心とろけるマリアージュ!
お酒とチョコのあまーい関係。
<前編>

PICK UPピックアップ

心とろけるマリアージュ!
お酒とチョコのあまーい関係。
<前編>

#Pick up

宮原美樹さん by「ショコラティエ・ミキ」

室温では固体なのに、体温で溶けて液体になる不思議な食べ物、チョコレート。今月は「テオブロマ・カカオ」(=神様の食べ物)に魅せられた名ショコラティエールに密着。甘い誘惑の秘密に迫る。

文:Ryoko Kurahishi

ショコラティエ・ミキ定番のボンボン・ショコラは、季節限定のフレーバーも含めて常時9種がラインナップ。フレッシュなローズマリーの香りとキャラメルがマッチする「キャラメル ローズマリー」、フレッシュスペアミントとレモンの爽やかなコンビネーションの「ミントレモン」など、各¥250。

革新的なアイデアや技術、丁寧かつ繊細な職人技が、世界中のグルマンから注目されている日本のチョコレート。
「サロン・デュ・ショコラ」では若き日本のショコラティエたちが話題となり、フランスやベルギーのトップメゾンと肩を並べて評されるような名店やショコラティエも現れるようになった。


2016年、最初にご紹介するショコラティエール(女性チョコレート職人)、宮原美樹さんもその一人だ。
千歳烏山の住宅街の一角に自身のショップ、「ショコラティエ・ミキ」をオープンしたのが9年前。
本人自ら「世界でいちばん小さなショコラティエ」というショップは、商品カウンターと小さなテーブルが2卓のみ。


2008年、パリで開催される世界最大級のチョコレートの祭典、「サロン・デュ・ショコラ」に数少ない日本人ショコラティエとして初出展。
なめらかな口溶け、ガナッシュとチョコレートの繊細なバランスは、「世界屈指のボンボン・ショコラ」と高く評価された。
フランスで発刊されているショコラ専門ガイドブック『LE GUIDE』(2013年)にも、日本を代表するショコラティエとして紹介されているほど。

店頭に並ぶのはコーヒービーンズにチョコレートをコーティングした「マンデリンショコラ」(50g¥590〜)、「スペイン産オランジュのチョコレートがけ」(3枚入り¥1,330〜)など。

宮原さん、チョコレートのおいしさの秘訣って?
「ズバリ、鮮度です。
ショコラは生ものですから、フレッシュであればあるほどおいしいのは当たり前。
カカオバター以外の植物性油脂が入っていない、上質なフランス産のクーベルチュールを用い、チョコレート専用に温度・湿度を管理した部屋で作って管理しています。


原料となるカカオ豆の産地はベネズエラ、エクアドル、トリニダード島、ガーナ、インドネシアなど。
産地によって特色のあるチョコレートをブレンドし、芳醇なカカオの香りと繊細な口どけが楽しめるボンボン・ショコラに仕立てるんです」


さて、「ショコラティエ・ミキ」のファンが楽しみにしているのが、たっぷりのスピリッツやリキュールを使った大人の味わいのボンボン・ショコラ。
とくに、週替わりで展開する「週末のお酒」シリーズのトリュフには、ラニョー サブラン20年のコニャックやドメーヌ・ボワニエル1984年のアルマニャック、アドリアンカミュ・ラルーテのカルヴァドス、ドン・フラーノ・ブランコ&ドン・フリオ1942……と、ハイスペックな銘酒が使われている。
「トリュフ」のイメージを覆す、骨太かつクールなマリアージュは酒飲みからの評価も高いとか。

「週末の酒」シリーズに使われている、宮原さん秘蔵のボトル。キッチンの奥にはまだまだたくさんのボトルが並んでいる。

「もともとお酒は好きで、ワイン、カクテル、ジャンルを問わず飲むほうです。
とはいえ、蒸留酒の奥深さを知ったのは渋谷のバー、『ドンナ・セルヴァーティカ』の古屋敷さんのおかげ。
それまで蒸留酒には『強い、キツイ』という誤ったイメージを持っていたんですが、コニャックの繊細で透明感のある味わいを知って俄然、興味を持つようになりました」


以来、バーに通ってさまざまな蒸留酒、銘柄を飲み比べるように。
いろいろ試すうち、自分の好む味わいの傾向がわかってきた。


「コニャックだったらラニョー=サブランやマルセル・ラニョー。
力強さよりも女性らしさを感じさせる味わいですね。
お酒を知るほど、こういうお酒を使ってボンボン・ショコラを作ってみたい!そんな気持ちにさせられたんです」


まず取りかかったのは、すでにショコラティエ・ミキの顔として人気を博していた、ブランデーのトリュフ。
試行錯誤を重ねた結果、ジャン・フィユーのトレ・ヴューに落ち着いた。
長期熟成のコニャックならではのエレガントな香り、味わいが口の中いっぱいに溢れてくる、大人の味わいのボンボン・ショコラに。


やがて、「完全に自分の趣味の世界(笑)」という、「週末の酒」シリーズが始まる。
毎週水曜日、週末のリリースに向けてガナッシュを仕込むのだが、使う酒に決まりはない。
「季節感もありますが、そのときにピンときたお酒を使っています」

2008年、初めて「サロン・デュ・ショコラ」にブースを構えた。「納得のいくボンボン・ショコラを作って、もう一度参加してみたいですね」。

「週末の酒」シリーズのベースとなるチョコレートは、草原のような爽やかな香りにキャラメルのようなコク、芳醇な土壌を感じさせるミルクチョコ。
そこにスピリッツやリキュールを合わせていく。


たとえば、秋の定番であるラムレーズンのトリュフは、ネイソンラム エクストラビューに漬け込んだ、自家製のラムレーズンをガナッシュに。
収集家の好意によりグラッパの伝説的な造り手、ロマーノ・レーヴィの希少な一本を分けてもらったときは、「人生で特別な一粒になった」というグラッパのトリュフを作った。


カルヴァドスのトリュフには、「長期熟成のあの香りが欲しいから」と、アドリアン・カミュ ラルーテを惜しげもなく使ってしまう。
「50年熟成の古酒をショコラに使うなんて!と言われますが、『趣味の世界』ですから、ショコラとお酒の主張がシンプルに伝わって、おいしく食べていただければそれでいいんです」

ネイサンラムで漬け込んだラムレーズンのボンボン・ショコラは、大人向けの仕上がりに。

こんな風にお酒とショコラのマリアージュを楽しみながら発信していた宮原さんのもとにある日、一つのプロジェクトが舞い込んだ。
日本テキーラ協会、日本ラム協会、そしてドンナ・セルヴァーティカとの共同プロジェクトとなる「マリアージュ・ショコラ」。


主役はテキーラ、ラム、コニャックにアイラモルト、ブルゴーニュの赤ワインにシャンパーニュと6種の酒。
その味わいを引き立てるためのチョコレートを作るという。
ショコラティエ・ミキのボンボン・ショコラと異なり、チョコレート自体にアルコールは含まれない。
あくまでも「同時に味わう」ことを想定して作られるチョコレートだ。


それぞれ個性のある酒を、宮原さんはいかに料理したのか?
後編では「マリアージュ・ショコラ」のラインナップを例に、マリアージュのコツを伝授する。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

ショコラティエ・ミキ
東京都世田谷区南烏山4-9-11
第2アベニューハウス001号
TEL:03-3300-1277
URL:http://www.choco-miki.com

SPECIAL FEATURE特別取材