしてジャンルを絞っておいて、デザインには手作り感、クラフト感で人の手のぬくもりや自然体のムード、肩肘張らない気楽さを演出。
きっちり丁寧に作りこむというより、どこか不揃いだったり、塗装がハゲていたり、手仕事ならではの味や抜け感を添えることで、親しみやすさが醸し出されます」

こちらは商業デザインではなく、尾崎さんが手がけた個人宅。壁や天井を剥がしたミニマルな造りに、アンティークの家具が味を添える。商業デザインよりデザイナーの個性がはっきりと現われるが、尾崎さんが考える「居心地の良さ」が随所に盛り込まれている。。

クラフト感の演出には様々な手法があるが、職人に頼らずクライアント自らが手を入れたり、自分たち好みにアレンジしたり、セルフカスタマイズを楽しむ施主も少なくない。


一方で、クラフト感を打ち出すトレンドへのカウンターなのだろうか、あえてオーセンティックにつくり込む店舗もちらほら見受けられるようになった。


「細部まで丁寧につくり込んだ、オーセンティックな空間作りという依頼も増えてきている気がします。
アメリカでも一昔前のヴィンテージの重厚感を打ち出した空間が人気ですが、現代的なクールさよりも古くて重厚なスタイルの魅力を再発見していく方向でしょうか」


後編では尾崎さんのデザインソースを紹介するとともに、実際に手掛けた物件をケースタディとしてご紹介いただこう。

後編に続く。

SHOP INFORMATION

BaNANA OFFICE
東京都港区赤坂8-5-40ペガサス青山510
TEL:03.6434.9341
http://bananaoffice.jp

SPECIAL FEATURE特別取材